どうしてわからないのか。
それはどこがわからないのかわからないからだ。
しかしそんなことを言ったからといっても先生は許さない。
全くりふじんだぜ、虎丸は賢ぶって言ってみたが、理不尽を漢字で書けない。
虎丸は馬鹿で、そして女子高生である。更に言えば巨乳な女子高生である。
しかし救いようが無いほど馬鹿である。
馬鹿な子ほどかわいい、ある男の話。



伊達に睨まれながらならば虎丸も宿題を済ませない訳にもいかない、効果を期待したわけでもないがともあれ宿題を開き、計算を一から始めていた。
計算は虎丸、大の苦手である。
「うーん…うーん…」
どうしてわからないのか。
まず問題がどうしたいのかわからない、虎丸はいつも思っている。
しかしテキストがつけた道筋を順繰りにたどれば、四則計算を間違えない限り虎丸だって正解を導く事が出来る。
必死に賢明に、伊達の部屋のローテーブルにかじりついて虎丸はがんばっている。
彼氏の伊達と言えば、虎丸の後ろのソファに寝転んで本を読んでいた。これが虎丸、送り仮名ぐらいしか拾えないほど難しい字の、細かい字の、やたらめったら 難しい文庫本をすらすらと読んでいた。一本に繋がった虎丸のと違って、さして手を入れなくてもしゅっときれいなまゆ毛の間にうっすら皺があるのが、なん じゃエロいなと虎丸は思っ ている。
虎丸が宿題を始めてから既に一時間は経っている。
伊達が文庫本から視線を上げた、虎丸は背中を丸めてウンウン唸っている。
モサモサ膨らんだ鳥の巣を絞ったような一つ結びの後ろ頭はいつ見ても鬱陶しい。伊達はむっつりと口を結んだ。
セーラー服の後ろ姿のなんと野暮ったいこと、おまけに短い指を両手十本使ってヨチヨチと計算しているその不恰好さ。たまらず伊達は身体を起こした。

「いつまでかかってんだ」
「も、もーちょいじゃ」

伊達がするりとソファから尻ごと滑り降りる。虎丸の身体が伊達に前へと押しやられ、出来上がった隙間に伊達が滑り込んだ。
虎丸の肩越しに後ろから伊達がローテーブルを覗き込む、と、そこには白いチラシの裏一面に虎丸なりの試行錯誤が見られた。試行錯誤の成果といえば、虎丸の 手の横を銀色がかった黒に汚し、丸めたらジャン黒灰のガリアンほどになりそうな大量の消しカス。
呆れた。伊達は盛大に呆れた、並んだ支離滅裂の計算式にも、ところどころにある九九の筆算も、それから猫髭のある男の似顔絵にも。
「馬鹿にも程があるぞ」
「うるせぇやい」
虎丸の後ろから、その身体を挟むようにして伸ばした足がちょうど、虎丸の伸ばした足と長さを同じくしている。
小柄ではない虎丸、そのぶん足が短い。
短いし農耕民族的な太い脚をミニスカートから出すのは公害じゃねぇのか、つねづね伊達は思っていた。

「算数苦手なんじゃ」
「数学だろうが。いつまで中坊やってやがる」
「うう」
「英語は」
今日はエーゴとサンスー終わらす!それが勉強を始める前に虎丸がした宣言だった筈だ。
「……まだ」
「遅ェ」
「苦手なんじゃ」
「てめぇに得意なことがあったかよ」
「……い、イロイロあるわィ」

そうまで言われてしまうと虎丸、言い返しながらも空気が抜けたように萎んでしまう。
こんなはずではなかった、宿題をチャンチャンと片付けて伊達をアッと言わせ、それから二人で牛丼でも。そんな計画を立てていたのが台無し。
伊達とどこかに出かけるのも好きだが、虎丸はこの、伊達の部屋にいるのがとても好きだ。和んでしまう。

「イロイロ…なぁ」
疑わしげに伊達が息をついて、虎丸のもみあげを揺らしていく。
イロイロを具体的に挙げろ、そう言われたら早飯と早寝早起きとそれから何かあったろうか。今度こそ虎丸はぺしゃんこになってしまいそうな予感がする。
「…あったな、イロイロ」
「おう!?」

ホントか、伊達!やっぱおめえはわしのカレシじゃ!期待燦然と輝く顔を上げた虎丸。その胴へ伊達の腕がするりと回って、腹のあたりから這い上がる。

「ああ、例えば…」

セーラーの夏服の上から伊達の手のひらが虎丸の胸を下から鷲と持ち上げた。たっぷりに重たい胸を手のひら全体で大きくこね回しながら、伊達は唇を虎丸の耳 へ寄せる。

「飯食った分が全部ここに行くんだなてめぇは、頭まで届いていねえのか」
「わ」

伊達の唇はひどく冷たくて、虎丸が首をすくめる。そこへもって伊達は繰り返し鼠鳴きの音を立てて耳をついばむ。
ぎゅう、と膨らみを掴む指先に力が入った。伊達の指はすらりと長い、しかしその手のひらですら虎丸の胸は掴みきれなくて余る。下から幾度もすくい上げるよ うに揉んでやるとたまらず身体をよじった。

「ぶあ、だ、だて、うぁ、」
「何だよ」
「え、エロい事すんのか?」

その言い草に伊達がふふふと笑った、笑った吐息がそのまま耳へ注がれる。その笑い声すらエロい、伊達はエロい、虎丸はそのエロさに大きな胸をばくばくさせ ていた。
伊達は笑ったままセーラーを捲り上げられると、裾を虎丸の間抜けに開かれていた口へと噛ませる。

「ふぼっ」
「どうしようもねえな、これが人の家に来る下着かよ」

中学生の頃から使っているような、洗濯毛玉の浮いたいかにも肌着色の下着を伊達が咎めた。口に突っ込まれた布地を吐き出して虎丸が言い返す。

「せ、先週来た時は超スケスケの着とったし!」
「へえ」

ハナから小ばかにして信じていない口ぶりに、虎丸は更に怒る。

「本当じゃい!」
「わかったわかった、次はそれを見せるっていうんだな?」

虎丸がウワァと紅くなる前に、伊達の指が下着越しに滑らかに動き出した。重みを楽しむようにぐむぐむと揉み立て、サイズのまるであっていない下着の中へ時 々気まぐれに薬指が忍び込む、乳首を伊達の指が掠めれば虎丸が震えた。

「わっ…うわわわ、伊達、おめ、エロい…」

止めようと伸ばした両手を逆に捕まえられ、自分で揉んでみろとでも言うように手のひらを開かされて自分の胸へ押し当てられた。重なった伊達の手のひらが意 地悪く上から力を加える。自分で揉むような事はしない虎丸にはそれがたまらなく恥ずかしかった。
伊達の右手が唐突に去った、だのにどうしてだか虎丸の右手は自分の胸を一定に揉んだまま離れない。
おかしい、どうしてだろうか、
どうしてわからないのか、それすらわからない。

伊達の右手が顎をとらえ、虎丸は首を無理に後ろを向かされた。待ち構えていた伊達の唇が、虎丸の唇を襲う。
「ん゛んーっ!」

舌を絡めるのだということは虎丸もわかる、しかし指先が不器用ならば舌も不器用。逆に指先が器用な伊達など、舌さえもが自由自在。虎丸が咳き込まない程度 に追い詰めて、寸前で息継ぎを挟んでくれる。その間も伊達の左手は虎丸の胸を蹂躙していた。

突然、搾り出すような力具合で伊達が虎丸の胸を揉んだ。親指と人差し指は当然のように乳首を押しつぶして弄んでいる。
キスどころではない、虎丸が叫ぶ。

「っうあ、んあ、った、いた、ってええええっ!!」
「うるせえな、でかい声出すんじゃねえ」
濡れた唇を舐めつつも、伊達はつとめて腹の立つほど冷静。

「おっぱい潰す気か!ばか!」
「少し搾ってやれば、頭にその分回るんじゃねぇか」
「なわけ、あるかぁ!」

伊達流の、趣味の悪い冗談だ。しこりが強くなった乳首に爪が軽く触れ、かりかりと爪弾く。

「いっ、いた、いてっ、…伊達!」
「痛くて濡れるか」
「ぬッ……!?ばっきゃろう伊達、おめえなんだってそんなにエロいんじゃ!」
「ゆるゆるの癖に考えてんじゃねえよ、とっとと流されろ」

虎丸が真っ青になった。
「わ、わしってゆるゆるなの!!?」
ああ馬鹿だ。
ああ馬鹿だ。
馬鹿で、なんてかわいい。

愉快そうに伊達は笑い、アタマがな――そう言ってやった。
伊達は優しい男で、そして虎丸の彼氏である。