傷が悪辣に笑う。

「人を縛った事はあっても、縛られた事はねぇようだな…先輩?」

椅子に腰かけた羅刹の胴を、ぐるりに鋼鉄よりも丈夫なロープが背もたれごと縛り付けている。

かつて自分が戦いの最中伊達の動きを封じたロープは、今や羅刹の身体をシャツの上から拘束して離さない。

力を込めても切れぬ事は羅刹自身が一番よくわかっていたが、だからと言って抵抗を諦めようという気にはなれなかった。

「伊達、貴様いい加減にしろッ!」
「いい加減?…『イイ』加減の間違いだろう」
獰猛に眼を剥いて怒鳴り付けた。正に鬼神のごとき羅刹の怒号をそよ風に受け流した伊達は、はりつめた羅刹の太ももの上へ向かい合わせに跨がった。
両足もしっかりと椅子の脚に固定されて、蹴飛ばすことすら叶わぬ。

一纏めに椅子の背もたれへまとめられた手首を捻る、びくともしなかった。
厚い胸板をつき出すようにして、今や羅刹は噛み殺さんばかりの眼を向けている。
伊達はまるで構わぬ様子で、羅刹の頬を撫でた。指でではない、鋭利なナイフでである。

「……流石に死天王だな、心臓がさほど興奮してねぇ……まだ」

空いた左手は羅刹の左胸へ触れている、ロープ同士が食い込んで筋肉による人工的な、息づく乳房がささやかにあった。
それへぞろりと視線を投げた伊達が笑み深く卑猥に舌なめずりをする。

「……貴様、今なら」
「赦しを請うと思うか、俺が」

言うなりナイフが一つ一つシャツのボタンを切り落とした、伊達の指がロープに邪魔されながらも無理矢理シャツの前をこじ開ける。
黒いタンクトップにしっとりと薄く汗をかき、呼吸に上下する胸。興奮にか勃起したせいで、乳首の在処がすぐにわかってしまう。
伊達のナイフの尖端が、ごくごく軽くそこへ宛がわれる。
胸板が緊張した、流石に羅刹の頬もひきつる。

「……」

ちくん、と痛みと痒みとの中間程度の刺激に羅刹の太い眉が寄った。
満足そうに伊達は笑い、今度は指先と爪でもって、執拗にぷくりと勃起した乳首をタンクトップ越しにいたぶりながら宣言した。

「う」
羅刹が息を吐いた、すかさず伊達が爪を立てる。
「なんだ、いかつい顔してココがいいのかよ」
「貴様ッ」
かっと羅刹の頬が赤を越して黒くなった。軽いあぶくのような笑いで伊達がそのにらみを弾く。
タンクトップの生地の上からやんわりとしかし繰り返し乳首を探りながら、伊達が宣言した。
伊達の宣言は宣告である、彼は有限実行の人間である。

「……躾てやるぜ、アンタをはしたないメス犬に」
「――ッ!!」


かっと怒りに目の前が真っ赤に染まる、ぶるぶると震え出した羅刹の眉間に伊達は唇を落とす。

それは花びらよりも柔らかであった。