甘いものを赤石は好んだ。
バテない。力になる。熱になる。
だから味をとやかく言った事は無い。
悪甘いようなものでも結構だった。
ざらめを手のひら一杯、口に入れるのを赤石は好んだ。
口の中がざらざらとして、上顎が擦り剥けたようになる。
嫌いでなかった。
「あ、ンだ、これ、おい…っ!」
久しぶりに抗議の声を上げたな、赤石は富樫の顔を珍しく覗き込む。
目尻はまだ濡れていない、それは赤石にとってなにかしらの苛立ちを生む。
すぐにいつものように目尻から頬をびちょびちょと、みぞれが解けた後の汚らしいようにしてやりたいと思う。
赤石は一瞬富樫の目を睨み付けたが、すぐに富樫の胸へ顔を伏せた。
最初は裂けたり死んだりしないように、尻穴をほぐしてやる事だけはした。
富樫がいったかどうかは赤石、考えていない。自分が気持ちよくなろうとしているのに、どうしてそんな余計な事を考えていられようか。
だが繰り返し富樫と寝るうちに、色いろと面白い事に気づく。
女のように乳首が弱い事。これは本当にお笑いで、しつこく指で虐めてやるとひんひんとすすり泣く。
そしてひんひんと泣き出したら油風呂の根性はどうした、そう更に言葉でいたぶってやる。そのうちもっともっとと鳴くかもしれない。
それは少し気色が悪そうだが、案外面白いかもしれない。
極まってくると富樫は睨む。
キツ、と赤石を睨む。その睨み方がまたいい。
睨むのがせいいっぱいだとわかっているから、睨み方もやりきれなさが漂っていていい。
最初バカだボケだと罵っていた声が次第にぶるぶると震えて、最後は何がなんだかわからないような喚きを撒き散らし、屈服を歯軋りしてくやしがりながら赤石
の肩へ汗まみれの額をこすり付けるのは、なんだかいいと思った。
伊達ではないが、サドっけがあるのかもしれない。それならこいつはマゾなんだろうか、ぼんやりと赤石は富樫を攻略しながら見下ろした。
いつも手間のかかる押し問答が今日はやけに短い、赤石が富樫の肌を舌でべろべろとなめまわしてからである。
ははあとうとう堕ちやがったか、
赤石はどこかつまらないような気持ちになった。
従順な女を抱くのなら、もっと見栄えのいいのを抱く。もとより男に手を出さない。
この富樫という男を抱くのは、グッと奥まで押し入って顔を近づけた時この男の眼にギラギラと光る生臭い男の命を見たいからだ。
桃や伊達、ああいう男達とくらべても格段に弱いはずなのに、魂だけは一丁前に騒ぐ。
武術や実力ではない魂の輝きを全て間近で手にとって弄べるのが赤石にとって楽しみである。
「て、ッメェの、ベロ、んじゃ、そりゃあ…!」
ベロ、赤石は言われるがまま富樫の肩口から首筋へ舌を這わせた。風呂を使ってきたのだと分かる火照り。呼べば来た、それも風呂に入って。
クセになっちまってるのか、
どちらのことなのか。赤石はフフフと喉を太く笑い含ませる。
首筋を舐め、耳を齧る。甘噛みなんて軟弱の似合う男ではない、ガブリとやった。
「あッ」
ひくんひくんと富樫のまぶたが震えた。早い、赤石はどうしたことだろうと不思議に思う。
まださしたることもしていない。
あまり考えて楽しい事でもないし、考えてやるような男でもない。赤石はずぶりと富樫の尻へ指を突き入れた。
「んがッ!!うぐ…ッギ……い、いて、いてぇッ!!」
おとついもしたのだ。処女でもあるまいに何を痛がる事がある。そんな余計な恥じらいに興奮するような事もない。
赤石は無遠慮に尻の中を大きくかき回し、あまり痛いフリをするなと咎める気持ちで首筋を噛んだ。
「ウッ!……さ、さっきからテメェ、ザリザリ…何してやがんだよ」
はあはあはあ、
仰向けに転がして衣服を剥いた富樫が睨んでくる。赤石が望んだ通りに目じりがびしょびしょと汚く濡れていた。
だがあんまりにも早すぎる。
「……ザリザリ?」
「ッだよ、てめぇのベロォ、ざっ…あ、うあ、指も…ッ!!」
言われて赤石、ようやくザリザリの正体に気づく。
さてヤるかと腰を上げた時にざらめを手のひら一杯に食べたのだ。そのざらめが舌に残って富樫の肌をざりざりと鋭く撫で回し、指に付着していた分が中の粘膜
を掻き乱したのだ。
ははあ、
赤石はにんまりと獰猛に笑った。またひんひんとあえかに泣かせてやろうと胸へそのざりざりとした舌をあてがう。
まるで止める無さそうな赤石に、富樫は膝蹴りを試みて逆に酷く責められた。
やけに肌が甘いと思った。
やけに肌が甘いと思った。
やけにくせになりそうな味がすると思った。
やけにいい反応をするかと思った。
凶暴な睦言を口にした。何故だか響きは甘かった。口に含んだざらめのせいだと説明付ける。
「……貴様をナマスに刻んで、砂糖漬けにしてやろうか」
それを舌で一粒残らず舐め取るのだ。
それはとても面白そうだと思った。傷口に砂糖の角が入りこんで痛いだろう。
「な、何言っ…ア、んうああああっ!!」
わけがわからない、そう言おうとした富樫は後あと後悔することになるひどく恥ずかしい嬌声を上げた。