「貴様の誕生日がいつかは知らん、が、ケーキを貰ったから祝ってやろう」
わざわざ桃の誕生日にそういう事をする羅刹がいけない。
誕生日の祝いの席に招かれながらも、そうした席を好まないで断った伊達。そんな伊達を気づかったか、哀れんだか。
一人は寂しかろうと思ったか。
ともあれのこのことやってきて、ついでのように差し出されたケーキの生クリームの白さ。
あまったるい脂肪の塊、砂糖の山、
酷く苦々しい気持ちでそれを伊達は受け取った。
「お気遣いどうも、……上がってくれよ」
わずかの戸惑いの表情を浮かべて羅刹を見れば、伊達が照れているとでも思ったかほっとしたような、父親のような顔で笑っていた。
産毛が逆立つような渦巻く感情は怒り。
貰ったといったくせに、伊達の名前の刻まれたチョコレートの板飾りがのったケーキ。
伊達の怒りは更に深まる。
こんな嘘すぐにバレそうなものなのに。
そしてバレることぐらい、気づきそうなものなのに。
それだけ、好意であるとひけらかしたいのか。お前のためにしたのだとわからせたいのか。
「……ム、」
伊達がプレートを見つめる視線に羅刹が気づいた。しまった、と言うように頭を掻いてみせる。仕事の後によったせいか、整髪料で整えられた短い髪の毛。
羅刹の太く節の目立つ長い指が髪の毛に滑る様を伊達は眺めている。
あの短い髪の毛を握って、自分の物をくわえさせたことなど数え足りない。それどころか耳を千切らんばかりの力で掴んで頭を揺さぶったこともある。
それでも羅刹は一度たりとも伊達の物へ歯を立てたことはなかった。恐怖による服従ではない、目の前に突き出されて一度は拒むも、最後には頬をくぼませるほ
ど力強いディープスロートで射精を促すほどだ。鼻息荒く伊達の陰毛に顔を突っ込まんばかりにして伊達のペニスをくわえる羅刹は醜かった、そして、
恐かった。
いつ噛み千切られてもいいようにと最初伊達の尻はひどく緊張していた。噛み千切られる前に頭を張り飛ばせなければ終わりだとロシアンルーレットのようにが
けっぷちに立った高揚感を味わっていた。
だが羅刹はいつまで経っても伊達のものに歯を立てようとはせず、
「飲めよ、先輩」
うわずりを隠せなかった伊達の命ずるままに伊達の精液を飲んで見せた。むせ返る羅刹の腹を蹴り、呻いたところへ跨って額へキスをしてやった。
次第にエスカレートしていく行為、自分が快楽を求める以上に、羅刹を辱めるような事を伊達は繰り返した。
狂気じみている、AVのようだ、端から見ればなんと滑稽な。
しかし伊達は繰り返し繰り返し羅刹を辱めた。
「だってアンタが来るからだ、物欲しそうな顔をして」
違うと羅刹が言うたびに、羅刹の萎えたペニスを踏んだ。羅刹が仰け反るたびに笑って、痛みを与えて、
気を失うまで攻め抜いてから涙を舌で拭ってやる。
恐かった。
伊達は恐れていた。
終わりの無いチキンレースは無い。
羅刹の口に手づかみで千切り取った大振りのケーキの塊を突っ込む。甘いものが嫌いだった羅刹の顔が歪んだ、
(嫌いだって言ってたな、……それとも?)
それとも、わざわざ買って来た慰みかその他の心をにじられたような気持ちにだろうか。
羅刹のシャツを引き裂き、(抵抗は能よりもお決まりの一連)分厚い胸板に手についていた白い生クリームを擦り付け、ホイップクリームの飾りごとイチゴを乳
首の上に乗せて(バランスが悪くて落ちるので、羅刹に動かないように命令した)、
味わった。
安物のAVのような、童貞の書く官能小説のような、陳腐で下品な趣向を凝らした中で伊達は羅刹を何度も抱いた。
たくましい外見とは裏腹に羅刹は身の内側からの快楽に弱く、前立腺を執拗に刺激していくとあられもない言葉を吐いた。
伊達がこう言えと言うがままに淫らで奔放な言葉を吐いて、吠えるような快感の極みを並べ立てる。
「伊達、俺は…」
女でもあるまいに、目を潤ませて。潤ませているのは伊達のせいだ、声も涙声に震えているのは伊達のせいだ。
聞きたくない、伊達は拒む。
伊達は結合部に指を這わせると、自分の物をくわえこんで限界まで広がっているアナルの縁に指を滑らせ、二本まとめてねじ込んだ。
「ぎ・があああああ――ッ!!!」
絶叫、マンションの隣の部屋の住人はどう思ったろうか。警察でも呼べばいいと伊達は思う。
ピリリと切れたアナル。さほど出血しなかったのが羅刹の順応をそのまま表しているようで、伊達は煙が漏れるようなひそやかさで笑う。
誰の冗談か、桃の半分つまり五月四日が伊達の誕生日と、仲間内ではそういうことになった。言いだしっぺは虎丸だ、あの少し足りないけれど優しい力持ちは軽
い口調でそう決めた。
勝手に俺の誕生日を決めるんじゃねぇ、そう伊達は言いながらも心のどこかで嬉しく思っていたことを覚えている。
「ハッピーバースデイ、俺」
白目を剥いて絶叫し、同時に絶頂を迎えた羅刹。伊達に与えられたプレゼントは食いちぎられるような締め付け、お返しに精液。
煙草に火をつけて、暗い部屋にオレンジのあかり。と、ケーキの箱にピンク色をした蝋燭が袋に入っているのに触れる。
「…………」
伊達はそれを摘み上げると中から小指ほどの蝋燭を一本取り出し、煙草の火に近づけた。たちまちシュウと蝋の焼ける匂いを立てて火が燃え移る。
その蝋燭を羅刹の呼吸のたびに上下する胸板の上にそろりそろりと運び、傾けた。
まだ、大丈夫。
チキンレースは終わらない。