シーツすら敷かないパイプベッドへ、男が脚を投げ出して座っている。
男の視線の先には、床へ転がるまた別の男。
視線の先にある男はうつ伏せにされ、尻だけを高く持ち上げられた不自由そうな格好のまま動かない。
男の手首と足首は艶かしい紅縄で繋がれたせいで、身体を折り曲げている。よく見ればよほどに抵抗したのか、手首と足首にはうすら赤い擦過傷。
引き締まって窪みのうかがえる尻へベッド上から視線を注いだ。尻、むしろアナルへ。
さっきまでペニスをねじ込んでやったアナルは縁が捲れ上がって広がり、硬い閉じ込みが開いている。その弛みからどろどろと精液が漏れ出して、男の内股へ
滑っていた。
いい格好だな、ひどく満ち足りた気分だった。六つ傷の走る加害者の頬へ笑みがのぼる。
「………」
床へと顔をこすり付けていた男がゆっくりと首を巡らせて、自分を辱めた男をきつく睨んだ。
「……とけ」
縄を解け、と主張した男への返答は鼻で弾くような笑い声だった。
「いい格好じゃねぇか、そそるからそのままで居たらいい」
「ふざけるな」
身体さえ自由になれば、
手酷い陵辱を受けていなければ、
こんな自由にはさせない。そう眼差しが言っていた、生きた、ぎらぎらとした熱を感じる眼差しに伊達は焼かれる。焼かれて、自らも熱を持つ。
酒の瓶を手にしたまま伊達は立ち上がった。アルコール度数の高い、口に含んだだけで痺れるような酒は羅刹が持ってきたものだった。
たまには飲まないか、そう言って伊達を尋ね、酒を差し出した時、ここまで酷く犯されると羅刹自身は思っていたのだろうか。
伊達はそのあたりに興味をそそられる。
膝を付いて尻を突き出した無防備な格好のままの羅刹のすぐ横へ伊達は歩み寄り、酒をまた一口口へと含む。一層音が遠ざかる。
「なあ、オッサン。あんた俺にこうされたくって来たんだろう」
「何を馬鹿な…」
羅刹の萎えたペニスが伊達の視界に入る、余計に伊達の胸がかっと燃えた。
「俺じゃなくても良かっただろうに、わざわざあんたが来たんだぜ?こないだの事、まさか忘れてやしないだろうな」
「………」
伊達の問いかけに羅刹は黙秘した。伊達の言うこないだ、は羅刹の脳裏に生々しく感覚を引き起こしながら肌へ蘇る。
あの時も羅刹は酒と薬で抵抗を封じられた、伊達ほどの男ならばこうまで念入りに小道具を用いなくても、ねじ伏せる事が出来たはずなのだ。
だのに伊達はわざわざ彼がもっとも嫌うような、小細工に頼るのか。
羅刹はそれが知りたいような、知りたくないような。そんな狭間へ揺らぐ。
「どうなんだ」
声に酒気、伊達は酒臭い息を吹いて笑った。
「……俺はただ、貴様と酒を」
突然伊達がその場にしゃがみこむと羅刹の尻肉を酒を持って居ない手で鷲掴んだ、柔らかくはない尻が伊達の手のひらで形を変え、引き攣れるようにしてアナル
が開く。また精液がどろどろと零れ落ちて床を濡らした。
同意の無い挿入に傷ついていたらしく、羅刹のアナルから零れた精液へ赤いものが混ざっている。それを見咎めて伊達は更に笑う。
「痛かったなら、痛かったって泣けば良かった」
「カスリ傷だ」
返答が素早い、やはり羅刹は自らの鍛え上げた肉体に誇りを持っているらしい。
「カスリ傷だって消毒してやらなきゃならねぇな」
ちょうどいい、笑いながら伊達は羅刹のアナルへ人差し指と中指を突っ込んだ。濡らしていなかったが、精液と血液とが十分に滑りをよく中へと導いた。
引き込むような収縮をみせたアナルへ一瞥をくれ、羅刹へと笑いかける。
普段意識して浮かべるようなものとは違う、無邪気な笑み。
羅刹は息を詰めて喘ぎながらも、伊達の真意を探る。そして、
「よせ、伊達――」
気づいた。
伊達はそんな羅刹の制止など耳に入って居ない様子であの酒の瓶を手にする。中身少ないそれを羅刹のアナルへと近づけた。
「よせ、止めろ!」
薄紫に傷ついたアナルの縁へ瓶の口を押し当てる。口に残っていたアルコールが瞬時に粘膜を燃え立たせる。
「うあ゛ッ!ああ、あ゛、」
肩口を床へとこすりつけ、尻を振り、膝を床とぶつけ、
滑稽だと笑われても仕方の無いような必死さで羅刹が逃げようと身を捩る。背筋へ汗が転がっていく様まで、伊達は冷静に全てを見下ろしていた。
とぷん、
伊達が瓶の口を突っ込み、酒をアナルへ注ぐように瓶を傾けた瞬間部屋へと絶叫が響いた。
「う゛あ゛あ゛あ゛・あああああ――ッ!!!」
気を失った羅刹のペニスから透明に近い、粘度の低い精がたらたらと床へと滴っている。
愉快で、胸のすくような眺めだと伊達は思った。
涙と鼻水と唾液と、それから顔へかけてやった精液、ありとあらゆるもので汚れきった羅刹の顔ときたら、伊達の情欲を無尽蔵に掻き立てる。
起きたら顔面に小便でもかけてやろうか、そんな気にもなった。
身体さえ自由になれば、
手酷い陵辱を受けていなければ、
こんな自由にはさせない。そう先ほどの眼差しが言っていた、
どうしてこんな真似をするのか。
どこまで許されるのか知りたいのだ。
どうして正面からぶつからないのか。
縛られたから、薬を盛られたから、脅されたから、
理由を与えないと、拒絶が本心になってしまうから。
手酷くされても伊達を訪れる羅刹の本心は欠片も省みず、伊達は一人笑う。
臆病な心を笑う。
やさしくすればいい、やさしくすれば優しい羅刹はほだされるかもしれない。
しかしそれでは、他と並んでしまう。それは御免だった。特別がいい。
今のうちに縄を解いてやろう、キスで起こしてやったっていい。
素敵な思い付きだ、伊達は小さく頷いた。
羅刹が愛する臆病な子供は、恐る恐る今、羅刹の頬へ指を触れさせた。