椅子にロープで背もたれへくくりつけられたまま、シャツのボタンを全て断ち落とされ、大きく横へ開かれた厚い胸板を上下させている男。
その顔は忌々しげに歪められ、息を短く乱している。
目じりが赤い、涙が滲み、瞼が小刻みに震えていた。伊達はその様子に高ぶりを覚える。
「泣くんじゃねぇよ、オッサンが」
椅子の正面、書類の散らばるデスクにどっかりと腰掛けた伊達は、自らの膝に頬杖をついてその様をつぶさに見つつ声をかける。
からかいに満ちたその声に、羅刹は顔を背け首をねじり、肩口で目を拭い反論する。
「……泣いてなどいない、とっとと解け」
解け、とは先ほど伊達が羅刹をこの椅子へ縛り付けたロープの事である。今も羅刹の身体を椅子へ繋ぎ止めて離さず、逞しく張り詰めた筋肉へ食い込んでいた。

「…ふふん、こんな溜めてたのなら、俺を呼べよ」
また、伊達が笑った。伊達は靴をデスクの下へ脱ぎ捨てて素足である。素晴らしく長く形の良い脚を一振りしてみせた、

ピ、
伊達のつま先や指を汚していた白濁がその動きにふるい落とされて、羅刹のスーツの太腿を汚した。先日あつらえたんだと幾分嬉しそうに、こんなことが始まる 前に羅刹が話していたスーツ。ダークグレーの上等な、これで中にカラーシャツなど身につければどこのマフィアかという風体だが、生真面目にボタンダウンの シャツにネクタイをきっちりとつけるあたりが羅刹だった。
そのスーツの上着も今や、伊達の尻の下。パンツの前は開かれ、下着もずらされ、そこについさきほど果てたばかりの羅刹のペニスが萎えている。その周りには おびただしい量の精液がぬらぬらと熱をもったまま放たれていた。一滴羅刹の頬にも飛んでいることから、射精の勢いを物語っている。
羅刹は遊び人ではないが、かといって童貞でも、子供でもない。羅刹ほどの男であれば女との付き合い方も心得ている。
その男が、今同じ男の足、つま先と指、それだけでだくだくと精液を垂れ流してしまった。この苦しさ、恥ずかしさ、そして怒りが羅刹の頬を紅くしていた。

「浮気しなかったのは褒めてやってもいい」

ぬけぬけと勝手なことをほざくその顔を、羅刹は一度は砕かれた矜持をかき集めて睨み上げる。デスクに腰掛け、ふふんと鼻を鳴らして笑う伊達は足の指以外は 勤務中とまるで変わらない。自分ひとり縛られた上に剥かれ、痴態を晒していることが羅刹には我慢がならない。

伊達は時々羅刹を試す癖がある。そういう時は何か決まって嫌なことを思い出したり、精神が不安定になる時である。
羅刹はそれを知っていたが、それでも笑顔で許すとはとても思えなかった。

「伊達、もう一度言う」
「足が汚れたな、アンタの精液で」

羅刹の言葉をハナから聞く気は無さそうで、言うなり伊達は精液に塗れた足を羅刹の頬へなすりつけた。
ベチャリ、
生生しい音を立てて、羅刹の頬が白濁に塗れる。

「貴様っ!」

男子の面体を、足で触れるなど!カッとなった羅刹へ、冷や水を浴びせかけるような声で伊達は問う。

「舐めろよ」
「!?」
「…きれいに舐めて、な、……センパイ?」

普段呼ばない、センパイという呼称を取った伊達の真意がわからない。が、どこか甘えた顔で自分を見てくる伊達に、羅刹は戸惑う。
この後輩は強い、賢い、そして美しい。しかして子供である、こういう酷い事をした後で、おっかなびっくり自分の顔を覗き込んでくるのを羅刹は知っていた。
子供だ。
子供のした事だ。

唇を薄く開き、舌が這い出てくる。
羅刹が顔をしかめて精液まみれの伊達の足へ舌を這わせた、ヌチャリという小さな音。伊達は一瞬ハッとしたようだった、怒られた子供のような顔だった。

「アンタ、マゾかよ…センパイ」
「……ふん」

今度はバイブでもケツにブチ込んでやろうか、下卑た発想を口にする伊達はもう笑ってはいない。
安堵、ホッとしたような顔をしていた。
その顔を見るたび、羅刹は伊達を拒絶する気にはどうしてもなれないでいる。