がさつで、乱暴で、しとやかさの欠片も無い兄との二人暮しがいけなかったのだろうか。
確かめるまでも無く富樫の乳はのっぺりと絶壁で、平らかであった。
「………」
セーラーの襟を引っ張って中を覗き込む、それはそれは一直線、ヘソまで見えそうな貧しさである。
富樫はかれこれ五分ほど自分の胸を覗き込み、真剣に睨んでいた。睨めば膨らむと信じているようであった。
さるかに合戦のように、出ないと乳首をもぎ取るぞと呟きそうな恐い顔をしている。
と、背後より突然現れると後ろから富樫の胸に腕を回してムズ!と乳を鷲づかみにした不届き者がいた。
不意を突かれて富樫は飛び上がり、背後の一本眉を睨みつける。
「おーっす、ワッハハあいかわらずなんもねぇ乳じゃのう!」
「じゃっかましィ、けっ、そのうちタレっちまってみっともねぇことになんぜ!」
「ひがむなひがむな、わははははっ」
親友の虎丸は見事なFカップの胸を揺らしながら仰け反って大笑いをぶちかました。富樫はその揺れ様にごくんと喉を鳴らす。
街を歩く男が顔よりも先に眼をつけるその見事な乳、富樫には無い乳、
「ちぇっ、でかけりゃイイってもんじゃねぇやい」
「ちっちゃくてイイっちゅうこともねぇじゃろうがのう」
まぜっかえす虎丸は意地悪だと富樫はムムムと口を尖らせる。
「のう、わしが言ったアレ、試したかよ」
「やってみたんじゃが、ウンともスンともねぇよ」
「ほーん、やっぱのう」
虎丸は自分の乳をむぎゅむぎゅと揉みながら首を傾げた。太い一本眉が寄る。
「わしも自分で揉んでも全然でかくならなかったからのう」
おととしまで虎丸とて富樫よりちょっと大きかっただけ、ほんのCカップだったはず。それがあれよあれよとFカップ。Gカップの大台も間近である。
「………」
何故虎丸がここまで大きくなったか、富樫は知っている。効果も抜群であるのを知っている。知っているが、知っているだけに、試したくない。

「ボサッとしてんじゃねぇ、帰るぞ」
険のある声がかかった。虎丸とじゃれあったまま富樫は振り向く。
「伊達、なんじゃ、迎えに来てくれたんか」
虎丸が嬉しそうに富樫より離れて走り寄っていく。伊達は面倒くさそうに虎丸がへばりつくのを見下ろしながら富樫へ尋ねた。
「それで、何やってたんだ」
富樫は黙っている。恥じらいが富樫の口を噤ませた。
かわりに虎丸が伊達の腕に絡みつきながら答える。
「富樫な、おっぱいちいさいじゃろ。おっきくなりたいんじゃって」
「ァン?」
無遠慮な視線が富樫の胸を上下した。なるほどと言いたげに伊達が頷く。
そして、虎丸と同じ事を口にする。
「桃に揉んでもらえよ」
「!!だからっ、ン、ンなことできっかよ!!」
富樫が吠えた。
「だってそれ以外ねぇよ、富樫、大人しく桃に――」
「フッフフ、俺が、何だって?」
「うぉおッ!?も、」
「おー、桃ー」
「よう、」
「よう、虎丸、伊達、……どうしたんだ、富樫」

突然涼しい声がかかった。富樫は今度こそ硬直し跳ね上がる。
いけ、いけ、と虎丸が富樫をせっついた。
(ム、ムチャ言うんじゃねぇッ!!)


富樫と桃はお付き合いをしている。
が、とてもとても健全な手を繋ぐだけのようなお付き合いであった。
富樫とて、桃に乳をいつか揉んでもらいたい。
その時こんな貧相な乳ではなく、たっぷりぽよんな乳を揉ませてやりたい。
富樫の恋人思いの健気な心がその言葉を口にした。

「桃っ、もも、その」
「なんだ?富樫」
桃は微笑みを浮かべて富樫を見やった。眼には慈愛の光がある。
「その、その、お前に、その、乳…」
「乳?」

聞き返されて富樫は怒鳴った。

「お、お前の乳を揉ませろちゅうんじゃ!!」
「乳?俺の?……まあ、お前がそう言うなら」


いいとも、桃は学ランを脱ぎ捨てた。あっけに取られる伊達と虎丸を尻目に富樫の手のひらを掴むと桃は自分の裸の胸へ押し当てる。
「ひッ!」
富樫が硬直する。富樫の触れた桃の左胸は筋肉が盛り上がって、熱く脈打っていた。
どくん、
どくん、
どくん、

「あ……スゲ、硬い、ドクドクいってら…」
「フッフフお前がそうやって触るからさ」


感嘆の声を漏らす富樫を、桃はそうっと腰ごと抱きしめた。


「帰るぞ」
「おう」
伊達と虎丸はその場を後にした。