既に腹は一杯。
富樫は乱れた前髪の奥で目の輝きを失うほど、乱れている。
「あ゛ッ、あ・ぐう…っ、う、ふう゛ッ、」
声を上げかけて、顔をシーツへと擦りつける。声が布に吸い取られてくぐもり、減った甘さが富樫を慰めた。
「腰を上げろよ富樫、猫みたいに丸まってないで」
腰へ指を食い込ませた桃が、汗の浮いた背中へ唇を這わす。富樫が声にますます逃れるように背中を丸めたのを咎めるべく、一層下から抉るように突き上げた。
「う゛あああッ!あ゛、あ・ああっ!」
角度を変えて桃の性器が富樫を深深と貫いた。
犬のような唸り声を上げてたまらず富樫が汗を散らして仰け反り、首を無理に捻って背後の桃を振り向く。目は真っ赤で唇が捲れ上がり、小鼻が膨らんでいて、
美しさとは縁遠い。
しかし桃はその富樫の顔が気に入っている、自分相手に澄ました顔を取り繕うなどと、そんな手抜きは許さない。富樫のこの顔はどっぷりと桃に溺れている証拠
の顔である、なんと愛しい。桃は一息入れるとベッドに沈んでいる富樫を上から下へ、体重をかけて尻を犯す。
「グ、ん゛んッ!!ぶ、ぁ、も、…」
最初は犬のように富樫も肘をきちんと伸ばしていた、しかし次第に強まる桃の責めに肘がいつしか砕け、ただ膝をついて尻だけを桃に差し出す格好になってい
る。遠慮も容赦も無く、桃はその尻をズブズブと犯す。
顔をつっぷし、ベッドのパイプを掴んでいた腕がシーツへと落ちた。
もしや気を失ったか?桃が顔を覗き込もうとした途端、微かにも、と富樫の声がした。
も、に続く言葉はどれも桃を煽る。
もも、
もっと、
もう、
もう、
もも、
もっと、
どれもいい、どれもがいい、どれもが桃をよろこばせる。
「どれだ、富樫」
既に片手が埋まるほど達している桃の頬には疲労が、そして新たに凄味のあるギラついた色が笑みを作った。
「富樫」
桃が腰を手放し、背後から富樫の身体の前へと回す。胸をまさぐり、目当てを探す。
「富樫」
「うううっ…う…」
うう、ああ、富樫が掠れ切って意味の無い喘ぎに酔っているのを桃は許さない。富樫は半ば楽園に逃げ込みかけている。
それを桃は許すわけも無い。呼んだら、答えろ、
胸で寂しくぽつり勃起していた両乳首へ爪を立て、震動を与えた。
「う゛あ゛・あ゛あああッ!!」
びくんと富樫が跳ねた。後ろから犯されるのは大嫌いだ、富樫は常々そう言う。
獣のようだから、
膝が痛むから、
そして何より、
桃が次にどこへ攻め入ってくるかわからないから。
最初富樫の乳首など、触れても多少くすぐったいだけのささやかな突起だった。しかし丹念に桃が舌で指で繰り返し愛撫を施した結果、今こうして触れただけで
股間に直結するほどの快楽を与えることができる。
時に潰さんばかりに摘み上げ、先端のみを抉り、指の腹と爪で擦り合わせながら桃は富樫の耳へ舌を差し込んだ。蛇のようにちろちろと、逃げ込みかけていた楽
園から引きずり出す。
真っ赤になった目が俄然輝く、揺れるその目を桃はしっかと見据えた。そこからも精を注ぐつもりである、桃の視線は淫にして妖。
「がっ、あ゛あ!もも、桃お゛…ッ!」
「フフフ、もう何度中に出したか…覚えてるか」
必死に上半身を起こそうとしている富樫は健気である。再び上半身をシーツに沈ませれば桃がシーツに標本を作るように串刺してくるだろうから、もしくはもっ
と乳首を弄って欲しいとの発露か、富樫にはもう判断がつかない。
「あ゛っ、な、何言ってやがる…ッ」
「入りきらないから、シーツがグズグズだ」
桃が結合部に指を這わせる、隙間無く桃の性器を食んで離さぬそこからぼだぼだと先に出した精液が滴り落ちて染みをつくっている。
限界まで広がったそこを指がなぞっていく感覚に富樫は息を詰めた。
「覚えてるか?」
「し、知るかよ…っあ゛あ゛あ゛あ゛あ!ぐああッ、あ゛、う゛ああああ!!」
言いかけた富樫の声は途中から濁った悲鳴に変わった。桃が広がったそこへ指を、右手の人差し指を無理矢理にねじ込んだせいである。
「三度だ」
まるで桃は富樫の絶叫にも気にしない、うっとりと告げた。声は悲鳴であるが、富樫の脈打つ性器は萎えてはいないのはわかっている。
「ぬっ、ぬ、あ゛ああっ!桃、もも、ももお゛ッ!!」
抜いてくれ、それすら言えない。富樫は背中をしならせて吠えた。唇からは唾液がこぼれ、涙と精液とが落ちたシーツへと混ざる。
桃の指と性器の隙間からどろどろと性器が滑り落ちていく。
「お前は四度だ…なあ」
ぐるり、指が蠢いて第一関節を曲げる。
「う゛・―――――!!!」
声にならない声を上げ、富樫は射精した。既に色は薄く、なけなしの吐精であることに桃は満足を覚える。
「これだけ出したんだ、…子供が楽しみだ」
先の絶叫のせいで富樫の声は聞き取りづらく、老人のようになっている。声はシーツに半分は涙とともに吸い取られた。
「馬鹿か…子供が、できるワケ…ねーだろ…」
「フフフそうか?信じられないならもう一度ぐらい出しておくか」
「ば、っか、や、ろ…も、もう、入んね…」
桃が腰を揺らめかせ、引き抜きかけていた性器を再び奥へと突き進めた。指は入り口から離れない、戯れに時折富樫を弄ぶ。
「俺が嘘を言ったこと、あったか?」
その声に富樫は身体をふるわせた。桃は嘘を吐かない、それは富樫が一番知っていた。
「どうなんだ?富樫」
言わせたい、もう勃起することもかなわないでいる富樫の、しかし過敏になった身体をまさぐり、背中を舐めながら桃は尚も聞く。
「う゛……ウ、うあ、あ゛っ…」
涙でどうにもならない半眼が、諦めたように瞬く。
「富樫、」
「………知ってら」
よし、富樫の返答に満足を得た桃は富樫の中に四度目となる射精をした。富樫は微かに息を細く引き、許された休息にそのまま眠りへ逃げ込んでいく。
嘘はつかぬが、冗談は言う男。
そんな剣桃太郎の精液が、長らく擦られ続けて爛れた富樫の腸壁に酷く沁みる。
濃く隈を作った寝顔に疲労と苦痛が半半なのを知っていながら、桃は尚も富樫の中から出て行こうとはしない。
ああ、愛しい。
剣桃太郎は全てを許されている。