物凄く気まずい。
物凄く気まずい。
富樫が困っている様子だったので、虎丸が立ち上がった。
何と言っても富樫は虎丸の相棒で、虎丸にとっては頼りのない弟分みたいなもの。
富樫もそう思っているとは虎丸は気づいて居ない。


教室の片隅で富樫が机に頬杖ついて、時時ガアッと赤くなって、その後学帽のつばを引き下げて、脚をばたばたさせている。
虎丸はそんな富樫の様子が四回繰り返されるのを待ってから、富樫の前の席へと尻を下ろした。
「おう富樫、どうしたぃ」
「うお、べ、別に、なんでもねぇよ」
富樫が何かはぐらかそうとする時は、必ず唇をとんがらせて顔を背ける。わかりやすい。
「――はぁあ、切ないのう、相棒に信用されてないっちゅうのは」
ハアーア、わざとらしいため息。
チラ、
チラ、
ハーアアーア、
チラッ、
チラチラッ、

「……誰にも言うんじゃねぇぞ」
「たりめぇじゃ」
根負けして富樫、声にドスをきかせる。虎丸が真摯な顔でこくんこくんと頷いているその背中に、にょっきと黒い尻尾が生えているのを富樫は知るよしも無い。
「実ァよ…俺、桃と付き合ってんじゃ…」
(そんなところから話はじめんのかよ…)
虎丸は少しうんざりした。そんなこと知っている、よっぽどそう言ってやろうかと思ったけれど、ここで茶化しては富樫は本当に怒ってしまうかもしれない。
仕方なくボソボソ歯切れの悪いナレソメを耳に聞き流す、空はいかにも夏だった。
「そんでよ、おめえ知らねぇかもしんねぇがよ、男同士でもよ、出来るんだってな」
ようやく話が艶っぽい方向へ向いてきた。虎丸はホホーンと相槌を打ってやる。
「出来るって何がじゃ」
わかって聞くあたり、虎丸も曲者。富樫は困って困って困って、
「そら、おまえ…付き合ってるって言ったらよ、その…するだろうが」
「おう、イロイロするな、そんで、何じゃ」
「バ、するって言ったらアレしかねえじゃろうが!!」

虎丸は興味があったのだ。富樫がアレを何て表現するかと。
まさかえっち★とか言わないだろう。
無難にセックス?それはそれで、なんだか昭和の男らしくない。
時代がかってまぐわい、言いそうな気がしないでもない。


「…………アレは、アレじゃ」
結局そんな感じではぐらかされてしまった。
「ほぉん、そんで、アレの最中におめぇ、何したん?」
「…………」
ちょいちょい、と富樫が指で虎丸を招いた。




「はぁあ!!?イくときあんちゃーんって叫んだァ!!?」
「ば、バカヤロウ声がでけぇ!!」