「気分はどうですか?富樫」
飛燕の微笑みはいつもと変わらない、ひんやりとしかし優しげなもの。
細く白い指は富樫の裏筋をツウとなぞり、熱をだくだくと零すのを弄んでいる。
富樫は喉を仰け反らせて鼻を大きく鳴らした、べったりと飛燕の指に絡んだのは先走りではない、熱く濁る精液であった。
「気持ちが良さそうでけっこうです、フフ、こんなに悦んで…」
飛燕は目隠しをされた富樫の頬へ自らの頬を寄せた、富樫の頬はベッタリと濡れている。涙と汗と、そして自らが飛ばした精液で濡れていた。
その汚れた頬へ飛燕はためらいなく舌を這わせ、新たに唾液を塗り重ねる。飛燕の舌は冷たく、富樫はああと意味の無い声を漏らす。
「う……あ…、ひ…えん」
富樫の声は陵辱されたもののそれではない、しっかりと生死を共にした相棒への信頼と、そして愛情がある。
しかしどうして飛燕がこのようにわざわざ自分が嫌がりそうな行いを好んでやるのかが理解できないでいた。
自らを苛むほどの、飛燕が扱う鶴嘴のように鋭い快感。動きを封じられ、ただ感覚ばかりが高められている。
「目隠し…取ってあげたいんですが、駄目です。そのかわり、しっかり気持ちよくしてあげますから」
汗でべったりと額に張り付いた前髪を、飛燕の指がいとおしげに一房一房払っていく。火照った皮膚が冷やされて、富樫は犬のようにその手の甲へ顔をすり寄せ る。
「……飛燕、てめぇ、俺が…嫌いかよ…」
一声漏らすたびに喉が震え、内股は新たな衝動に備えて震え出す。
さらさらと砂鳴のような音を立てて飛燕の髪の毛が揺れる、首はしっかりと横へ振られた。目隠しはされていても、飛燕の気持ちを富樫は知っている。
「なら、これを解けや。……こんなやられ方、俺ァガマンならねぇ」
からからに水分の無い声でそう言うと、またもさらさらとすり抜ける音。飛燕はまたも首を横へ振った。
「なんでじゃ。俺ァ……てめぇにされるのがいやだって訳じゃ、ねぇんだぞ」

さら、
首が縦へ振られたのを富樫は肌で感じ取る。こうしてまともに喋っていられるのもあとわずか、既に富樫の身体はじわじわとまた快感の燻ぶりに火をつけ始め た。飛燕の髪の毛の先が富樫の胸をくすぐって、むず痒いような刺激を生んでいる。
「飛燕」
「嫌です……今私はとても、醜いですから」
「馬鹿」

ごめんなさい、
飛燕は三回ごめんなさいを繰り返すと、泣きながら震える指で富樫の目隠しを取った。
窓には中秋の名月。
月を背負った飛燕は、ぞっとするほど美しいと富樫は思った。