新婦の父親というわけじゃないが、感じたのは寂しさと残念さ。
(食っても良かったな)
卍丸は海外から戻って久しぶりに会った虎丸の成長に驚きを隠しきれない。
「でかくなったなじゃねぇか」
「そうかのー、あんまし伸びてないと思うけど…」
頭のてっぺんの毛を摘んで首を傾げる虎丸の顔はそれはそれは間抜けで、思わず苦笑が漏れる。
(背じゃねぇよ、)
「ああ、確かにでかくなった」
「そか、なんかわからんが、よかった」
ヘニャー、と虎丸の頬が弛んだ。
くわえかけた煙草をやめて卍丸、視線をある一点に注ぐ。
(乳だ乳)

(揉まれてんだろなァ)
その、出来たと聞いたウワサのカレシとやらに。
(アーア)




自分が少し海外に出てちょっとした『日焼け』の間に。どうやらこの御近所のガキにオトコが出来たと言う。
それも評判の伊達男だと言う、色男ではなく伊達男というのは見目に反して浮いた噂がまるでなかったからである。
卍丸は面白くない、虎丸がほんの幼稚園児からマンジマンジと懐かれてそれなりに可愛がってやっていたガキであった。
それを自分の知らないうちにヒョイパクとつまみ食いをされたのだ、
(俺だって、味見すらしちゃいねぇよ)
だいぶ年は離れている。だが女子高生ともなれば話は別だ、遊んでやってもいいと思っていた。
どこの馬の骨とも知れぬ男が美味しいところを摘んでいったのに多少腹を立てている。
それも評判の伊達男だという、馬鹿な虎丸はきっと遊ばれているに違いが無い。それがつまらない。
(俺ならもうちょい、長く可愛がってやるのに)
ふかす煙草の煙を虎丸は嫌がる、昔はわっか作ってとはしゃいだものだったが。
嫌がるのをわかっていて煙草をふかした。
理解しがたい、子供じみた気持ちを味わっている。
「次ー、さんかーん」
今当の虎丸は卍丸のアパートの部屋で、ソファ兼ベッドに座ってドラゴンボールを読んでいる。遠慮なく卍丸の脚の上に自分の脚を乗っけているまではいいのだ が、虎丸はしっかりと裾上げをしたスカートだ。
まるきり気にした風も無い。
三巻を虎丸に渡してやると、
「さんきゅー」
と口を尖がらせて卍丸の肩に寄りかかってきた。
(馬鹿だな)
卍丸は少し肩をすくめた。
「ン」
虎丸がわずかに顔を上げて卍丸を睨む、動くな、という事らしい。

(馬鹿だな、こんなところでこんなくっついたら食われたって文句も言えねぇぞ)
まさかカレシってのもそうやってなし崩しに始まったんじゃねぇだろうな、にわかに卍丸の胸が騒いだ。
そしてその予想は当たりでもなければ、はずれでもない。

「卍丸ー、にしてもよォ、そのアタマやっぱ、変だと思うぜ」
海外の女には大変セクシーだとウケの良かったこのヘアスタイルに何という事を、卍丸が睨むと、
「なんかニワトリみてぇじゃろ」
ヨリにもよってニワトリ!

卍丸は煙草を灰皿に押し付ける。目を眇めて、
「久しぶりに会ったら随分ナマ言うじゃねぇか。こりゃ、仕置きだな」
ドスの利いた声でそう告げる。
「いやーん」
まるで緊張感の無い声で漫画を読みながら虎丸は何と屁をこいた。
「てめぇはスカンクか!おら!」
「ギャッ、エッチ!い、ぎゃーーーーーッ!!!!」


卍丸必殺、悶絶涙地獄くすぐり拳。
虎丸は涙を流してその美技に酔い、泣き喚き、懇願し、暴れ、最後は下の階からの天井突き上げをくらうまで続く。
ほうほうの態で逃げ出していった虎丸を新しく火をつけた煙草の煙で送りながら、

「イツッ」

立ち上がろうとして腰に抱えた鈍痛に呻く。覚えのある痛みは何度味わっても慣れない。

「あー………」
意味の無い呻きを漏らしながら、卍丸は自分の手のひらを見下ろす。

(にしても、ありゃFでも足りねぇなぁ…)
どさくさ紛れに確かめた重みは、想像以上。
少しそのカレシとやらに興味がわいてきた。