つみれ事件
届けられた手紙の封筒を裏返してみれば、見慣れた男の署
名があった。
わざわざ手紙などと七面倒くさいことをする、赤石は太い眉を顰めた。
言いたい事があるのならば合いに来て直接言えばいいものを、こんな真似をするということは何か後ろ暗いところがあろうのだろう。
赤石が思った通り、真っ白い便箋の一枚目に大きく書かれた三文字。
『お詫び』
さて何をやらかした、赤石はどこか楽しげに続きへと目を走らせる。
さわやかな秋の午前の玄関先、ポストの傍らで赤石家の名物親父はふふふと不穏な含み笑いをした。
赤石さんへ。
ワシはごっつく今更ながら、ここにざんげします。
本当に申し訳ありませんでした。
江戸川
あれを言うなれば、つみれ事件である。
たまたま丸山を頭目として東京湾へ釣りに出かけた数名がまぐれ当たりを引き当てて、大量のイワシを釣り上げた。ロクな餌もつけず、一番安い練り餌だけでこ
の結果、ほとんど入れ食いだった、一生に一度あるかないかだったと丸山は後に興奮気味に語る。
釣り上げたその量たるや、用意していったクーラーボックス代わりの発泡スチロール箱一杯に収まりきらず、太公望達からやんやの喝采と共に借り受けたバケツ
二つにも溢れるほど。
秋口と言ってもまだ午後は汗をかくほどで、市場から巨大な氷を借り受けて学ランに発泡スチロール箱と共にくるみ、全力疾走直進行軍と相成った。
ぴんぴんと青銀色に満ちたバケツを洗濯中の江戸川に見せると、前掛け代わりのフンドシで手を拭いながらそれはそれはごっつく喜んで、
「赤石さん、イワシ好きかのう」
といじらしい事を言う。
「赤石さんなら、好き嫌いなんか無いですよ!」
丸山がそう言ってやると、
「そんじゃあワシ、今日は腕にアリをかけて料理するか」
「アリじゃなくヨリです」
「どっちでも変わらん変わらん、ファファファファ」
歯が抜けたようなにこやかな、しかし顔の筋肉だけで笑うその笑顔に丸山達はお決まりに両手をぱちぱちと叩いた。
秋らしく晴れた、いい空の下であった。
一方一号生達は食事時にはまだ早いというのに食堂に黒山と集まり、男の股間に、いや沽券に関わる大事な話をしていた。
彼らが真剣に語り合う内容といえば男についてである。男を競ってみるか、そんな話になっていた。
男、男のシンボルと言えばそそり立つ男根、つまりポコチンである。比べる値は大きさか、硬さか、膨張率か、はたまた黒さ剥け具合を競うべきか。
発案者である虎丸は馬鹿でかいハトロン紙にキュッキュッと極太マッキーを走らせた。このマッキー実はただのマッキーではない、
「そんじゃ、このマッキーよりでけぇ奴らが決勝進出じゃな」
マッキーの太さ大きさは予選を兼ねていた。食堂の机の周りに予選落ちの敗残者達がみな一様にしおしおと股間を押えてうつむいている。
「マ、後は――伊達かぁ」
虎丸は伊達の名前をキュッキュと書き付けた。性懲りも無く『伊達巨人』であったがその間違いを指摘できる人間はここに生憎居なかった。
「Jはどうじゃ。ガイジンのポコチンはビール瓶ぐらいあるって言うぜ」
予選をギリギリ通過できた松尾はオオイバリで声を張った。隣の田沢はエロ本という不正が発覚して失格となったため、背中を丸めている。
今のところ予選トップ通過の虎丸は食堂の机にでかい尻をドスンと乗っけて、腕を組んだ。
「Jかぁ……風呂場でもタオル巻いてっからなぁ…」
「いっそ、後ろからズボン下ろしてみたらどうか」
「馬鹿、フンドシ締めてたらわかんねぇじゃろ」
「風呂に入ってもらう…とか」
「あ、茶をよ、Jのズボンに零すってのはどうじゃ。そしたら脱がねぇわけにゃいかねぇ」
「誰が茶ァ零しに行くんじゃ」
「えー………」
「どうすっかのぉー」
そんな第一回男塾ポコチンミシュランの騒ぎから、富樫は一人はずれて厨房へ忍び込んでいた。
まさか富樫源次が予選落ちということではない、当然マッキーの試練は乗り越えていた。
彼が今乗り越えたいのは生理的な、空腹の試練である。まだ夕食までだいぶ、あと二時間ほどある。夕食になったといっても彼が望むような食事があるとは思え
ない。
厨房に何かステキなものがあるとは考えにくいが、それでも何かあるのではないのかと望みを抱いて忍び込んだのである。
果たして、そこは江戸川がイワシを調理していた。さらに富樫にとっては僥倖、江戸川にとっては不運な事に、江戸川は畑へ野菜を採りに行っていていなかっ
た。
調理済みとなったイワシ、刺身や塩焼きやフライに南蛮漬けにマリネにフライにと、江戸川が腕を存分に奮ったイワシ料理が後は出されるだけという状態で並ん
でいる。
思いも寄らぬ御馳走が並んでいるのに富樫は思わず自分の頬をつねった。不摂生のわりにハリがある頬は痛みを走らせる。
「アッチ…ほ、ホンモンかよォ…こりゃあ」
学帽を脱いで頭をかき回す、腹がグウグウと鳴って、マボロシと消える前に貪れと訴えた。
「ヘッヘ、こりゃあ清く正しい俺への御褒美っちゅう奴だぜ」
ありがたくいただく、と富樫は天のあんちゃんに感謝して一番端の皿から南蛮漬けをつまみあげた。
ひくん、虎丸の鼻がうごめいた。
「なーんか…いいニオイがするのう」
「テメェいきなりのしかかっておいて腹鳴らしてんじゃねぇよ」
虎丸の下で伊達が剣呑な空気を放つ。虎丸は伊達に馬乗りになったままなおもひくんひくんと鼻を鳴らす。
伊達のベルトにかかっていた手はぴたりと止まって、意識は全て鼻に集中しているようだった。
「オイ」
「伊達かのう」
焦れたように脚をばたつかせた伊達に構わず、いきなり虎丸は伊達の首筋に顔を寄せた。同じようにふすんふすんとニオイを嗅ぐ。
首筋に息が鼻先が当たってこそばゆい、さすがの伊達も犬に飛びつかれたような気持ちに語尾を奮わせた。
「こら、犬かテメェは」
「うーん…いいニオイっちゃあ、いいニオイなんじゃけど…」
伊達ポコチンサイズ決死隊隊長虎丸、部屋で静かに本を読んでいた伊達の背中に飛びついてグルグルにゃんにゃん上下を入れ替わり、ようやく勝ち取ったマウン
トポジションだった。
当初の目的である伊達のポコチンサイズを確かめるのをすっかり忘れて、鼻をひくんひくんさせる虎丸に伊達は呆れる。
夕暮れの迫る寮の部屋、太陽のギラつきは切っ先を丸く、いい風が吹き込んできた二人っきりの部屋。そんなシチュエーションで抱きついてきたと思えば、いき
なり人のベルトを外そうと不器用な手を動かした虎丸。今はといえば伊達の首筋のにおいを嗅いでいる。
「虎丸、……どけ」
どけ、には精一杯のドスが含まれているが、虎丸は気にした風もない。
業を煮やして伊達は虎丸の学ランの襟首を引っつかむと、イチニノサンで体勢を入れ替えた。
「オワ」
「さっきからテメェ何やってんだ、ええ?」
苛立ちにこめかみをピグピグさせつつ、伊達は虎丸のサラシを引っ張った。結び目を構わずに引っ張ったために虎丸のわき腹が締め上げられる。
「グェ」
怒りが過ぎると笑む、そんな人間が少なからず居るが、果たして伊達臣人はそれであった。
窓に背を向けて、秋空を背負って伊達はニッと頬に笑みを刻んでいる。恐ろしい笑みであった。
虎丸もさすがに伊達の殺気に近い怒気に気づいて、そして自分の腹をまさぐる手のひらに気づいて冷や汗をかく。
「そんなにカマって欲しいんなら、遊んでやるぜ」
アレ、虎丸が顔色を白くした。
「キャー!!エッチ!!」
「人のズボン下ろそうとしておいて何がエッチだ!馬鹿が!」
「イヤーッ!ヤ・メ・テ!」
「うるせぇ、気色悪い声を出すんじゃねぇ!」
ドズン、真下の教官室がうるせぇと竹刀か何かで天井を突き上げてきた。その一瞬の隙を突いて、虎丸が叫んだ。
「どっかで誰かが、ワシの知らんところでなんぞ美味いモン食っとんじゃ!こうしてられっか!おめぇも食いッぱぐれるじゃぞ!早く行かねぇと!」
伊達は萎えた。
ズボンと引っこ抜いた大根の形は良かった。大根足というが、すっくらとした形は褒め言葉のようである。去年は石ころをろくすっぽ取り除かないで作ったので
根性曲がりばかりだったため、今年は二号生総出で石さらいをした甲斐があったというものである。
「オッ、もう日が暮れるのお…急がんと赤石さん、おなか空かせてまう」
自然と早足になる、両手に持った大根を振り振り厨房へと急ぐ。しかしスも入らないで育った大根の事を考えると気分が浮き立った。
立派な大根を手に上機嫌で厨房へ戻った江戸川は、松尾ではないが嫌な予感に襲われる。
「………お、お前らぁああああああ!!!」
必殺顔面返し、鬼の形相で江戸川は叫ぶ。
厨房はいまや一号生達ですし詰めで湯気が立つほどごった返しており、彼らは皆江戸川が心を込めて赤石二号生筆頭へお作り申し上げた食事を貪っていたので
あった。
「あーんん?」
会心のデキだったイワシフライの尻尾を口からはみ出させながら富樫が振り返った。
その富樫の顔面を、江戸川は手にしていた大根を振りかぶると思い切り勢いをつけてぶん殴った。思えば江戸川が直接攻撃を加えたのは初めてかもしれない。
「ぐぇあっ」
富樫が背中から厨房の床へとぶっ倒れた、その震動に食べ零しに群がっていたネズミがキィキィと逃げていく。
ボキン、富樫を殴りつけた大根が半分に折れた。たしかにスが入らず、イカと煮付けたらさぞ美味しくなるだろう立派な大根であった。
「オオオオオまあああえええらあああああああ!!!」
なおも吠えながら折れていない大根で松尾の顔面を張り飛ばす。松尾は口から南蛮漬けを噴出しながら富樫へ折り重なるようにして吹っ飛んだ。
弓折れて矢尽きた、ではなく両手の大根がへし折れた状態でなおも江戸川は怒りに顔を煮えたぎらせながら辺りを見渡す。
と、幸いまだ生だったために被害を免れていたすり鉢に突き刺さったすりこぎが目に入る。このすりこぎは直径五センチもあるシロモノで、うどんを伸ばす事も
できそうな大きなものである。
アーサー王がエクスカリバーを引き抜くようにすり鉢からすりこぎを引き抜くと、赤石のように、
「けぇえええええええ――――ッ!!!」
と叫び声を上げながら一号生達の群れへと突っ込んでいく。
一人またひとりと江戸川の剣閃に倒れていく、残るは一人震えていた椿山一人である。
「ウウ……ご、ごめんなさい…!!」
ぶるぶると震える椿山の手からから揚げがポトリと落ちた。主人を思ってか、彼の肩からは二代目ピーちゃんは飛び立たず、懸命に羽根を広げて彼を守ってい
た。
「ごめんで済んだら、警察はいらんのじゃ!ごっつく殴ったる!」
オオオオ、江戸川が振り下ろしたすりこぎが空を切る。椿山は思わず目をギュッと瞑った。
が、
「フッフフ江戸川先輩こんにちは、まったく食い物の恨みってのは恐ろしいぜ」
ハリウッド映画もまっつぁおなタイミングで颯爽と現れたのは、やはりというかお約束というか、一号生筆頭剣桃太郎であった。
振り下ろされたすりこぎを片手で受け止め、もう片一方の手の指で先端に付着していたすり身をすくうとぺろりと舐める。
「ははあ、つみれ。つみれ汁ですか、江戸川先輩」
「も、桃…!!は、放さんかい!ワシは、ワシはこいつらに―――!!」
江戸川の巨体が全力を振り絞っても、桃が掴んだすりこぎはビクともしない。次第に江戸川の興奮が鎮まっていく、たらたらと首筋へ汗が伝い落ちた。
「江戸川先輩、仲間がこんな事やらかしたんだ…俺がかわりにワビを入れさせてもらいます。フッフフここらで勘弁してやってくれませんかね?」
「し、しかし――」
「残った食事はきちんと俺が後で届けますから。それにもう夕食まで時間が無い、今こうして争っている場合じゃないっスよ」
「う、ウム――」
江戸川はすりこぎを引いた。桃も柔らかく一礼して微笑む。
「しょうがないのう…桃キサマにそこまで言われちゃあ…」
「フッフフありがとうございます。さ、そっちのこんろを使ってください、江戸川先輩」
ピンピンぴかぴかのイワシだったので、生姜はいつもよりも少なく。ほんの少し片栗粉をまぜたつみれ。
大根にんじんしいたけの汁に、こんにゃくが千切り入れてある。そこへ慎重にお玉でつみれ種を千切り取っては入れていった。
入れた途端、さあっと脂が白く汁の表面へ広がった。次次とつみれを入れていくと透明だった汁が少しだけ雲って、つみれは次次沈んでいく。
かき混ぜないように火を見守り、つみれが浮き上がってきたところを見計らって火を弱め、くらりくらりと揺らぎ出したところで火を止めた。
三つ葉が無いのは残念だったが、赤石専用の大きな椀にたっぷりとつみれ汁を注いで江戸川は赤石へ出した。
「うまそうだな」
赤石の言葉は短い、だが短いだけ世辞など余計なものが混じっていなくて江戸川はたいそう喜んだ。
「どうぞ」
桃がかき集めたから揚げやタタキやなめろう等の乗った皿を差し出す、赤石はウムと頷いてそれを食べる。
最後に急いでおろした刺身へネギをちらし、卵黄を乗せた月見イワシの皿を出す。
普段の食事と比べればなんとも豪勢だったが、本当ならばもっと豪勢だったのにと江戸川は再び怒りを燃やした。
「……うまい」
「へ、へぇ。ありがとうございます、赤石さん」
「去年はサンマだったな」
「ヘ」
去年、去年も二号生だった。江戸川はハタと思い出す。
去年の同じ秋頃、中秋の名月。
江戸川は赤石の釣り上げてきたサンマで月見サンマとつみれ汁をこしらえたのだった。
あの夜赤石は大層機嫌が良く、江戸川もその相伴に預かりながらひどく汗をかいたことを思い出す。
なにより赤石がそんな些細な――自分などが作った食事などを覚えていることに驚いた。
「貴様の作る飯は、まあ食えたモンだ。他に取り得も無ぇ、料理屋で下働きでもしたらどうだ」
「へ、ヘェ…ワシが、料理屋ですか…」
頭を掻き掻き江戸川はうなだれた。赤石はフンと鼻を鳴らすと窓の外、中秋の名月が雲隠れした空へと視線を向けながら呟いた。
「が、間抜けな貴様を雇う料理屋があるとも思えねぇ。フン、もっと腕を磨いたなら俺が雇ってもいいぞ」
格安でな、ふふん、
赤石は酒と笑みを含んだ。江戸川は一瞬呆けていたが、すぐに、
「へ、へい!!」
気の抜けた返事をするんじゃねぇ、それでも上機嫌に咎めながら赤石は椀を差し出した。
江戸川は今度こそハイと答えて、たっぷりとつみれ汁を鍋からよそう。
雲がサッと晴れて、中秋の名月。
名月らしく輝いており、ススキにはまだ早いにせよいい風が渡っていた。
食堂では負傷者たちが呻いている。中秋の名月どころではない。駆けつけた飛燕が月光雷電の手を借りて負傷者の手当てを行う。
あらかた済んだところで桃が皆へ呼びかけて注目を集める。
「江戸川先輩があんなに怒ったのには、理由があったのさ」
桃は静かに語り出した。
ボッコボコに腫れた顔面を膨らませながら、秀麻呂が先を促す。
「桃、どういう事だよ」
「ああ…お前たちがさっきまでイチモツの話をしていたろう。誰が一番大きいとかで」
「しとったが、それがナンじゃ」
松尾が首を傾げる、うん、桃は傍らに投げ捨ててあったすりこぎを取り上げて松尾へと差し出した。
「江戸川先輩は赤石先輩への忠誠心にあふれた先輩さ、どうしても赤石先輩が一番だと主張したかったんだとさ」
「え、そりゃ…え?」
手に収まったすりこぎを眺めていた松尾が思わず声を上げた、
「ま、まさか桃!」
「そうさ、赤石先輩のイチモツはそれほど太くて硬いと、江戸川先輩はそうおっしゃったのさ」
おおお、食堂がどよめく。
「こ、こりゃ優勝は赤石先輩じゃのう…」
「ああ…すりこぎとはな…」
「すげぇなぁ…この、すりこぎと同じだとよ?」
「すりこぎ……」
「すりこぎ……」
一人桃は優しい顔をしていた。室内でただ腕組みをしているだけなのにハチマキがひらりひらりとたなびいている。気がそうさせるのだ、誰かが知ったかぶって
そう講釈を垂れる。
(フッフフ悪く思わないでくださいよ江戸川先輩?俺の仲間をああもブッ叩かれたんじゃ、これぐらい笑って許してくれますよね!)
赤石は何故だか最近、自分がすりこぎ先輩と陰口を叩かれる事に気づいた。
白髪だとか刀バカだとかそういった悪口ではない、ただ、
「すりこぎ先輩」
そう一号生に呼ばれることに気づいたのである。悪口でもないし、それが本当に自分を指しているかもわからない。
だが、確実に赤石はすりこぎすりこぎと良く呼ばれた。
あまつさえ、自分が小便を垂れている時に覗こうとする者まで現れる。
すりこぎ、
それは赤石の中で長年謎であった。
その謎が今、明かされようとしている。
『赤石さんすみません。ワシは長年どうしても言い出せませんでした。さようなら』
「……江戸川の馬鹿めが……」
赤石はクシャリと手紙を握りつぶした。
くしくも同じ中秋の名月の日。夜になれば耀に月が出て、誰も彼もの輪郭を浮かび上がらせるだろう。
十数年越しの告白に、赤石は息子を呼びつけた。
「十蔵!」
ジャージ姿の十蔵がのろのろと玄関からサンダルをつっかけて出てくる。若者らしく休日は遅くまでダラけているのを、普段は咎めるのだが今日は眉をしかめる
だけである。
「あ?」
「鍵を貸せ」
「……なんのだよ」
「バイクだ」
「ああ!!?」
満月よ照らせ、僕の馬鹿さ加減を。
江戸川は空を見上げてフウ、と大きなため息をついた。
「赤石さん、怒っとるじゃろか」
フフフウ、ため息がより深まって秋の歩道へ落ちる。まだ紅葉は始まっていないので、落ちているのは名も知らぬ茶色い枯葉ばかりであった。
「にしても、結びの言葉はやっぱりかしこにしたほうが良かったんかのう…あれじゃあ遺書みたいだったしのう…ウウム…」
どこからともなく、恐ろしい轟音が次第に近づいてくる。
バケモノバイクだー!誰かが悲鳴を上げた。キャーッ、キャーッ。
午後ともなれば空に薄ら白い月が透けている。
数秒後、排気ガスを噴き上げるモンスターバイクが江戸川を撥ねる事になることを当然だが江戸川、気づいてはいない。
これをもってつみれ事件の結びとする。
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