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影慶の影慶による影慶のためのラブはぐくみプロジェク
ト。
計画1:鶴の恩返しでGO!
吹雪の夜でした、強い吹雪の夜でした、
昨日晴れていた分を取り戻すような激しい吹雪の夜でした、
雪が戸板の半分まで覆いかぶさって、凍える吹雪の夜でした、
明日の朝になれば誰も彼もが雪に押しつぶされるような、息苦しい吹雪の夜でした、
あばら家に住まう男は、百姓でした、
生業としている稲作もここ数年続いた天候不順によって先細って、暮らし向きは真っ暗でした、
男は声を忘れていました、というのも誰も尋ねて来ないからでした、
ため息を一つ、囲炉裏の側にごろりと寝転んで男は物悲しい思いでいました、
と、戸をほとほとと叩く音がします。
男へと細い声が呼びかけています。
聞き間違いにしてははっきりとしています。
男は風かと思いながらも起き上がり、雪で溶接されたような戸を力を込めて開きます。
「百姓よ、道が雪に埋もれて難儀しておる。…この邪鬼を泊めてはくれぬか」
まっこと美しい、美丈夫がおりました。
「誰だキャスティングした奴!前へ出ろ!!」
毒手を振りかざしながら、百姓が怒鳴りました。
自分が百姓役なんだからもっと早く気づけよ、鶴の着ぐるみを被った卍丸がクチバシをモグモグさせました。
影慶の影慶による影慶のためのラブはぐくみプロジェクト。
計画2:オフィスラブでGO!
邪鬼の眉間の皺に惚れ惚れとする。
邪鬼の険しい眉にぞくぞくとする。
邪鬼の射抜く眼差しにはらはらとする。
邪鬼の結ばれた口元にどきどきとする。
邪鬼の長く節の目だった指にくらくらとする。
そっと影慶は近づいた。
「お疲れではありませんか」
「たいした事は無い」
「……その、邪鬼様…私でよければ、何かできる事はありませんか?」
「貴様は十分につとめを果たしている、それ以上を強いる事はせぬ」
「貴方の力になりたいのです」
コピーでも、
お茶汲みでも、
書類整理でも、
肩揉みでも、
ああ、その…ちょっとした発散、軽い運動のお相手でも、
…行き過ぎたスキンシップでも、
手合わせ、
……掻き抱いて下さったらいい、書類の上にどさりと引き倒して下さったらいいのに、
「貴様の言葉を嬉しく思う」
邪鬼はかすかに微笑んだ。影慶は肉体的にも精神的にも昇天せんという顔で、
「ならば、」
自らの首からネクタイを抜き取った。コピーやお茶汲みに書類整理というあたりは忘却のかなただ。
「この邪鬼を励ませ」
「………は、」
邪鬼は窓の外へ視線を投げた、庁舎の中と違って灼熱に揺らめく外界を眺め、懐かしそうな顔をした。
「…思い出したのだ。あの闘い、一号生達の応援を…あれはよいものだ」
「………」
大豪院邪鬼長官の執務室から喉が裂けそうなエールが聞こえてきた。
防衛庁の七不思議のひとつじゃないかしら、と受付の蕗草さんは首を傾げる。
影慶の影慶による影慶のためのラブはぐくみプロジェクト。
計画2:未亡人でGO!
あやめあやめて、またあやめ。
しょうぶしょうぶと、またあやめ。
純黒のように見えて、地にはあやめが浮き上がった着物を影慶は身につけている。
無地ではないが、喪服である。足袋の白さが痛痛しい。
仏壇を前に、影慶は頭を垂れている。
風鈴がちりちりと慰みに鳴った。
仏壇を前に、影慶は頭を垂れている。
吹き込む風は湿気を孕んでいた。
仏壇を前に、影慶は頭を垂れている。
褪せた畳を、さりさりと影慶の爪がなじった。
涙を浮かべていた影慶はきつと顔を上げ、決然と位牌へ向けて言い放つ。
「……邪鬼様…この影慶、生涯貴方のためにあります。すぐにお側に参りましょう」
影慶は唇で毒手を隠した包帯の結び目を解き、醜く爛れた紫を露出した。喉元にあてがう。
と、突然影慶の視界がふさがれた。誰も居なかったはずの部屋で、誰がそんなことができるというのか。
「!」
影慶の視界を塞いだのはどうやら大判の布のようで、その肌触りはどっしらと重く顔の上半分を包み込む。
脚をばたつかせ、その布を、狼藉者を排除しようと暴れていた影慶だったが、不意に鼻に漂った香りに戸惑った。
覚えがある、忘れるわけもない、忘れがたい、
唐突に影慶の唇に何か温かいものが触れる、ぬめりを持って侵入したものが人の舌であることは疑いようもない。噛み切ることも出来た、だが、
土の味のするその舌を影慶は拒まなかった。
強い手が滑り来て、影慶の足袋に包まれた足を掴む。影慶は畳に背中から落ちた、足首だけを持ち上げられて足の甲へもおそらく唇が押し当てられた。
硬い指がこはぜのあたりで遊んでいる、あと数ミリ踏み込めばたちまち毒足にやられるのをわかっている人間の動きである。
「ああ、」
影慶の喉が反った。
気づけば、影慶は邪鬼の位牌とそれから紛失されたと言われていたマントを胸に抱いて涙していた。
繰り返し名を呼ぶ。生きよと残酷を今しがた囁いた男の名を呼ぶ。
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