因果応報
逃げ場がない逃げ場がない逃げ場がない。
いっやーん。
サイアクなタイミングで、男の登場を許した。
鬼ヒゲは黒電話の受話器をチン、と静かに下ろしながら振り返る。
戸口に立った男は、手に黄色くまぶしいバナナ。
広げた布団の上で鬼ヒゲは戦慄している。
「教官殿が風邪を召されたと聞いて、一号生筆頭剣桃太郎、お世話に上がりました!」
普段であれば爽やかにハチマキを靡かせながら登場したであろう剣桃太郎、しかし彼の発した言葉と裏腹にゆらゆらと、
ゆらゆらと怒りに満ちている。
顔は笑顔だ、
普段どおりの笑顔だ、
では何が怒りに満ちている、
雰囲気が、
ゆらゆらと、
「お世話に上がりました、が……どうやらお元気な様子」
伸びてきた手がムズとそれを掴んだ。
「ウ、うぉおッん!!」
鬼ヒゲは飛び上がりそうなほどの勢いで跳ねた。桃はそれを布越しに掴んだまま凛凛しい眉を片側のみクイッと持ち上げてみせ、わざとらしく、
「おや、元気そうじゃないスか」
などと言っている。
「バッ、バッ、バァロォ桃、きききき貴様どこを掴んでおるんじゃ!!」
「教官殿の大切なところですよ」
「バ、」
再びバァロォと喚こうとしたが、桃の手にある雑誌にギョッとする。
今しがたそれを片手に電話をかけて、フィリッピーナのジャスミンちゃんを呼んだところだったのだ。
律儀にもアカマルをつけてあったために、桃の視線はたやすくそこへたどり着いた。
「ははぁ、これですか教官殿」
「わ、わ、悪」
悪いか、言いかけて鬼ヒゲは黙った。悪いに決まっている、たまたまパチンコで昨日大勝したからと言って男塾を休んでデリヘルを呼びつけているのだ。
次第に青ざめていく、逆に下半身はお祭りになっている。なんと言っても期待に膨らむそこはいまや桃の文字通り手の内にあるのだ。
やわやわと握ったり擦られたりしているうちに、
「ジャスミンちゃんはキャンセルしておきましょう。俺がお世話しますから、……風邪の」
風邪の、の辺りをやけにつよく桃は言った。笑顔である。
「それが一号生筆頭の勤めですから」
いっやーん、
鬼ヒゲは内股になって小さく悲鳴を上げた。
ジャスミンちゃんが助けに来てくれるわけもなかった。
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