もみじ狩り
「伊達、ワシと紅葉狩りに行かねぇか」
食欲一代男にしては雅やかな誘いだったので、つい頷いたが間違いだった。
虎丸龍次のやることに、風流など一かけらも無い。
何せ獅子座流星群の際には金ダライをいくつも抱えて河川敷に走り、伊達にも金ダライを持つように喚いた。
理由を聞けば、
「星がおっこってきたら、これで受けるんじゃ!なんでも星ちゅうのは甘酸っぱくてうまいそうじゃからのう」
虎丸は二月の真冬、河川敷から荒川へと尻を蹴飛ばされて突き落とされた。
やっぱり風邪は引かなかった。
「おニイちゃん、ウメボシアメなめるかね」
「アラかよちゃん、おニイちゃんはウメボシアメなんかよりサキイカよ、食べる?」
「もう、マキちゃんったら、駄目よ、おしゃぶり昆布のがいいったら」
「おしゃぶり?」「おしゃぶり?」「…おしゃぶり、」
「やだぁ!もう!チカ!!」「いやらしいわぁ!!アッハハハ!」「ち〜がうわヨ!やらしいのはアンタらよ!!」
「だって、」「ネェ、」
「「「おしゃぶりだってサ、キャハハハハ!!」」」
平均年齢五十六歳。伊達と虎丸という若い彼らを交えての結果、つまり余生を楽しむ御老人たちの行楽旅行がほとんど。
それが虎丸の言う旅行だった。
その一団が今、バスで移動中である。
「オッ、おばちゃん悪いのう、アメいいんか」
「いいワよ、何おニイちゃんおなかへってんの?」
「オウ、もうペコペコじゃ」
「ならオニギリあげるワよ、みっちゃん、みっちゃあん!!」
「はぁい!オニギリね、これがウメ、これがオカカ、いい?」
「どっちも食べていいんか?ありがたいのう、美人じゃのう」
「アラァ!」「やァだ!!」
五十台六十台の女性の特徴として、声がとにかく大きい、よく笑う、あまり人の話を聞かない、などがある。
バスの中をギッシリと埋める彼女たちの迫力に、伊達はすっかり気力を失っていた。
「ツアーだと知ってたら、来なかったぜ…」
いろは坂の横揺れにではなく、人酔いに伊達はうんざりとため息をついた。
窓の外に広がる紅葉に、伊達の傷の走る頬は赤く照らされて彩りを増す。
「おじちゃん、いたない?」
平均年齢をググッと下げていたらしい、幼稚園児ほどの少女が伊達の前の席で、身を乗り出してそう聞いた。
「痛くねぇよ。それにおじちゃんでもねぇ」
大人気なく凄んでしまったが、少女はよかった、と微笑んだ。
「な、伊達。桃が用意してくれたんじゃ。この旅行」
「あ?」
「何かの懸賞で当たったんじゃと。最初わしを誘ってくれてたんじゃけど、富樫がこないだ日本へ帰ってきたから。ネーブルから」
「ブルネイな」
「そ、そんで、塾長が久しぶりに富樫の手打ちうどん食いたいってんで、今日はそっちにいくちゅうて」
「ふん、」
「マツタケご飯食べ放題を放り出して、だって。桃は欲がないのう」
「欲はあるだろうがな、食欲とは別の」
虎丸は歯を見せて笑った。
「そんなら、伊達とどっかに行ってみたかったんじゃ」
「…………フン」
手に90リットルのゴミ袋を手にしながら、虎丸は笑う。
「もみじ、一杯狩ろうな!」
「………あ?」
「あ、じゃなくて。もみじ狩りじゃろ?わし天ぷらぐらいしか知らんけど、とにかく一杯狩ろうぜ、な」
大はしゃぎの虎丸をいつもなら動くバスからででも蹴り出すところだったが、伊達はそうしなかった。
何故だかわかっているが、わかりたくなかったからである。
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