改善要求
お前が好きだ、
お前が大事だ、
二人同じ事を思っているのに、どうして食い違う?
大好きなのに。
酷い事をした事は無いと、桃は思っている。
いわゆるAVや官能小説であるような鬼畜的な事柄はしない、という意味であれば確かにそれは正しい。
桃は富樫を縛るような事はしなかった、もちろん真っ赤で買うのが恥ずかしいような蝋燭をタラタラした事も無い。
大人のオモチャ的なものを持ち出した事も無ければイヤンでアハンな薬を用いた事も無い。
とにかく一般的に抱き合って、朝を迎えるようなやり方しかした事はないと桃は思っている。
「え?富樫にそういう事をしたいと思った事はないのかって?……フッ、そりゃ、あいつが縛られているのを見るのはとてもそそられるものがあるだろうし、
真っ赤な蝋燭?似合うだろうさ、歯をこうグッと食いしばってな。グゥッと唸るあいつはきっと可愛いだろう。……薬?うーん、俺はそんなものに頼るほど落ち
ぶれちゃいねぇ、……と、前に一度買った潤滑油という奴か、アレにそういう作用があったか。………………同意を得れば、いいんじゃねぇか」
滑舌良く、歯切れ良く、嫌らしさのまるで無いキリリと引き締まった顔で桃はそう言葉を並べ立てた。
しかし最後の最後、話題が薬に差し掛かったあたりで何かを思い出したようで、語り口がゆったりと緩む。
けれど気を取り直したように白い歯を見せ、パチリと睫毛を弾く清清しい目さばきを見せ、
「ともかく、あいつ――富樫と居るだけで俺はいいのさ。酷い事をしようだなんて、思わねぇぜ」
惚れ惚れするほどきっぱりと、秋風さつさつとしたような男前が笑った。
桃という奴はヤッカイだと、富樫は思っている。
アレな行為を強要されたことはない、という意味であれば確かにそうだ。
桃は富樫に強いるような事はしなかった。もちろん嫌がる富樫を無理矢理に布団へ組み伏せて、サッサとベルトに手をかけるような事もない。
嫌がる声がうるさいからと口を塞がれる事もなければ尻をムチで叩かれた事も無い。むしろ堪えるなと手を口から剥がされた事ならばある。
しかし一般的に抱き合って、揃って眠るようなやり方をされているとは富樫は思っていない。
「桃の野郎が紳士!?タコ抜かすんじゃねぇや!酷ェもんだぜ?……ま、まァ、な。無理強いされた事ァ無ェや。アン?前にいっぺんぐれぇはあったっけか、
マ、そりゃいいけどよ。ああ、確かにあいつは俺が嫌だってぇ事はやらねぇよ。絶対にやらねぇ、けど、な――
喋るんだよ。あの野郎。あ?喋るってもオハヨウコンニチワじゃねぇぞ、タコ。アレだよ、その――
………ここがいいのかとか、こんなになってるとか。それもスケベ丸出しの面じゃなくてよ、普通に、ア・気づいたって顔でよォ。
―――そ、そ、そうじゃなけりゃ殴っとるワイ!!!オウ!ムチやローソクのがマシじゃ、あんな、あんな―――こ、コッ恥ずかしい思い、ガマンできっかよ」
舌をもつれさせ、ツバを飛ばし、時折自分の語る内容がお天道様の下ではふさわしくない事を思い出して声をひそめ。
けれどすぐに沸点まで跳ね上がって吹き零れ、話はさらに速度を上げてしっちゃかめっちゃに崩してがなる。時折グクゥウウと喉を絞って唸る。
最後の最後、声を潜めに潜め、まさに蚊の鳴くような声で、
「俺ァよ、思い出してはアアア、ってなるぐれぇだぜ」
おそらく行為の後毎度であろうことに、額に手をやって顔を背けた。耳まで真っ赤になっていた。
聞き捨てならない、桃が表情を険しくした。
「なんだって?富樫、俺がいつ酷い事をしたって言うんだ」
経緯を一つ一つ確かめながら、首を傾げて思い浮かべていく。小さく頷いて、考えながら言葉を連ねていく。
「喋るって…無言でするのは獣のようで俺は好かん。だからといって世間話をするような時間じゃねぇだろう。それに、目の前で富樫が気持ちがよくなっている
んだ、それについて喋る事が何が悪いんだ?あいつは気持ちと同じで身体もまっすぐで、気持ちがいいんだと言うことが一目で分かる、俺に応えてくれるのさ。
それを嬉しいと思ったって間違いじゃねぇだろう」
そうとも、桃は大きく頷く。
「そうとも、あいつが気持ちが良さそうだから、気持ちがいいのかと言う。ここがいいのかと確認する。それはあいつがさらに喜ぶ事に繋がっているんだ、悪い
事じゃねぇ」
そうであるとも、桃は大いに頷いた。
自分なりに結論を得たようで、満足そうに頷いた。
「よし、俺はこれからも富樫を大事にしたい。だから――あいつが嫌がるんなら、色色指摘するのはやめようと思う。フッフフ、俺の楽しみなんか、あいつが喜
ぶ事を思えばたいした事じゃねぇさ。なに、甘やかしてる?フッ…そうだな、俺は富樫に甘いのさ、いいだろう?」
背を向けて桃は去って行った。かぐわしい、瑞雲の如き気配をたなびかせて。
しゃんと伸びた背筋は正しい、口元に薫る笑みも俗っけの無いもの。
けれど近しいもの、例えば伊達などが見れば、
「ああいう顔、無邪気な顔をしてやがる時のアイツが一番面倒なんだ。関わり合いになって得は無ェ、離れとけ」
そうそっけなく斬り捨てる。自らは桃へフライングヒップアタックをかまそうと助走に入っていた虎丸を槍で地面へ撃墜した。
伊達臣人は善人ではないが、無情ではない。
その後富樫、ことあるごとに、
「ここがいいか?舐めたのがよかったか?ああ、それともこっちがいいか?ここがこうなっているってことは、とてもいいんだな?気持ちがいいんだな?答えて
くれ、富樫」
返事、つまりいいのだ、気持ちがいいのだと恥を忍んで答えるまで続く質問攻めにあう事になる。
さすがに富樫の堪忍袋の緒が切れ、
「黙ってやらねぇか!!」
と怒鳴るまでこの質問攻め、まさに質問責めは続く。
その後、一連の流れを全て無言で桃に執り行われて再び富樫が激高してやり方を変えるように強制という名の懇願を行うことになるのだから、まったくマンネリ
というものに縁の無い二人だった。
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