当たれ即ち砕けろ(相手が)

最近こういうのはやりなんだ、そんな言葉にうかうかのせられた俺は、もしかしなくとも馬鹿だ。
「えーとな、いいか?『べ、べつに、あんたなんか好きじゃないんだからねっ!』」
「……あ?」
「なんだよ弁財天、俺が言った通りに繰り返してくれよ!でないと俺恥ずかしいじゃんか」
恥ずかしいことを俺にしろって言うのか。なあ。おい、剣。
「弁財天、いいか?男塾に入塾したお前の目的、知ってるのは俺とあと信長とあと赤石とー…あと安東に日登とマックとそれだけだ」
「ほ、ほとんどじゃねぇか!!」
どういう力があってか、俺の処遇を任せろと言ったこの青い瞳のサムライはヨーッシとおかしな発音で右腕を振り上げて、
「ヨーッシ!悟空とラブラブ大作戦だ!」
「声がでかい!!」
俺が剣の口を塞ぐよりもはやくそいつは走り出していて、
「そのイチ!デアイガシラ作戦!」
デアイガシラ、デアイガシラ、…出会い頭?
俺の腕を掴むなりそいつは廊下の角までずりずりと引きずって行って、ここで待てと言った。
「いいか?俺が今から悟空を連れてくるからさ、ちょうど悟空がここを差し掛かったら飛び出せ」
「何を言ってるんだ貴様は、全く要領を得ねぇ」
「だァから、」
だァから、と大声を上げておいて剣は頬を膨らませた、女子中学生か貴様は。膨らませた頬からフッと息を吐いて、
「だァから、正面衝突すんだよ、デアイガシラの。そしたら何すんのよ!って」
「最初から順序だてて話せ」
「あー、それ俺も見たな」
いきなり割り込んできたのは安東だった。俺から見れば子供のように、ちょうど悟空と変わらない身長の男だ。不思議な髪型をしている。
「弁財天…だったっけか」
「おう」
「こいつが言いたいのは、たぶん日本のアニメとかマンガの話なんだよ」
「マンガ?」
困ったように安東は頭を掻いた、痒くなりようのない虎刈りの頭を掻いた。
「そう…こうして男女がぶつかり合うだろ、そして何するんだよ!ってケンカになるんだ。そしたらお互いの第一印象はサイアクに…」
「貴様、俺をたばかったか!!」
知らず大声が出た、剣はしらしらと受け流したが安東が飛び上がる。すまん。
「たばかってやしねぇよ、だから、第一印象はサイアクってよくテレビとかでも…」
「サイアクだと!」
またも俺が怒鳴ると、安東がまあまあと俺の肩を軽く叩いた。ひ弱で軟弱そうに見えて、案外図太いのかもしれん。俺のこの体躯を見て恐れたのはさきの一瞬き り、今は単なる同級にしか見えてないのだろうか。
「まあまあまあまあ待て弁財天、今のは本当にラブコメで良く有るんだよ。ムカツクけど気になっちゃうって言うことで」
「………」
本当だろうか。日本には俺の知らねぇそんな風習があるんだろうか。
俺の疑問をどう思ってか剣がまたも口を開いた。
「アンタ、パンツ見たでしょ!って」
「はいてやしねぇよパンツなんか」
「エッ、ノーパン!!?」
「 貴 様 は 何 を は い て る ん だ 」
「フンドシ」
「…………!!!!」
俺の額がこめかみが、ビキビキと音を立て始めた。
「ま、まあまあまあまあまあまあ!!!な、とにかくぶつかってみろよ!ホラ、当たって砕けろって言うじゃねぇか!」
「砕けてどうする!」



「アッ、来た!来た!」
「な、何ッ」
見ればたしかに廊下の向こうから、悟空がのこのこと歩いてきた。ああ、胸が高鳴る。
「ど、どうするんだ!剣ッ」
そんな、まさか、だって、剣まだ呼びに行っていないのに、そんな、心の、準備が、
「来ちゃったモンはしかたねぇ!行け!男見せて来い!!」
「がんばれ、弁財天!」
どん、と剣が背中を押した。安東も大きく頷いてガッツポーズ、貴様等、熱いぞ!これが友情か、それとも男塾魂か、俺はまだ知らん。
知らんが、何か無性に熱いぞ!なるほど、わかった。今わかった気がするぞ。おお快なり。
「よし、貴様等の尽力…忘れんぞ!!」

俺は駆け出した。力の限り駆け出した。




「うオオオオオオッ!!!悟空ゥウウウウッ!!!」
風を切れ、世界を動かせ、愛を突き上げろ、俺を受け止めろ、俺の愛を、
「へっ」

校舎が揺れたんだ、本当に揺れたんだぜと後に信長は興奮気味にそう語った。















「――別に、貴様が好きでもなんでもないからしたことだ」
二階の窓枠から強い髪の毛を風に波打たせ、吐き捨てるように言い捨てた弁財天の姿。
悟空はその姿を校庭の花壇に半ばめり込みながらそれを薄れ行く意識の中で見て、その声を聞いた。
モクジ
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