クリスマス後編

あなたの大切な人を愛し、
あなたの大切な人を愛し、
あなたの大切な人を愛し、
あなたを失ったあなたの大切な人の涙を拭う。




駆け込んだ屋台の丸椅子へ布団に包まった尻を下ろすなり、
ラーメン二つと、ギョーザ。
店主は富樫の注文に愛想悪く頷いた。あいよ、と答える声は口元へ巻きつけて押し込み強盗のような風体にしているタオルにこされてくぐもる。
白い調理帽が小さく見えるほど、熊のように大きな店主は思ったより機敏に麺の玉を取り出し、チャーシューの鍋をかき混ぜる準備にとりかかった。
「まいど」
ぼそりと店主が呟いた。富樫や桃の方を見もしない。真っ黒い目を伏せて、冷えて白いあぶらの固まるチャーシューの鍋を睨んでいる。
唐突に富樫はハッとして、ボンタンの尻を探った。財布はない。奥底までさらってようやく触れたのは小銭ばかり幾枚か。
同じく桃も尻ポケットを探った。富樫と違って財布はあったが、中には珍しいことに何も入っていなかった。それを見た富樫は渋い顔で頷く。尖った顎をしゃ くった。
「あ、おやじ、わ、悪ィな、金を忘れて来た」
富樫が詫びながら投げ出した目の前の小銭をかき集め、引っ被った布団をかぶりなおすと桃の腕を引いた、尻を浮かせかかる。据わりの悪い丸椅子が足元の砂利 と摺れて耳障りな音を立てた。桃も腰を上げると店主が顔を上げた。風邪でもひいているのか渋く枯らした声を、口周りに巻いたタオル越しに響かせる。
「金ならそこに貰ってるぜ。ギョーザもつけるんなら、あと二百円だ」
店主の声には愛想というものがまるで感じられない。が、そんなことを咎めるよりも二人は驚いて顔を見合わせた。
「あん?金だって?」
「おやじさん、俺たちは…」
まだ金を払ってない、そしてこれからも払えない。そう続けようとした桃の唇がアッとつぶやいたままに固まる。
カウンターの上には皺だらけの千円札が乗っていて、そして今その札を店主が掴み取った。面倒くさそうに目を眇めて、ギョーザはどうするのかを待っている。
「ギョーザ、どうする」
富樫が断りを入れようとするのを遮って、桃が口を開いた。
「ギョーザも」
「桃!?」
「富樫、二百円」
桃は店主を見ずにそう言った。富樫はややあって二百円を店主へ差し出す。金が貰えれば用はないとでも言いたげに、店主は一つ頷いて受け取った小銭をカゴへ と放り込んだ。
ささやかであれども、こうした悪事を持ちかけるのはいつも富樫の分担だった。桃はそれを咎める事はなかったが、言いだしっぺになることはほとんどない。
珍しい親友の行動に富樫はニヤニヤしながら、珍しいじゃねぇかと言いかけた。が、
「………」
桃は富樫を見ていた。正確に言えば、引っ被った布団からはみ出た、カウンターへ富樫の腕を。腕にはびっしりと鳥肌が立って、指先はカタカタと震えている。
寮に戻ってもろくな食料も無い、風呂も無い。
自分を案じているのがわかって、富樫は何も言えなくなった。
「まいど」
店主はまたも、愛想の無い声で応じる。
その素っ気無さが、悪くないと二人思っていた。

しゃああ、
油の引かれた鉄鍋へギョーザが並べられ、強火に派手な音。
一度に騒がしくなった屋台の外にはぼた雪の台座の上へ粉雪が詰みあがり、既に地面を白く覆い始めている。
屋台の裸電球のあかりが届く範囲だけはなぜだかうすらあたたかい。触れれば火傷するほど熱いからかもしれない。
桃はそのあかりに照らされた富樫を見ていた。
鳥肌の立つ腕を。
金色の裸電球のあかりに輝く胸元を。
大きく突き出た喉仏を。
横顔を。
店主が太く荒れた指で器用にネギを刻むのを見ている眼差しを。
布団の甲羅から出した頭を。
あかりの届かない足元にひきずった布団が屋台の軒下をはみ出て、そこに雪が積もっているのを。
聖夜に桃は、富樫を見ていた。

じゃあああ、
突然の激しい音に桃ははっとした。
店主がギョーザの鍋へ挿し水をしたのだ。カップに入っていた水は薄い褐色をしており、どうやらラーメンに使うスープを薄めたものを使ったようだ。
油と水とが互いに激しくぶつかりあい、霧のように細かい蒸気が白熱球のあかりに大きく踊る。
濡れた木蓋に阻まれてこもるも、音の勢いはさほど弱まらない。

「麻雀をよう」
「ん?」
富樫はいきなり口を開いた。桃と同じように、あの大きな差し水の音にはっとなったようだった。
「賭け麻雀をしねぇかってんでな」
「馬鹿、お前、それだから身包み全部剥がされたってのか!」
見慣れた富樫の愚行であったが、いよいよもってあきれ果てた桃は声を大きくした。
その声の大きさにか、二人の事など我関せずを決め込んでいた店主も顔を上げる。かき混ぜていたチャーシューの鍋は火にかけられて、白いあぶらがとろけて甘 辛いような香りを放ち始めていた。
チラリと富樫は店主を気にした。が、桃はまるで気にならないのか、それとも富樫しか気にしていないのか、
「お前ときたら、本当にしようのねぇ」
大声で富樫を咎めた。無愛想な店主の眼差しも、心なしか呆れているよう。当然である、きよしこの夜に賭博へ興じた挙句身包み剥がされて布団をかぶっている のだから。
「だってよう、」
無言で桃はトン、とカウンターへ小さな箱を置いた。桃の手のひらへすっぽりはいってしまいそうな大きさで、空色の包み紙へぴりりと黒いリボンがかかってい る。
富樫が目を瞠る。
「桃、こりゃ」
どこかふて腐れたように、カウンターへ頬杖をついた桃が、
「…開けてみろよ」
ぽい、と富樫へ投げやりにリボンのかかった箱を投げた。二三お手玉した富樫の肩から弾みで布団が脱げ落ちる。それを肩へと引きずり上げておいて、富樫は箱 を裸電球のあかりへ晒す。
黒いリボンがいよいよ黒黒と、金色のあかりの縁飾りをしたよう。リボンをほどいたところで、

「…お待ち、」
遠慮がちに店主が皿を差し入れてきた。長方形の藍で縁取りをされた白い皿へ、五つ丸丸と大きなギョーザが並んで乗っている。
周りの焦げもこそげとったおかげで羽がついて、よけいに大きく見せていた。
ギョーザの香りが満ちる。桃は既に諦めているのか富樫へ首を横へ振ってみせた。
箱を開けるのは後だ、まずは、腹へ何か入れろ。そういう意味合いの視線。富樫も別段反対はなく、箱をサッと置いた。
それに太いかっきりとした眉をひそめたのもまた、桃である。自分からすすめておいて、そのくせ放って置かれるとムクれる。
子供のようなところがあった。
「じゃーん、けん」
富樫が拳を振りかぶる。肩からまた布団がずり落ちかかった。
「ぽんっ」
富樫はチョキ、桃はグー。
もちろん争っているのはギョーザの五つ目の所有権である。卑怯なる不意打ちにも桃は正面から打ち破り、正正堂堂所有権を得た。
それにしても富樫という男は浅はかである。
不意を突かれた人間が出しにくいチョキなど出さないのだから、自分が出すのはパーにしておけばよいのに。
パーにしておけば最悪でもアイコに持ち込める。
だが、そのあたりをまるで考えていないのが富樫という男だった。

割り箸を富樫は桃へ渡してやると、ぱっきん、と丈夫な歯にくわえて割り、
あぶらだか汁だかをぽたりぽたりさせている、皮のむちむちしたギョーザへかぶりついた。じゅっと熱い汁が口の中へ一杯になる。
「ん」
野菜をていねいに叩いた、甘い汁。肉のうまみ。ラー油のきいた醤油とまじりあって、すきっ腹へしみていく。
「うめっ」
思わず富樫が声を上げた。桃も口の中をギョーザで一杯にしながら頷く。
二人の様子を店主はじっくりと睨んでいたが、何か思いついたように背を向けると、
「………」
振り向いた時にはコップになみなみとつがれた日本酒をそれぞれ両手に手にしており、それを二人の前へ無言で置いた。
富樫と桃が顔を見合わせる。お互いの目を見て、それから店主のタオルと前髪と調理帽に隠された奥の目を見つめる。
お互い、もう一度顔を見合わせる。
二人声をそろえて怒鳴っていた。
「押忍、ごっつぁんです!」
店主は低い声で、オウ、とごく小さくだが答えて、ラーメンの麺を玉三つ太い指でほぐしながら湯だる鍋へと放り込む。
桃と富樫は表面張力ギリギリのコップを浮かせずにじりじりと寄せて、縁を軽く触れ合わせた。
彼らなりに、乾杯。

「ちょっ…桃、ちっと退け」
「断る。俺だって飲みたい」
ギリギリまでコップをくっつけてしまったため、二人額をぶつけあう羽目に陥った。




「で、中はなんじゃ?」
「さあ、開けてみろよ」
富樫は箱を振ってみた。からから、と何か軽い音がする。桃が手にした箸を立てた。
「ヒント。金色で、丸いもの。足りないと寂しいもの」
考える間もなく富樫は叫んでいる、
「金!!」
「フッフフ開けてみな」
忙しい富樫の指先がきれいに薔薇のように膨らんだリボンを無残に散らすように解いていく。リボンをはらりとカウンターへ置き、空色の包み紙をビリビリと剥 ぎ取った。
ボール紙の箱へ爪を立ててこじ開け、カウンター目掛けて振る。

きらん、きか、きらきら、きかん!
きらん、きか、きらきら、きかん!
裸電球のあたたかいひかりを弾いて、金色の丸いものが全部で八つ。ドロップのように澄んだ音を立ててカウンターへと散らばった。
落ちないように急いで拾い集めて富樫、
「ボタンじゃねぇか!」
「お前ときたら、ボタンが取れてもお構いなしだ。はしたねぇ、全部ご開帳で丸見えさ」
「へ、ヘンな言い方するんじゃねぇや」
桃がコップをタン!と置いた。富樫へ向けて人差し指を突きつける。富樫は身を縮こまらせた。桃ときたら真っ白だった頬にひとすじだけ酔朱をさして、目に星 をいくつも入れている。むやみな迫力に富樫は気おされた。
「だからボタンをお前にやりたかったんだ。そうしたらお前、ボタンどころか学ランまで無くなっちまって」
口を尖らせて桃は絡んだ。酒癖は悪くない桃だったが、すきっ腹へ沁みたあたたかいコップ酒がおかしく作用しているようだった。
富樫はブスくれて、
「しゃあねぇだろ。ひと勝負、俺は千円からで相手は万札をピンピンの…」
さえぎり、桃はコップ酒を更にあおって声を強くした。
歌舞伎の役者のように目に朱が入って、力ある目が富樫をギロと睨む。
「俺はお前のために、ダンビラをカタに取られてでもボタンをやりたかったのに」
「ダンビラァ!!?」
今度大声を出すのは、富樫の番だった。手にしたコップをカウンターへ置いた音も大きく、店主が思わず菜箸を取り落とすほど。
「そうさ、」
「ダンビラっておめぇ、そんじゃ――」

またも、申し訳なさそうにタイミング悪く店主が割って入った。
「お、お待ち――」
二人、熱くなった視線を交わす。
今問い詰めたい事のありげな、富樫。もっと富樫を咎めたい、桃。
けれども今回も、腹の虫がラーメンを欲して鳴くのであった。

最初に丼を手渡されたのは桃だった。店主の手は大きく、その手に包まれた丼が小さく見えていたので油断していたが、受けた重みはかなりのもの。子供ならば 顔をざぶりと洗えるほどの丼に、熱熱の琥珀色をしたスープがなみなみと注がれている。
鼻にのぼりくる香りは煮干の色がかなりつよく、スープに黄色い玉子麺がこんもりと盛り付けられ、ナルトが浮き、茹でたほうれん草、ノリが二枚、そしてまた もサービスらしいかなりの厚切りチャーシューが三枚、煮卵。
ネギがスープの表面にすっと浮かんだあぶらに泳いでいる。
腹だけではなく、二人とも喉が鳴った。

富樫が次いで丼を受け取る。店主の大きな手の隙間から丼を受け、凍っていた指がその丼の熱さに痺れる。血がいっせいに流れ込んだ痺れにふらつきながらも丼 をカウンターへと置いた。
店主が富樫の丼の横へ、白コショーの瓶を置く。富樫はそれを取り上げて、深い色のスープへぱっぱっときつく振った。
桃が目をわずかに大きく見開いて、店主の顔を見上げる。店主は無愛想に、置物のように太い腕を組んで立ったまま。
店主が鍋へ投じた麺の玉は全部で三つだ。当たり前だが一人前は一つの玉である。コップ酒。そしてやけに厚切りのチャーシュー。
無愛想な店主の心遣いに、二人感謝して一礼。熱すぎて丼を持てず、二人して顔を突っ込むようにして麺をすすりチャーシューへかじりついた。


すきっ腹とはいえ、やたらめたらに美味いラーメン。
ちぢれのかかった麺はいくら食べても無くならないと思えるほどたっぷりとあり、またスープをよく絡める。
やわらかく煮えて味がしみているのに、分厚く噛み切るのが大変なチャーシュー。
わずかな煮干の苦味があるスープはいつまでも熱いままで、飲むたびにつま先まで熱い血液を作るようだった。
雪はいよいよ強くなっているというのに、裸電球のあかりの届く範囲に限ってはあたたかいようで、富樫なぞ裸の胸へ汗をかいている。

あらかた麺を食べつくし、後は沈んだほうれん草やらを拾い、スープをすくう段階になったところで富樫が熱いため息混じりに、

「てめぇのこったろうから、クリスマスやろうぜってんで、プレゼントだのなんだのやらかすと思ってたぜ」
「うん?」
最後に残していたチャーシューをかじりながら、桃が富樫へ向き直る。ラーメンというものはケンカでいうタイマンである。スデゴロである。お互いの存在以外 を全て消して、ただ相手へ向かうのみであった。
「だがよ、俺ァ知っての通り金がねぇ。そしたら賭け麻雀やりませんかっつーんで」
「お前」
桃は呆れた。
呆れたと同時に、あたたかくなった。
自分に何かプレゼントを寄越すために無一文になったこの愚かでかわいい男を思うと胸が熱くなっていく。

「お前、富樫、」
「オ、オウ、」
照れ臭いのか富樫が顔を背けた。
「で、でな、桃」
富樫はボンタンの尻ポケットから何かを引っ張り出して、カウンターへ投げた。
それは淡いしろがね色に輝く紐だった。たしかにほんのり輝く色は美しいが、要するにただの紐である。
光が目に入ったのか、店主もその紐へ視線を注ぐ。それに気づいた富樫は軽く首をかしげて、眉唾だけどなと前置いた。
「いや、俺ァこんなんなっちまってたんだがよ、最後に参加賞だってんでこれと、あと何か玉とを選べって言われてな」
「玉?」
「そうよォ、それがふるってら、龍の髭と、龍の玉だってんだ。馬鹿馬鹿しいがよ、貰えるものァ貰っとこうと思ってよ」
「ああ」
富樫が桃を指差した。
「うん?」
「……おめぇのダンビラくくってる紐、ありゃビニル紐じゃねぇか。粗末にも程があんぜ」
「ああ」
刀の銘は知らない。が、かなりの業物である事は刃の輝きから知れようというもの。鞘も朱塗りの見事なものだ。
だのに、それを身体へくくりつけている紐ときたら、梱包用のビニル紐なのだ。スズランテープと呼ばれるアレである。
アレなものだから、切れる。縦に裂けてさやさやと房になる。
切れたところを結びなおしては使っているので、見た目は大変にみっともない。
「アレにちょうどいいんじゃねぇかと思ってな」
「………!!」
桃は惚れた。
惚れたと同時に、熱くなった。
自分に何かプレゼントを寄越すために無一文になったこの愚かでかわいい男を思うと胸が熱く熱く熱くなっていく。


「それじゃ、お前…俺にこの紐をくれるために、一肌脱いでくれたのか?」
「言い方はちょっとアレだが、まあ、そうだな、そうなるな」
そうなった。
桃の中ではそうなった。
寒空を歩いていた富樫は、このなにやら妙なる五色の雲が似合いそうな紐を手に入れようと、着ていた学ランを脱いで、これとそれを取り替えてくれと願い出 た。
そうなった。

「お前という、奴は…!」
桃は言葉を詰まらせる。富樫はなにがなにやらわからないまま、ああそう、うん、そうよと適当に返事をした。

「俺もな、富樫。道を歩いていたら、雉の産んだ黄金の玉子から削り出した学ランのボタンだって売り込まれたのさ」
「ど、どっからどう見ても普通のボタンじゃねぇか。大体どうしてそのたいそうな玉子を学ランのボタンにするんじゃ」
「で、いくらだって聞いたら値段はとてもつけられませんが、財布に入っているだけでよろしゅうございますと言うんだ」
「バ、バカおめぇ、担がれたんだよ――」
「お前のためだもの」
「だからって」

しかし桃は幸せなのだ。
童話にある、賢者の贈り物の二人のように。
互いを想いあって、大事なものを手放して、
すばらしい。
桃は幸せだ。富樫も幸せだといいと桃は強く思った。そして、幸せにしたいと重ねて思った。
雪は降り積もるが、なにもかもがあたたかく、白い中にもえている。








十二時を回る手前に、富樫は立ち上がった。楊枝で歯をせせりながらつやつやとした顔で、
「おやじさん、うまかったぜ」
誰かの千円をすっかり平らげて、富樫は布団をかぶって一足先に屋台を出た。腹の底から満ち足りて、すっかりいい気分だった。

「毎度」
静かに店主は送り出す。
と、桃はノレンをくぐりかけて、立ち止まり振り返った。
「?」
何か忘れ物でも?という様子の店主へ、桃は静かに笑ってみせた。
「……富樫は幸せです。お兄さんのように立派になろうとがんばっている。たまに転んだりもしますが、それでも」
「………」
「俺はあいつと男塾にいられて、よかった」
「…………」


屋台を桃は走り抜けていった。さくさくと粉雪を蹴散らして。
振り向かなくてもいいと、桃はわかっている。一筋青く輝いて、空へと上っていくのだろう。
心の中でもう一度、桃は富樫の大切な人へ頭を下げた。





「トナカイの奴らめ、仕事をおっぽりだしてそんなことをして遊んでおったのか。人から金を巻き上げるなどと…」
サンタクルスは渋い顔をした。倉庫から秘宝である金卵釦と真珠鋼糸がなくなっていたのに気づいたのは大分後だった。
「まあ、しようがないでしょう」
源吉はとりなし顔で、よいせと袋をかついだ。大きな、子供が何人も入れるような大きな袋である。
「ふん、お前が道草をくっておるせいでこんなに遅れてしまった。そのうえバレバレであったぞ」
「……さて、行きましょう。ワシもがんばります」

「よし、まずは港区より行こう」
「その前に、あの」

サンタクルスは笑った。
「わかっておる。学ランと、ダンビラ、きちんと届けておいた」
「…ああ、よかった」

聖夜。
聖なる夜。
誰かの大切な人が、笑う夜であった。
モクジ
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