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決戦!日本晴れパンツ!
目の前の男には、柔らかい乳など一つたりともありはしな い。
いや、一つきりあったとて不気味以外の何ものでもないのだが。
ともかく虎丸の好きな富樫に、虎丸の好きな外見上の要素は一つたりともありはしない。
しかし説明のつかないあたりであの傷面に惚れている、それは重重わかっている。
どうして惚れたはわからずに、
けれど惚れたはわかってる。
まったく不可解にしてヤッカイ、しかし虎丸は胆が太い男だから、まぁしゃぁないわナ、などとどっしり構えている。
しかしそうは構えられないのがその相棒、だらしなくうろたえてはアワワワと及び腰になってしまう。
普段兄貴面して、オウどんと来いヤと胸を叩いておきながら、イザとなると、
「ちょ、ちょ、タンマじゃ!!タンマッ!!」
と今時生娘でもやらないような恥じらいかたを見せて、近づいてきた虎丸の顔を押しのける。
押しのける、と言えば手のひらで頬をムイッとやったぐらいにしか聞こえないが、実際は突きのける、ぐらいの強さであった。
「……富樫よォ」
さすがに虎丸の声が低い。恥じらいが無くなったら終わりだとどこかの恋愛評論家などというそれこそ恥知らずな職業の女が言っていたが、それにも限度があ る。それも初初しいセーラー服の女子高生ではないのだ、真っ黒スーツに髭面の水虫予備軍なのだ。水虫予備軍は虎丸の勝手な想像であったが。
「……悪ィ」
布団を汚したら面倒だ、そんな虎丸の斜め上の提案で、布団も何も敷かないままの虎丸の部屋で二人睨みあっている。
オンボロアパートでは虎丸が気を利かせてつけた神代物のエアコンがゴウンゴウンとやかまっしい。
さっきまでそれなりにムードはあった。弾んでいた会話が次第にぽつぽつと途切れ出し、沈黙が訪れて、二人がきっかと目を合わす。
完璧だ、ベッドがあればそのままお互い腕を絡めあってドサリ、フレームアウトしそうな雰囲気であった。
顔を近づけて、唇同士をとりあえずビール!くっつけて、ちょっと舌なんかも絡めて、そしてお互いまさぐりだす。
そのあたりまでは文句のつけようがないほど、『あとちょっと!』だった。
だのに虎丸が富樫の上半身をひん剥いたあたりで、おきまりのタンマ!が出たのである。
いやよいやよと言われてやめる、そんなアナタがもっといや。そんな事を考えながら虎丸が更にワキワキちょっかいを出そうとすると、
「待てちゅうとんじゃろが!!」
ペチン!でもピシャン!でもない、
ドブン!だった。虎丸のぷっくらとした頬に富樫の手がめり込んだ。スケベ心をわっくわっくさせていた虎丸、不意を突かれてそのまんま後ろに転がる。
ころん、と転がった拍子に虎丸のパンツのバックプリントが日本晴れだったのが富樫にもわかった。前面がアッパレ!だったからなんだろうとはおもっていたの だったが。
さすがにやりすぎた、富樫は虎丸の頬が歪むほど力を込めた自らの手を見下ろしながら、学帽のつばを引き下げる仕草をした。今大事な学帽はスーツのポケット から出されて、ぐらつくちゃぶ台の上に大事に置かれている。
「……富樫よォ」
そこへきて、最初に戻る。
「…すまねぇ」
「すまねぇで済んだら、不動産屋はいらねぇんじゃ!」
オウ、と虎丸は片膝をついてにじり寄った。やたらな迫力に富樫はますますいたたまれない。
虎丸が気を利かせて利かせたエアコンはボロな割りに一所懸命で部屋の中は肌寒くなってきた。そこへもって富樫は上半身裸である。ぶるりと震え、虎丸の日本 晴れパンツのあたりへ目をやった。突っ張っている、アッパレ!のパ、のあたりが突っ張っていた。
ますますもって申し訳ない気持ちになり、富樫はもう一度詫びを口にする。
「悪かったって」
「オウ富樫、俺ァ聞いたぜ、卒業するまでは待てって」
「…言ったな」
「てめぇの少女趣味エンエン付き合ってやって、今またコレかよ、いい加減ドカンと怒るぜ、虎丸様もよう」
ムスコモオコルゼ!と裏声で言って、虎丸は腰をグイと突き出した。
やさしさだ。
富樫にはわかっている。
こうしてふざけた物言いにすれば、自分が気に病まないでバァカと笑えると思って、わざとこうした言い方をしたのだ。
富樫にはわかっている。
たとえ虎丸が無意識にやったのだとしても、富樫にはわかっている。
なにしろ富樫は虎丸の相棒だから。
だから富樫は、バァカと笑わなかった。
「悪かった、その…」
「ソノ、なんじゃい」
「いや、そのよう…」
虎丸はいきなり言葉を選んでいる途中の富樫の肩を掴んだ、そのまま顔を近づけて額をごつんとくっつける。
日本晴れパンツがしっかり富樫の腰にぶっつかって何やらいやらしいが、虎丸も真剣だ。
この格好をつけてみてもガマンのきかないあたりが虎丸だと、富樫は好ましく思っている。
「てめぇがその気になるまで待つぜっちゅうたら、惚れるかよ」
虎丸が鼻息も荒くそう富樫へ尋ねた、富樫は言葉に詰まる。何しろ虎丸の眉と目ときたら力強くて、じかに覗くととても熱い、正直である。
「………」
「だけどな、俺にゃ今ハッキリキッカリわかったぜ、俺もしてぇが、てめぇもしてぇんじゃ」
「バ、何タコ抜かしてやがんだ!」
「だってよう、」
ふにゃりと一本眉を下げて虎丸は笑った。
「だってよう、俺はてめぇの事なら何だってわかる。何しろ相棒だからのう」
「お、おめえ…!」
富樫は胸をまっすぐど真ん中に打ち抜かれた。この一富士二鷹の男前、たとえヒゲがチマチマ伸びかかっていたとしてもその輝きは褪せない。
股間のナスビすら愛しいとすら思える。
どくんと熱く高鳴った胸はおさまらず、虎丸がそんじゃと再び挑んできた腕を払いのける事はついにしなかった。
「で、富樫」
「……おう」
「なんでさっき嫌がったんじゃ」
「ああ、」
富樫はちゃぶ台を尖ったアゴでしゃくった。さきほど富樫が学帽を置いたその上に富樫のワイシャツがかぶさっている。
「なんかよう、その…兄ちゃんにすまねぇような気がしてよう」
虎丸はごごーっと赤くなった。赤くなって、それでもって物凄く心臓が高鳴って、それでもって腰の辺りがズシーンときた。
お前は旦那の遺影を倒す未亡人か!!がむしゃらに掴みかかる。
「う、富樫てめぇ、てめぇって野郎はよう…!!」
「な、なんじゃ虎丸」
「どっこまで少女漫画なんじゃてめぇは!もぉ!」
好き!それは虎丸腹の底からの叫びだった。
ギューッとしてチューッ。
もう一回…チューッ。
じゃらららん、
じゃらららららん、
じゃら、
「はい、高崎不動産です」
「はぁ、千住アパート、にーまる、はぁ、202号室」
「へ?揺れる?地震ですか?エ、違う」
「はぁ、へぇ、おまけに?エ、うるさい?はぁ、」
「はぁ、ははぁ、その、マ…」
「春ですからねぇ」
「エ?もう七月だ?そりゃあゴモットモ、マァ今日のところは御勘弁、またあったら連絡してくださいナ」
ちぃん。
モクジ
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