お礼詰め合わせ(1〜5)

都合が悪いと ほらすぐ煙草
 そうして私を 煙に巻く

「アケミって女から手紙が着てんだよ!!」
富樫はドン、とテーブルを叩く。
会いたい、
貴方の子供がいるの、
会いたい、
会いたい、
会いたい、
貴方の子供です。面倒を見てください。
そんな言葉が連ねられた手紙である。
手紙を持ってきた幼い子供は笑っている。
「…………」
塾長は煙草をふかしたまま黙っていた。
青黒い煙の向こうで塾長は黙り続けている。

その、塾長の子供?を一旦預かることになった富樫。

「もしもし」
「もしもし、富樫か」
「おう。ちょっと悪ィんだけど桃、ミルクとオムツ買って来てくれ。それからアカンボに必要なモン」
「!!!?」

まさか予期せぬところで被害が出ているとは誰も、思わない。



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兄の意見と ナスビの花は
 千にひとつの ムダは無い

「あんちゃんがな、嫁にするなら自分より小さくって、弱い子にしろって言ったんじゃ」

『源次ィ、おめえは男じゃ。つよーい男じゃ。
 だから嫁さんには自分より小さくって弱ェ子にしろや。しっかりおめえが守ってやるんじゃ。いいな』

「だから桃、悪ィ」
「!!!?」

まさか予期せぬところで被害が出ているとは兄も、思わない。



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お酒飲む人 芯からかわいい
 飲んでクダまきゃ なおかわいい

「富樫、昨日やり過ぎてしまってな」

領収書の金額に富樫は目を剥いた。
「な、ナァんじゃこりゃあああああ!!!」
ゼロが一つどころではない、四つは多かった。
塾長は頭をかいて、なんでもないように笑った。
「キャバレーに無法者がおってな」
「おってな、じゃねぇ!いたからって店壊すこたねえだろうがよ!!」
「ふん、軟弱な店だったのだ」
「なあああああ!」

「すまんな、」
塾長が珍しく詫びる。
富樫は言葉を失った。いつもワガママ勝手でやりたい放題の塾長が、すまんな、と言ったことに芯から驚いた。
「…いや、その…」
うつむいてしまう。古女房が、長年連れ添った亭主から優しい言葉をかけてもらった時はこんなものだろうか。

「俺ァ、別に…」
「そうか、お前にボーナスぐらいは出してやりたかったんだがな」
「ボッ」

今この瞬間、富樫のボーナスは泡と消えたのだった。


「すまねぇな桃、今度旅行行くって話だがよ。どうも金が無くって行けそうにねぇや。悪ィ」
「!!?」

まさか予期せぬところで被害が出ているとは誰も、思わない。


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松という字は 木偏に公よ
 きみが離れりゃ きが残る

オトナな関係、字面にしてみるとなんともハレンチ。
しかしやっていることは鯨の交尾のようにドタバタ乱暴で、やかましい。
二人長時間にわたってハレンチ三回戦かまして、布団に着地して、今。
富樫がタバコをふかして、虎丸はぬるくなったビールを啜る。

いつも先に逝ってしまう男に惚れた自分は、馬鹿だと虎丸は思う。
そいつが死にたくない死にたくないと喚きながら逝けばまだ、惜しみ悲しむ涙を流せばいい。
だのにそいつはニッカリ笑って、後の自分に託して、万歳三唱死んで逝く。
いくら自分が名前を呼んでもそいつは笑ったままだ。
満足して死んでいく。
自分の気持ちなどまるで考えないで、独りよがりに死んでいく。
放り出された、省みられる事の無い自分の気持ちばかりがただ積み重なる。
気の無い男に惚れた自分は馬鹿だ、虎丸はまた笑った。



「富樫よ、次ァ俺きっと先に逝くぜ」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、ついこないだ百まで生きるって言ってたじゃねえか」

会長就任、実務を社長に任せ肩の荷が下りた。これからは遊んで暮らすんじゃ。そう先日虎丸が言っていたのを富樫は覚えている。

「そしたらおめえ、きっと今までスマンかったって、大泣きすんぜ」
「ああ?いつ俺が謝るような事したってんだ」
「おめえにはわからんじゃろうなァ」

意地悪い気持ちがむくむくと、虎丸はにやけた。
花にうずもれた自分の死体に取りすがって、泣きながら謝罪を口にする富樫の想像は悪くない。
ニヒヒ、気味の悪い笑い声をもらす虎丸を富樫は睨んだ。

「……借りがあんなら、返すぜ」
その借りがどんなものかわかっていないだろうに、富樫は気を吐いた。
その借りがどんなものかわかっていないだろうに、富樫は、

生きている今に返すとそう言った。
虎丸の目が猫のように細くなる。
「…おめえらしいぜ、富樫」
「たりめぇじゃ。借りたモンは返す」


毎度零した涙が救われる気分になった。
省みられなかった気持ちに今、光が当たる。浮上する。
「……ほーん。そんなら富樫、ちょっと尺ってくれや、ヘヘヘ」

まだ残ってんのか、富樫が呆れたように笑って、虎丸も笑って、それきり。
シリアスなんかに終わらせない。


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夢に見るよじゃ 惚れよが薄い
 真に惚れれば  眠られぬ

むっくりと桃は身体を起こした。目が冴え冴えと冷え切ってしまっていた。
隣の伊達が眠るさまを、桃は横に身体を起こして見下ろしている。
傷が走るその頬は月明かりでもないのに蒼ざめて見える、桃はそっと指をその頬へと伸ばした。
ひやり。
ひやり。
その頬にもし雪が降っても、その雪は解けないかもしれない。
その口元に花びらが降っても、息遣いに飛ばないかもしれない。
その瞼に光がさしても、まぶしさにしかめられないかもしれない。

「伊達」
そっと伊達の名前を呼ぶ。
桃はもう二時間近く眠れないでいた。
あと一時間もあれば夜が明ける。
朝が待ち構えている。
朝が始まれば、夜が終わる。
この音のない世界が終わる。


「伊達」
もう一度名前を呼ぶ。
伊達の瞼がうるさげにひとつ震えて、目を開く。
不機嫌そうな面差し、目線が左右にぶれて、見下ろす桃とかち合った。

「うるせぇな…何だよ」
伊達の眠りは浅いが、貪るように眠る。貴重なそれを妨げたことが今更ながら桃は申し訳なくなってきていた。
「…いやその、眠れなくてな、どうも」
「だからって俺を起こすんじゃねぇ、布団ひっかぶって寝ろ」

「俺の夢を見たか」
一拍たりとも伊達の返答に遅れは無かった。
「見ねぇよ」
「そうか」
桃はうっすら笑った。




「俺はお前の夢を見たよ」
眠れなかったんじゃねぇのか、伊達は聞き返そうとして、桃のその横顔があまりに蒼かったので言葉を忘れた。

モクジ
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