桃桃サンドウィッチ

昨日降った雪も解けたはいいが、朝もう一度それが凍ってツルツルアイスバーン。
腰を打って全治二週間の老人が出たとか出ないとか。

ともあれ、男塾一号生筆頭室である。

筆頭室と言っても二号生三号生のような、ここで政治でも出来そうな規模のものではない。
机が一つに、丸椅子が二つ。折角用意してもらったのであるが桃は滅多にここを利用しない、丸椅子を二つ並べても寝転がれないし、娯楽もないので素敵な級友 も誰も寄り付かないからである。
その一号生筆頭室、人影は二人。
一日授業と名ばかりのシゴキを耐え、夕飯に風呂も済ませ、つかの間のささやかな自由を味わっている時間帯である。
普段であれば花札に参加したりしている頃である。
一号生筆頭室、人影は二人。
澄んで磨かれた星のあかりが細く差し込んでいる。
一号生筆頭室、人影は二人。


桃と桃とが、部屋で睨みあっている。
一号生筆頭、剣桃太郎と、
一号生筆頭、剣桃太郎とが、
睨みあっている。
睨みあっているというのは正確ではない、二人の目には憎しみや怒りなぞ欠片も無い。
ともに微笑を浮かべている、しかしいつもよりはぎこちない。
それは目の前の人間が、自分であるという事柄によるものである。
ほぼ確実に無いことではあるが、自分に微笑みかけるというのはなかなかどうして気味の悪いことであった。

「…それで、」
桃が口を開いた。
「……ああ、」
桃が答えた。両名ともに桃である。区別をしようにもどちらも本物の桃である、困ったことになっていた。
「俺は、お前は、どうしてこうなっているのかわかるか?」
「フッフフ、お前はもうわかっているだろう」
「…そうか、やはりか」
「そうさ」
桃と桃は太くかっきりとした眉の尾を下げて、苦笑をした。二人ともわかっている。
どうしてこの夜に桃という既に一人として完成された人間を二つに、チーズのように割いて二つにしたのかをわかっている。

「俺が俺と?フッフフ悪い冗談だ」
「まったく、下らんことを考える奴もいるもんだぜ」

二人苦笑を膨らませ、笑いをちらちら熾す。丸椅子に座り、全く自分と変わりない男の顔を見ながら月明かりに瞬きを繰り返した。
一人が二人になった理由それはすさまじく下衆な理由からである。

即ち、
『自分同士で睦み合えばどうか』
というもの。

「馬鹿げてるぜ」
「馬鹿げてるな」
「だがこのまま力が割かれてしまうのも、面白くはない…な?」
「そうだな、このままでいるのはつまらんし…俺の顔も見飽きた」
違いない、二人は更に笑った。元が自分である、手加減も要らぬ。そして考えることが全く同じということもあって面倒な説明もなにもかもが要らぬ。

「さて、どっちが下になる!?」
「どっちがって、…お前さ」
「そういう訳にはいかねえ、いくら俺だって自分に抱かれる趣味はねえ」
「お前がそう言うって事は、俺もそうさ」


二人同時に丸椅子から立ち上がる。
共に美しい、どちらが鏡だとしてもそのせいで損なわれる美しさではない。
二人共に余裕ありげな、頬に刻んだ笑みが冴えている。
顔を近づけた、合図があったわけでもないのに同じ速度同じ角度で近づいていく。
唇が触れ合った。鏡に口付けたとするにはあまりにも生気がありすぎて、どう見ても生身の男同士が唇を触れ合っているようにしか見えない。
単に唇を合わせただけにはとどまらない、仕掛けたのもまったくの同時。舌で探り合う。
『お前は、俺か?』
『俺だとも、そうだろ俺』
生臭さの無い星光の差し込むもとに探りあいを終え、唇を拭う動作までもがぴたと揃う。


噴き出した。
「ふ…フッ、面白くもなんともねえぜ」
「犬にするほうがマシってものさ」

ともあれ目標は果たしていない。

「…で?俺にどうしても俺を抱かせようって魂胆だったか?」
「そうだな、だがもう俺は面倒になった」
「抱く…なあ」



間の悪い事に、いつまで経っても消灯の号令をかけにこない筆頭を迎えにドアを開けた者が居た。
顔に特徴的な傷、六つの傷が走ったその顔。
伊達臣人である。
桃と桃は顔を見合わせた。


「伊達ー」  「伊達ー」
「!!?も、っ」
「伊達、ちょっと頼みがある」 
 「伊達、ちょっと頼みがある」  




間に挟まれた格好の伊達は、その顔に驚愕を浮かべて硬直した。愕然としている。
桃と桃は共に右足から踏み出して、笑顔を浮かべながら近寄った。
現れたのが伊達であることを心から感謝している清清しい笑みである。






二人で、が。
二人がかりに、になっただけの話。
「俺を殺す気か…!!」
「殺すだって?俺がそんな事をするわけがねえ」
「俺も、そっちの俺もお前を心から好きさ」

好きだからするのさ。その言葉に伊達は心をぽっきり折られた。そんな言葉にぽっきり折られた自分を心から伊達は憎む。
モクジ
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