雨月水晶譚

三面拳、月光。
静にして動、静謐なる男である。彼の長い睫毛に縁取られた目は盲目である。
盲目であるにもかかわらずその身体捌きは見事なもので様々な武芸に通じていて、事前に話を聞いていなければとても気づけない。
それは三面拳を束ねていた伊達ですらそうだったようで、戦いの最中明らかにされた盲目という事実に腹の底から驚いていた。
月光がどうして健常者とさほど変わらない、それどころかそれ以上に秀でて動けるのだろうか。答えは心眼にある。
心眼、心の眼、おとぎ話にでも出てきそうなそれは確かに存在している、そうでなければ月光の強さに説明がつかぬ。
「……心眼、それはどのように見えるのでしょうか」
雷電が勉強をみてやっている小学生がそう雷電に聞いた。興味に見上げる眼がくるくると揺れて、雷電の教えたがりの虫を刺激した。
「拙者にもわからぬ、それは…月光にしかわからぬであろう」
「そうですね」
「興味があるか」
「はい、先生の話はどれもとても不思議です」
「…そうでござるな、今月光の話で一つ思い出した話がある…」
「はい」

雷電と小学生、たった二人しかいない私設図書館はちょうど三時。おやつのどら焼きをつまみながら雷電は話し始めた。



月光は生来眼が見えなかった。つまり一度もあの底知れぬ瞳は光を知らぬのである。
そしてその原因である眼病は次第に進行していく類のものだったらしい。
「その…眼が見えなくなる以上に何か悪くなるのですか」
「うむ。眼球肥大、つまり形が大きく変わって脳を圧迫するのだそうだ」
「……」
家族がとった治療、それは幼い月光の眼を取り出すことだった。繋がる糸のような神経ごとずるりと引きずり出すしか思いつかなかったのである。
「うう」
痛そうに眼を押さえている生徒に、雷電の口元が少しほころぶ。
「月光さんの父様も、辛かったんだろうと思います」

そうして月光の眼は体内よりくじり取られることになる。しかしこのままだと眼の中に何もなくなってしまっているために瞼がへこんでしまう、そこで二つの蒼 水晶の珠をこしらえて眼の中へと押し込むことになった。


月光はそれから心眼を開くための修行に明け暮れることとなる。

「…月光はそこで、不思議なものを『見た』と言った」
「『見た』、ですか?」
「拙者や貴殿のような見え方とは違うであろうが、月光は確かに『見た』と言った」
「……何を見たのですか」
「おそらくは人ならざる化生の類、と」



雨が降り出した。
モクジ
Copyright (c) 2008 1010 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-