拍手お礼ログ春2


春である。
虎丸はヘヘヘと笑いながら新しいサイフを伊達へと見せた。
「どうじゃい、春サイフってのは縁起が良いんだぜ」
「あ?」
「春を張るってかけてな、金がたくさん入りますようにィ、っちゅうこと!」
どうじゃーい、虎丸は後ろで束ねた髪の毛を揺らして伊達の肩へとタックルをかけた。
どすんとぶつかった虎丸を伊達は捕まえた。捕まえたというのは伊達の主張で、一般的には抱きしめた格好である。
伊達の問答無用の男前面がすぐそこに迫って虎丸、慌ててしまう。間近に見るには伊達すぎた。
「中身はどうした」
「ア」
言われて初めて、サイフ入れる金がないことに気づく。たちまちしぼんだ幸せほっぺ。
バカだな、そう伊達はその虎丸顔を見て小さく笑って、素早く日焼けた額に唇を落とした。
「ぅお、おま、え」
「分けてやったんだ、てめえの顔が少しは良くなるようにな」
不意打ちに弱い男虎丸、ギャーッと赤くなって動きを止めた。
伊達は非常にご機嫌である。
「お、おい秀麻呂、あいつらには羅部湖目いいんかのう」
「ばっきゃろう椿山、めったにあることじゃねえんだからほっといたれよ」
「…わいたかのう、田沢」
「わいたらしいな、松尾」
伊達男だって浮かれっちまう、春なのだ。






春である。
富樫はぐすぐすと涙を学ランの袖で拭った。
「うう」
涙声、鼻声である。新たな涙が
誰かが涙と言うのはうつくしいといったが嘘である。
たいへんにみっともない。
花粉症である。
ぶえーっしょ、大きなクシャミ。
たいへんにオヤジくさい。
「辛そうだな」
桃は富樫へティッシュを差し出した。
「ああ」
「決めた、俺、空気清浄機を買おう」
「も、桃、おめえそんな…毎日食べ物だってロクに買えやしねえってのに…」
「いいさ。お前のためだもの」
「…桃…!!」
羅部湖眼禁止!!秀麻呂がホイッスル片手に乱入するまであと五秒。






春である。
とてもいい満ちた月が空で白白と輝いている。
いい夜だなと伊達は珍しく酒を上機嫌に、とても美味そうに飲んでいた。
普段どんなうまい酒でもどこかしらけた顔で飲む男である。
喉を二つ鳴らして干し、新たな酒を手酌する伊達。
桃は笑った。
「見ろ、夜桜も風情があるな」
「ふん」
伊達はまんざらでもない。
「春も盛りという奴だ」
「ふふん」
伊達はまんざらでもない。

「俺もサカりという奴で」
「帰れ」

人生の盛りを春と言うが、
桃だって春が盛りなのである。

モクジ
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