その『だって』は間違いだ
出会い頭に 頭と頭
あ、いたかったと 目に涙
【都都逸】
「畜生どうも気にいらねぇ」
入塾式で、遅れて入塾した俺は一人壇上から挨拶をすることになった。俺を見る視線ときたら誰も彼も優しくって、ああ気のいい仲間なんだろうなって俺も嬉し
い。
けどそんな中で、俺を見るなり校庭へツバ吐いて、教官にどやしつけられた男が居たんだ。
唇を尖がらせて、いかにも忌々しそうに俺を見たそいつ。目をまたぐように傷があって、学帽をしっかり被ったそいつ。
その男は、初対面だというのにどうしてかいきなり自分に敵対心を抱いたようだった。どうしてだろう、俺がそんなに気に食わなかったんだろうか。
嫌われた?それは俺の行く手を阻むように差し出され、いかにもかかってこいと言わんばかりの脚が雄弁に語っている。
しかし俺はそいつの鼻っ柱の強そうな顔と、それからからかうような目付きが気に入ったので、
(面白そうな奴だな)
そう思った。だからそいつが伸ばした脚を避けて、
「まあまあ、カッカするな」
肩をぽんぽん叩いて笑って見せたのだった。同級生だろ、仲良くしようぜ。そんな俺の気持ちは真逆へそいつを逆撫でしたようで、
「畜生どうも気にいらねぇ」
そう、言ったのだった。けれど俺はすっかり、なんだか愉快ですっかり気に入ってしまったのだ。
「…今だから聞くが、お前はどうして俺をあの時嫌ったりしたんだ?初対面だぜ?」
それから数年経って、そういうことを蒸し返して聞き返すこいつが、どうにも俺は苦手なまんまだ。なんじゃいニタニタしやがって、わかって聞いてんじゃねえ
や、ええっ?
タチが悪ィんだ、桃って男は。
腕も立つし頭も良くって、そんで俺達ゴンタクレの立派な筆頭だぜ、代表じゃ。
だけどタチが悪ィ、どうにも茶目っ気が過ぎるっつうか、なんつうかその、
「っだらねぇ事聞くんじゃあねぇよ、ダボ」
「いいじゃねえか、…フッフフ聞かせろよ」
やっぱりタチ悪ィ!俺はせっかく塾長の晩飯のついでに作ってやった牛丼を、今すぐ下げちまおうと桃の丼に手を伸ばした。
丼を取り上げようとした瞬間に桃の手がサッと、俺にゃまるで見えない素早さでもってサッと出てきて、かわりに俺の手がつかまれちまう。
畜生、ムダに素早ェんだからな。
「………」
無言の桃はどうにも、重たくっていけねぇよ。桃が刑事でなくってよかったぜ、こうジッと、ジーッと見られて口割らねぇ野郎なんかいないだろうぜ絶対。
俺はもう長ェ付き合いだがよ、いっぺんこっきりもこの目に勝てた事は無ェ。
俺が負けるってのが決まってるってのはそりゃ、腹が立つけどな。
でも俺はもう最初っから、あの脚伸ばした時から桃にゃ敵わねぇってわかってたような気がしないでもねぇ。
そんなんわかりたくもねぇけど。
「チッ、だぁらよ…だから、」
「だから?」
桃の笑い方はどうにもニコニコ爽やかで、今にも選挙に出られそうだ。っていうか、こいつ政治家だったな、口がうまいのもあったりまえだ。
畜生牛丼まで食わせてやったのに俺がなんでこんな問い詰められなきゃいけねぇんだよ。
だから、その、
「てめぇがあんまり格好よくって、そんでもって皆が散散囃すからよう。それがムカっ腹立てたんだよ」
俺の言葉に桃はものすごく、ものすごく嬉しそうに笑った。今までだって笑ってやしたがよ、もっと別の、別格の笑いだ。
特別?バァヤロォそんな特別俺になんて使うんじゃねえよ勿体ねぇな、そんなんされたって俺ァとっくに――
「なんだ富樫、それじゃあ俺の外見がとっても、好ましかったからつい反発したって、そういうことか?」
「バ、」
…テメェは、いつも俺に野暮だ野暮だって言っておきながら、どうしてそういう事抜かすかな。
「バ?バカそんな事言わせるんじゃねえよ、ってところか?」
「ボッ、」
俺の水はいきなり沸騰だ、ヤカンピーピーじゃ、バァロォ!
「ボケ、恥ずかしいだろうが、か?」
沸騰通り越して爆発じゃ、爆発!
「テッ、」
「てめえのそう言うところがでぇ嫌ェじゃ―――そうだな?」
俺の言いたい事全部を桃は残さず言って、
「だけど俺はお前が大好きさ」
だけど、に繋がる大好きさ。
大好きサッ、そんな思いっきりのいい、迷いなんぞどこ見ても無い、そんな風に。そんな事を『だけど』の後に言われて俺がどう思うかこいつは考えたことあん
だろうか。
いつもいつも言いっ放しのやられっ放し、いい加減俺も腹が立ってきたトコでもある。ハッキリさせてやらなきゃなんねぇ。
俺はいつもならそこでアウアウとわなないて、桃のペースに持ち込まれて終わりだろうがな。
俺の部屋にある二枚きりの座布団、一枚は桃に、もう一枚は勿論俺に。その座布団の上に膝ついて、ちょうどヤクザが仁義切るみてぇに身を乗り出してつめよっ
た。
「オウ、テメェさっきから好き勝手人のこと言ってっけどな…だけどってのは何じゃ」
「うん?」
「だけどってなァ、その前に反対するって事だろうがよ」
「ああ、そうだな」
てめえのそう言うところがでぇ嫌ェじゃ――だけど。
だけどじゃねえんだよ、そりゃ成り立たねぇんだよ。
「俺はお前が、桃が好きじゃ。ホレてんじゃ、いっつもいっつも俺が嫌がっても好きだなんてタコ抜かしゃあがって」
「富樫」
「オウ」
どうじゃい、いつまでもテメェの独りよがりだなんて言わせやしねぇぞ。
そりゃよ、最初は気に食わなかったってのは本当だけどな。だけどな俺も年取ったしてめぇとどんだけ付き合ってると思ってんだ、
俺がわざわざ塾長の飯のついでだからって、牛丼こしらえてやるかよ、わざわざ。
「富樫」
「オウ」
独りよがりみてぇな事抜かしやがって、聞いたらいいんだ。俺を好きかとか、そういう風に。
だのにこいつと来たら外側からチクチクチク、面倒ったらねえよ。
「富樫、嬉しいぜ」
「オウ」
そりゃ良かった、
そう言ったら、桃の野郎途端にアレコレがしたいだとか抜かすから、勿論俺は殴った。
ちょっと甘やかすとすぐコレじゃ。
まったくしようのねぇ奴だぜ、桃、剣桃太郎って野郎は。
Copyright (c) 2008 1010 All
rights reserved.
