とってもエロスな夜でした☆

あいしてる。
あいしてる。
あいしてる。
あいしてる。

重ねつづけたらそのうちヒョッコリまるきりべつなものへと、塗りかわるだろ。

【絵筆】

三月三十一日の午後である。
三月三十一日だというのに邪鬼をはじめ三号生もいるし、普段どおりにシゴきもある。
しかしここは男塾であるので、さして驚くことでもなかった。
その三月三十一日、夕食と呼ぶのが切ないほどの食事を済ませて風呂を使い、談話室でここしかないほどに手足をだらんと投げ出し、掠め取るようにしてくつろ ぐ塾生達。その塾生の中で秀麻呂は寝転がって雑誌を読んでいた。
雑誌を読むということに、いかにもカッコウをつけるのが塾生である。
どうだよ、オレってば今トレンディじゃろ、そんな顔で雑誌をやたらゆっくりとページを捲っていくのだ。内容なんぞ頭に入らない、今雑誌を見ている自分を演 出したいがための指先である。しかし秀麻呂は違った、他の塾生達と比べてまだシャバッ気というものがあり、雑誌を読む仕草が手馴れている。
コラムのページは長めに、もとから興味のないページは素通り、眼はじっと注がれていてあたりを気にすることもない。
その秀麻呂は口を開いた。
「なあ知ってっか?明日ってばエイプリルフールだぜ」
同じく隣で寝そべっていた富樫は肘枕から頭をもたげた。
「なんじゃそりゃ」
「ウソついてもいいって日だよ知らねーの?明日一日ダマされたほーがアホなんだよ」
「ほーん」
気の無いそぶりで富樫は聞き流していたが、頭の中ではキラリと輝く種がある。
そうだ、そうだ、
(桃をダマしてやっか)
ウヒヒヒ、といかにも三下の悪役が悪巧みの時に上げそうな笑い声を秀麻呂は聞いた。
しかしほうっておいた。
(いっつも俺ばっかり振り回されっちまってっからな、ダマしてやらあ)
「まーた何かロクでもねーこと考えてんな、富樫のやつ…」
「こりんのう」
「本当じゃのう」
級友達がヒソヒソとささやき交わすのも知らないでいる。富樫は幸せであった。
四月一日を決戦とする、
ともかくそうなった。



決戦四月一日。布団のワタぬきの日である。
富樫は朝から桃の姿を探している。もちろんシゴきの最中や教室や食堂では姿を見かけるのだが、桃ときたら寝てばかりであるし、食事時間は口を利くのもおし い。
結局富樫が桃をつかまえることが出来たのは午後のシゴキもすべて終えてからとなった。
桃が校庭を歩いている、まだ夕日と呼ぶには早すぎる午後四時の西日を背負っていた。桜の花であれ夕日であれ海であれ、背負い映えのする男である。
「桃よう」
「富樫、……」
話しかけた富樫へ、桃はきれいな目をして微笑んだ。今日中中言葉を交わすことのできなかった富樫が話しかけてきたのに対して桃は素直に微笑を返す。
「…お、おう。その桃知ってっか」
富樫は切り出した。学帽のつばを捻って切り出した。

「おう、邪鬼の野郎ついに卒業したらしいぜ」
「そうか、それはめでたいな。それなら何か祝いの会でも開こうぜ」
「(ヒヒヒ、ダマされてやがる)でな、桃、実は赤石先輩だが…あの白髪はファッションらしいぜ?もともとは黒髪なんじゃ」
「!!そうだったのか…やけにきれいで、一筋残らず真っ白だと思ってはいたんだ、そうか、あれ染めてたのか…でもなんだって」
「(ウソじゃ、ウソ!)鬼ヒゲについに彼女が出来たし」
「ま、まさか…富樫そりゃあいくらなんでもウソだろう?」


気が晴れたので、富樫は盛大に噴出した。

「ウソじゃ、ガッハハ桃おめえ他愛ないのう!」
真面目に富樫の言葉を聞いていた桃の顔がおかしくっておかしくって、富樫は腹を抱えんばかりにして笑い出した。
堪えていた笑いは一旦はじけるとおさえるのが難しい。


「桃、桃、おめえエイペリルプール知らんのか」
「…エイペリル?」
「おう、その日はウソつき放題、ダマされた奴がアホウなんじゃと」
「……そうか…ウソか、全部」

桃はちょっとムッとしたようである。柔らかい頬の辺りに不機嫌を膨らませ、ちょっと顎を引いて富樫を睨んだ。痛くも痒くもない。

「酷いな、すっかり驚いちまったぜ」
「普段イロイロされてんだ、こんぐれえアイコじゃろ」
「……イロイロ」
桃は的確に言葉を拾い上げて繰り返した。たっぷりと含まれた意図に富樫は口をとんがらせて抗議する。
「く、繰り返すんじゃねえや、オウ」
「………イロイロ」
もう一度繰り返した桃に、富樫は思わず声を張った。
「て、てめえのそういうところがでぇ嫌ェなんじゃい!!」
瞬き。
桃の瞬きは音がしそうで、ぱちくりと睫毛が羽ばたいた。
一瞬のそしてすぐに微笑みへと転ずる。


「…嫌いか?」
売り言葉に買い言葉、誘い言葉に乗り言葉。富樫はオーウと胸を張って繰り返す。
「嫌いだ」
「……大嫌いか?」
「……ま、まァな」

晴れ渡る、澄み切って、あかるに照る、その笑顔。富樫が好きな笑顔で桃は笑った。いつも笑っている男だが、中でもとびきりの笑顔で富樫に笑いかけて腕を伸 ばす。腕を伸ばすと言うとそっと差し出した程度の速度に感じられるが実際は眼にも留まらぬ速さで富樫へと突き出され、富樫は何が何やらさっぱり分からない ままに抱きしめられた。抱きしめられたというよりは抱きつかれた、桃の腕が富樫の肩幅一杯へ絡みつき、桃の胴体ごと密着してくる。

「ウッ!」
「ウソ…なんだろう?」

上目の桃は小悪魔なんかじゃあなく、しっかりと悪魔の目つきをしている。性悪で正直で素直な悪魔が富樫を抱きしめた。

「は、離せや!」
「ウソだな」
「暑ッ苦しいんじゃ!」
「ウソか」
「うっとうしい奴だぜ、桃、もーも!」
「……ウソだ」


富樫はとうとう折れて、謝罪を述べることにした。どうあっても負けである。

「も」
「…どうも、駄目だったな」
もし両手が自由だったら、ぽりぽりと頭を掻いているだろう声の色であった。
「…あ?」
「お前が俺を嫌いだって言うから、仕返しに【俺も大嫌いだ】って言ってやろうかと思った」
「………」
「駄目だな、嘘でも俺はお前を嫌いだなんて…言えやしねえ」
「……も、桃……」
「今日俺はお前に何にも言えないぜ、富樫」
「桃!」


富樫はグッときた。ものすごくグッときた。グッ、では弱いかもしれない、ギュウウウンと胸にきた。
桃という男のまっすぐなことよ、隠すことなき心根の素直なことよ、それにくらべて自分はどうだ、恥じた。
恥じて、惚れ直した。これはあくまで男が男に惚れるというやつで、いかがわしい劣情は入ってやしないと富樫は信じている、抱き返して桃の名前を強く呼ん だ。
言葉がなんだ、ウソがなんだ、この抱く腕に全てを込めるぜと熱く暑苦しく富樫は桃を抱きしめた。喉の奥からクゥウと絞るような声が漏れていく。

「桃!すまねえ桃、俺ァ…」
富樫の頬を桃は滑るようにして、手のひらで包んだ。桃は鼻先をあわせるようにして富樫の顔を覗き込む。富樫も真っ赤だった、桃も真っ赤である。
赤い色は夕日の色である。さっきまで黄白だった太陽がどこから吸い取ってきたのやら朱に染まって、とろとろと赤い日を投げながら西へと走っていく。
「言うな」
富樫の言葉を桃は封じる、今日は嘘の日。
「俺たちに言葉は必要ないだろう」
「ヘッヘヘ、違ェねえや」
赤赤と二人頬を染めて鳥のように獣のようにつがいとなった。小鳥のようにお互いついばんで、獣のように身をよせて。
日が暮れようかというその気配。






「ひ、秀麻呂ォいいのかよォあれェ」
椿山は二人を指差した。椿山と秀麻呂がいるのは寮の食堂、もう夕食が始まろうとしている。
「…桃と富樫の食事、取っておいてやろうぜ」
「秀麻呂いいのかよゥ、もう一時間はああしてるよォ」
※ああ=「桃…」「富樫…」「桃!」「富樫!」「…もも、」「……富樫…」の一連のやり取り。
「うっるせぇや!とにかく食事とって置けって言ってんだァ!」


秀麻呂、エイプリルフールを吹き込んだ責任を感じてもいる。


その夜富樫と桃はとってもスケベでエロスでハレンチで教育上とってもよろしくないギットギトな夜を過ごしました☆
(今日は四月一日である!)
モクジ
Copyright (c) 2008 1010 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-