口説き文句は君が星。

目が覚めたら、真っ暗なんだ。
いつも通りくっさい布団に身体突っ込んで寝てたんだ。
で、なんでか身体が重たいんで眼をさましたらこれだ。真っ暗だ。
まぁうちの寮だって10のうち4は電球切れてるか割れてるかするから構やしねぇがな。
目が覚めたら、真っ暗で。
窓も見えないくらい真っ暗なんだよ。手も見えねぇ。というか頭がちいとも動かんのじゃ。
身体がずっしりすげぇ重いんだ、こないだテレビでやってたろ、アレ、金縛りっちゅうアレだな。

目は覚めたが身体はぜんぜん駄目だ。動かん。
「虎丸」
呼んでみたら声は出た。寝起きだったから声がひっくりかえっちまったけど、まぁいいわな。声は出た。
隣の部屋は虎丸と伊達、その反対側は松尾と田沢。
虎丸と伊達を一緒の部屋にするってのは中々勇気がいるもんだ。案の定わかりきってたが、毎日隣でどっすんばったん殴り合いの音が聞こえる。
いつだったか虎丸に、なんで伊達と一緒になったんだか聞いてみたんだった。
「わぁんね」
わかんねぇじゃねぇとそん時は笑ったが、よく考えてみりゃ虎丸らしい答えだ。馬鹿で馬鹿な上馬鹿だが、かわいい馬鹿がいいって伊達がいうからなんとなく、一緒になった。単純で馬鹿で虎丸の野郎らしい。うれしそうに伊達は、にゃあと鳴いた。鳴いたっけか。寝惚けてんのか俺ァ。
まだ夜だもんな。夜だよな俺寝てたし、動けやしねぇが。
そういや俺はなんで桃と部屋を一緒にしたんだったけか。思い出せねぇ。


どうせ暗い、
どうせ動けねぇ、
どうせ眠れねぇ、
どうせションベンにもいけねぇ、
できれば漏らす前に金縛りが解けてくれりゃあいいが。
この年になって寝ションベンタレたら、あんちゃんに会わす顔がねぇ。



「虎丸ゥ」
あまり人を頼るのは俺らしくねぇけど、虎丸は馬鹿だけど俺の一番の相棒だ。
名前を呼ぶと、金縛りが更に強くなった。霊魂だとか自縛霊だったか、そういうのが怒ってるのかもしれん。
虎丸は駄目なのか、

「田沢ァ」
「松尾ォ」
「伊達ェ」



「飛燕」
呼んだらすぐに、内臓が口とケツから飛び出すほどに締め上げられた。
「お、おぶぶぶぶ」
死ぬ、死ぬ、今すぐにじゃあねぇが死ぬ。
口とケツから内臓吐いて死ぬなんざゴメンだ。だが死にそう。
息が詰まって、頭がキンキンした。海で溺れかけた時みたいに、頭がキンキンする。
桃が言ってたな、人間頭にサンソがいかねぇと目の前が真っ赤になるんだと。
変だな、真っ暗のままじゃ。桃だってたまには間違うんだろーか。
そうだ桃、隣で寝てたんだったか、桃、桃、助けてくれや。
俺は桃を呼んだ。










「も、桃ォ」










桃が言っていた。あいつはいつもどこでもごろんと寝転んで空を見てるから、なにがそんなにおもしれぇんだと聞いてみたんだ。
面白いさ、桃は笑う。あいつの笑う顔は好きだ、なんとなく俺まで笑っていいようないい気分になる。
桃は言っていた。
地球の外側には宇宙っていうのがあってな、桃がガキに言うみてぇな口振りだから、それっくらい知ってらぁと俺、怒る。
その宇宙っていうのが出来たのはどうも、爆発のせいらしい。爆発したそのショックで色々、星やら宇宙が出来たんだと。

そのときは桃の言葉にふぅんって相槌打っただけだったが、実は良く分からなかった。
何が爆発したんだとか、どうして爆発したんだとか、爆発するとなんで宇宙ができるのかとか。宇宙は謎だってくらいなんだからきっと桃だって全部はわかっちゃいねぇとは思う。でも、答えはいつも桃が持っているよな、そんな気がするんだ。

今目の前が真っ白だ。真っ暗だったのが真っ白だ。黒がバーンと弾けて白くなったんだから爆発だ。
真っ白な、真っ白になった目の前にああこれが宇宙なのかって思う。
身体も軽くなって、息も出来るようになって、目の前が真っ白だ。



「呼んだか」
それで、桃だ。
「桃、てめぇか」
「そうさ、あんまりお前が起きないから」
桃の顔の周りに白いピカピカが飛んでいる。ピンクと緑とオレンジのもやもやも飛んでいる。
星が桃か。真っ暗の中になにかあるって思えば桃か、星だ。
桃が星か。
「真っ暗だった」

「そうか」
桃の答えは短かった。
だんだん爆発の残りの光が消えて、桃の顔の色が普段見慣れた肌色に落ち着いていく。
俺は桃に腕を引っ張られて上半身を起こされる。体中が痛ェ。金縛りがイテェ。
「今もそうか」
「もう明るいな」
「ああ富樫、これから真っ暗になったらまず、俺を呼べよ」
「おう、そうさせてもらうぜ、遠慮なくな」

映画のセリフみたいに格好つけてキザ、俺にゃあとっても似合いやしねぇわかってる。
でも別に本人に言うわけじゃなし、いいやな。
桃、てめぇは俺の星じゃ。アイドルでもスターでもねぇ、星じゃ。
俺の星じゃ。桃、真っ暗闇の暗闇で、テメェが一番に光ってるぜ。ピッカピカに光ってるから、俺はそれ目掛けて突っ走るからよ、これからもそこで光っとれや。

俺はガラにも無くじーんとして感動した。鼻も熱い。息が苦しくって苦しくって胸がドンドン鳴る。涙も出てきた。
星ってのがこんな近くにあるなんて知らなかったぜ。なんだか得した気分だ。

ところで桃、誰か俺に絞め技かけとらんかったか?うん?見てねぇ、そうか、やっぱりありゃあジバク霊だったか畜生。
よっしゃ、今度雷電に念仏でも上げてもらおうぜ、何ってお払いだよお払い。この部屋絶対何か居るぜ良くないのがうようよと。
俺はいいけど桃はなんだかそういうのに好かれそうで心配だから。な。
俺は俺の一番星の肩を抱いて、さぁ朝メシだと立ち上がった。
夜明けたばかりだっていうのに、何でか太陽はぴかぴか明るくまぶしい。


























伊達と虎丸は窓の外から二人肩を並べて部屋の中を覗き込んでいる。
見つからぬように目から上だけだして、覗いている。

「馬鹿じゃの…」
「ああ、負けず劣らずの馬鹿だ」
ため息をついてあきれ返る虎丸に、伊達は誰とは言わねぇがなとあてこすって言った。
「誰と比べてんだオイ、」
「それにしても危険だった。あと三秒富樫が桃の名前を呼ぶのが遅れてたら確実に絞め落とされていただろう」
アレは中国奥地の部族に伝わる爽殺流奥義、秘技『電蛇羅酢暴威』だと伊達は説明した。虎丸はほぉんと右から左へ聞き流す。
だいたいこいつの話はよくわからん、虎丸は普段から聞き流している。それが気に入らなくて伊達は虎丸の後ろドタマをしばいた。まるで中身がないような軽い音を響かせて、虎丸はなにすんじゃいと口を尖らせる。
「昼過ぎても起きてこねぇからって、桃に起こしてもらったのが間違いだったなー」
そんなのどう考えたって間違いだって気づけよ、と伊達は口に出さずに毒づいた。
寝てる富樫みりゃあカツブシ前にしたネコみたいに飛びつくに決まってんだろ。
それなのに富樫が起きやしねぇから、まぁあの寝起きの悪さじゃ起きねぇよな、ちょいと目隠ししてわくわくしてたんだろう。
わくわくしてるってのに出てくる名前が虎丸虎丸、たまに俺、田沢に松尾、おまけに飛燕じゃあ絞め落としも仕方ない。


「いつまでも覗いてるんじゃねぇ、いくぞ」
伊達は虎丸の尻を蹴った。ぎゃんと虎丸が吼える。また蹴る。


最近、あの尻が無いと落ち着かんとつい卍丸に打ち明けて、伊達はどうも男色のケがあるぜと噂になるのは、また別の話。
モクジ
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