趣味の悪い建物
旅行が行楽と結びついたためしがない。
そこに自分の雇い主が絡んだとなれば倍率は更に跳ね上がる。
今回もどうせロクなことになりゃあしねぇんだ、絶対に。
後ろ向きに、だからこそ富樫は前向きに気を引き締めてかかる。
そういえば、新幹線に乗ったのはガキの時以来だったと少しばかり心を浮き立たせたが、すぐにもし乱闘騒ぎになっても逃げ場がねぇと青くなった。
無鉄砲がウリの富樫。けれど富樫は今ただの富樫個人ではなく、男塾塾長秘書の富樫だった。正確に言えば男塾塾長秘書見習いの富樫だった。
兄の学帽を胸に、男塾魂も胸に。立派でシブイ社会人になるには色々面倒があるのだ。塾生時代のようにエイヤ知るかよそんな事ァと放り投げるわけにはいかぬ。
社会人てな面倒なんだなぁ、愚痴りながらも富樫はくたぶれた吊るしの真っ黒スーツの背中を丸め、未だ現役の黒電話の受話器を手帳片手に取った。
出立は明後日。
名古屋は晴れているか?胸は高鳴っている。
毎年開催の全日本男会議が今回は名古屋で行われるというので、新幹線の席を取らねばならない。お供は富樫ただ一人。
富樫が塾長秘書になって初めての、泊まりを含む仕事である。張り切る前に擦り切れそうになりながら塾長が好みそうな店、塾長が泊まるホテルなどを電話帳で調べる。ネットというのはどうも性に合わなかった。
分厚い電話帳をもたくさぺらりと唾をつけた太い指でめくる。爪が割れている。
「田中、田中、田中、田中ばっかりじゃねぇか、どうなってんだ。料理屋はどうした料理屋ァ」
もちろん富樫がめくっているのは2007年にもなれば絶滅を危惧される個人情報保護丸無視のハローページであった。
気づいた富樫は赤い顔で、となりの黄色い表紙のタウンページを手にした。そそっかしいのは塾生を抜けて間もないことを引いても治る見込みは薄い。
今度こそ、名古屋の料理屋を探し始める。が。
「東京神奈川埼玉…おい、こりゃ関東版かよ」
もちろん関東版だ。さ行にまでめくってようやく気づいた。タウンページを畳へ放り投げる、べしゃりとなんともいえない芸術的なポーズでタウンページは崩れた。倒れぬ。
それを見ていた富樫はなんだか面倒になってきて、つい全国を飛び回って難病治療にあたっている飛燕に電話をする横着をした。
あいつならうまい飯にホテルくれぇ知ってるだろうからな。
じゃーころ、じゃーころ。太い指は黒電話の穴に入りきらない。じゃーころ。
何度目かの呼び出し音が途切れ、砂音の混じる電話口でもなおうるおいある声が耳に届いた。
「…はい、飛燕です」
心の病まで吹き飛びそうな春風のごときあたたかさとさわやかさよ、歯切れよくそれでいてやさしさがあふれた声だ。
「富樫だけどよ」
冷えた。
「何か用か。私はあいにく暇じゃない」
とたんに冷えた。
「ちょ、ちょっとテメェに聞きたいことがあるんじゃ」
「辞書を引け、それくらいできるだろう」
絶対零度だ。富樫は背中に嫌な汗をかいた。電話越しだというのに針をつきつけられている気分になる。
「おすすめのホテルあるか?場所は名古屋なんだが」
「ホテル?……ふうん、へぇえ」
嫌な含みのある相槌だ。富樫は受話器に向けてがなった。
「ち、ちがわい!塾長が名古屋行くお供じゃい!塾長は定宿があるが俺ゃ安ホテルで十分だから探しとるんじゃ」
なあんだ、飛燕の声に軽さが戻った。飛燕、最近はその美貌と執刀の腕で駆け出し外科医としては不要な注目を浴びてしまい毎晩の接待につき合わされているので不機嫌である。
富樫が電話をかけてきたのだから、少しばかりこの男で鬱憤を晴らしたいと思ったところで誰が私を責められようかと開き直っていた。
頑丈で野暮で気が利かなくってどうしようもない男なので、ちょっとくらい私がかまってあげないと。なんて飛燕が笑っていることを富樫は知らぬ。
逆に、危なっかしい野郎だぜ、そのうちポッキリ折れちまやしねぇか?と富樫は富樫で飛燕を案じていることを飛燕は知らぬ。
知らない同士だからこそうまく行っているのさ、などと桃は伊達に笑って言ったことも富樫は知らぬ。
鈍いのだ。
「俺が一人で泊まるだけだし、うんと安いのでいいんだ。しらねぇか」
沈黙の後、ふふ、と耳をくすぐるような笑い声。
飛燕は今までの冷え込みがうそのような柔らかさで言った。
「それなら私はいいホテルを知っている、一泊三千円だ」
「三千円!!?そりゃすげぇや、フロは?」
「全室に風呂はついている、残念ながら食事は出ないが、それでも名古屋駅に近いので食事に不便することはないだろう」
「ああ、十分だ。そんでそのホテルの名前は?」
「ううん、なんと言ったか…すまない、だがタクシーに乗るか人に『鶴のホテル』と言えばわかると思う。有名なんだ」
富樫はメモをとりかけていた手を止めた。首と顔との間に受話器を挟んだまま犬のように唸る。
「バァロォ、そんじゃあどうやって予約するんじゃい」
「たぶんどこかに電話番号はメモしてあったから、予約は私がしておこう。行けば泊まれるようにしておこう」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「私が信じられぬというならそれも仕方がないが」
わぁったよぉ、富樫は続きそうな小言を打ち切ると手帳に乱暴な字で『鶴のホテル』と書きつけた。
ホテルだけにかかずらっている場合でもないのだ。準備に告ぐ準備。富樫は切った電話の受話器に右手で拝む格好を取り、それから塾長の荷物をまとめに家を飛び出した。
飯を食う暇もない。少し痩せたかもしれなかった。
名古屋は晴れているか?
追われ追われの準備をとにかく塾長の分だけは終えて、自らの分は何か足りなくなったら買うしかねぇやと開き直る。
旅行の準備を完璧にしようとするとそれはそれは疲れる。金と電話と、それから切符だけあれば位の気構えが気楽だが、富樫は以外にも考え込む性格も持っており前日は楽しみ以上に不安が付きまとってしまい寝つきが遅くなってしまった。
塾長が頼むから大人しくしててくれますように、富樫はしっかり秋晴れの白っぽい黄金のお天道様に願う。その塾長は後部座席で腕組みをして黙っていた。黙っているが、いつ噴出するかはわからぬ。
後ろに核爆弾を乗せた気分だとハンドルを持つ手に力がこもった。富樫は男塾を卒業してから免許を取ったため、まだまだペーパードライバーである。
だというのに気短かでもう何度もぶっつけている。幸いにして対人の事故はないが、塾長を後ろに乗せているのだから絶対に対物だろうが事故を起こすわけにはいかなかった。
東京中の車、みんな東京湾に落っこちめぇ、富樫は進まない車の列に埋もれながら毒づいた。こんなときにあの赤石(先輩)ならきっと車切り開いて進んじまうんだろうな。ああちくしょうめ。
品川駅までまだまだ遠い。
ようやく品川駅に到着するも、発射予定時刻まで後五分強しかない。渋滞に次ぐ渋滞、富樫は東京の車社会を完全に読み違えていた。
結局予定していたよりもだいぶかかってしまい、弁当を買う時間もなくなってしまったのだ。これは大層まずい。
品川名古屋間塾長に大人しくしていただくには何をおいても飯を食わせるのが効果的だというのに。まずすぎる。
「急いでください、もう新幹線が出ます」
「うむ」
うむ、と言ったっていつも通りの大股だ。富樫は電光掲示板と時計と塾長の歩みを何度も何度も見比べて青くなった。急げよ!!富樫は叫びそうになる。
…やべぇ、まにあわねぇ!!富樫の額に汗が一筋滑っていく。
極限まで追い込まれた富樫がとった行動、それは実に富樫らしいものだった。
「乗れ!!」
敬語も忘れて言うが早いかその場に膝をついて背中を差し出す。朝の品川駅でである。サラリーマンもOLも、外国人も一斉に富樫と塾長を振り向いた。必死に叫ぶ富樫に圧されてか、いや、ただ単に気まぐれか。塾長はうむと言ってその背中に乗った。腰が砕けそうになるほど重い。
「う、お、お、お、おおおおッ!!!」
首筋、こめかみ、太い血管がぶつぶつと浮かぶ。歯を食いしばり、目をギッカと見開くと塾長を背に立ち上がって、走り出した。
上からの自分だけでなく塾長の重みのかかった足でもって地面を蹴りつけ、一足ごとに前に飛ぶように駆ける。
手には二人分の荷物と乗車券。
「ワッハッハッハッ、なんじゃ富樫、歩いたほうが速いではないか、ワッハッハッハッ」
すさまじい上下の揺れなぞものともせずに塾長はドラ声で大笑い。頭上から落ちてくる笑い声に耳をバキンバキンにやられながらも富樫はただひた走る。塾長の言う『歩いたほうが速い』というのはどうにもはしょりすぎた表現である。
常人が歩くよりは速い。だが、塾長が本気で早歩きをしたならばそれよりは遅い、という程度のこと。
富樫は血管ブッ千切る勢いで朝の品川駅をわき目もふらず、競走馬のように駆け抜けた。
どうにか間に合った。
が、弁当は買えなかった。富樫は全身にレースを終えたばかりの競走馬のように汗をかいている。息が整わない。足もジンジンとしびれて、既に筋肉が悲鳴を上げている。
ぜぇぜぇと言うのでは生ぬるい息の乱れだ。
必死に駆けて駆けて駆けぬいた品川駅、塾長を席に座らせることには成功したが、これから一時間餌無しで大人しくしていてくれるのかはなはだ不安である。一応、ほんの気休めだが窓側席に座らせた。景色でごまかせるとは思ってもいないが。
「富樫」
「おうよ」
つい、はいと答えるのを忘れてしまった。拳骨がきても文句はいえねぇ、富樫はせめて歯を食い縛った。潔くあれ、兄の言葉でもあり男の教訓でもある。
「小腹が空いたな」
きたよきたよついに、富樫はワゴンカートを押してくるミニスカのおねぇちゃんの姿を探した。
が、この時間は平日の朝。ガラガラの車両にはなかなかワゴンカートのおねぇちゃんは待てども暮らせども現れぬ。
「次ワゴン来たら何か買いますから」
袖に隠した腕組みの腕が小刻みに揺れた。催促だ。いつばっかもんと怒鳴られるかわからぬ危険な状況である。
ああ速く来いやねぇちゃんよう――落ち着きなくきょときょと見渡すも、来ない。
十分が経過した。
富樫のハラハラは最高潮、塾長の空腹も最高潮だった。
「富樫!」
きたっ、富樫は観念して首をすくめた。
「弁当はまだかと聞いておる」
「だ、だからあとちょっと――」
じろりと睨まれ、二の句も告げぬ。
「弁当は」
「弁当ならここにありますよ…塾長」
富樫は立ち上がった。声はちょうど富樫の背もたれつまり後ろの席から響いてきた。間違えようのないこの声、まさか。
すっくと富樫の後ろで立ち上がり、富樫と塾長の隙間に名物釜飯弁当を差し出す手の持ち主。
「桃!!」
「フッフフ、お久しぶりです塾長」
立ち上がって振り向けばそこには富樫のお星様、神出鬼没のお星様の剣桃太郎がそこに立っていた。新幹線内だというのに風が桃の髪の毛やスーツの裾をはためかせている。自然だって桃の味方なんだと富樫は不思議な理論で納得した。
「桃おめぇ、来てたのかよ」
「来てたのかって言い方はねぇだろう、昨日塾長から呼び出されたんだ」
「あ?」
「ヒヨコと二人旅じゃつまらんからお前も来いとさ」
塾長?
塾長は満足そうに笑っている。すう、と息を吸い込んで胸が大きく膨れた。まずいぜ、まずいな、桃と富樫は顔を見合わせ、耳をふさいだ。
「わしが男塾塾長、江田島平八である――ッ!!!」
名古屋到着は、三十分程遅れた。
どのような惨事があったか、それは想像に難くない。
「塾長、くれぐれも…」
何度目のご注進か、まったく聞き入れてはもらえないのをわかってはいたがそれでも富樫は言う。
飲みすぎるな、
喧嘩売るな、買うな、
名乗るな、
どれも無理だとは富樫自身わかっている。実際全日本男会議の最中何度も名乗っては会場の音響設備や窓ガラスに被害を与えているのだ。
幸いにして男会議に出るくらいなのだからハンチクな男達ではない、皆やんやと喜んでくれたのだけが救いである。一応のところ大成功に終わった。
無事とは言いがたいがともかくも男会議を終え、久しぶりじゃのう西の何がし、やれ息災であったか東の何がし、塾長は気さくに声をかけていく。盛り上がった。大いに盛り上がっている。
となれば、飲みに行こうぜという話になる。まだまだ枯れはせんわいハッハハと精力有り余る親爺達は群れとなってネオンへ向かいかけていた。
それを引き止めるつもりもない。が、名古屋の地で迷惑をかけて警察沙汰だけはごめんこうむりたい。政治家の卵の桃もいるのだ、友の未来をつぶすのはどうしても避けたい。桃のため、とは言わないが。
そんなこと言ってみろい、桃の奴照れもしねぇでまた恥ずかしいこと言いやがるんだ。そんな言い分も知らず、
「塾長、くれぐれも…」
である。
わかったわかったとうるさそうに追い払われてしまった。
明日の朝、名古屋駅で待ち合わせるという話になってそこに富樫と桃だけが取り残される。
「そんじゃ、俺はホテルで寝るとすっかよ…」
疲れていた。慣れない新幹線の座席で体がこわばってしまっている。せっかく解放されたのだから一刻も早く風呂に肩まで浸かりたい。
大きく伸びをしている富樫の横で、珍しく桃がしまったとつぶやいた。それを聞きつける、仲間のピンチには敏感な男だ。
「どうしたんじゃ」
「ホテルを予約してないんだ…困ったぜ、塾長は手ぶらで来いって言うし…」
「なんだそんなことかよ、飛燕がホテル取ってくれてるしそこでよけりゃ来いや。俺と同室でもかまわねぇだろ?」
「そりゃかまわんが…いいのか?」
「いいってことよ、今日はおめぇのおかげで俺もだいぶ助かったぜ」
「そうか」
桃はほっとしたようだった。
富樫は緊張から解き放たれた開放感からスーツのネクタイをゆるめ、桃の肩を抱きこんで名古屋の夜の道を歩き出した。
「行こうぜ、名前は知らんがどうも有名みてぇだからすぐわかんだろ」
「ああ、行こう」
桃も肩を組んできた。どうせ夜の街、酔っ払いとさして変わらないので目立たぬ。
恥ずかしさはどこかにおいて、二人肩を組んで歩いていく。
確かに鶴だ。
鶴。大きく羽を広げた、花札の松の札にもいる丹頂鶴。剥製ではなく鉄とプラスティックで出来た鶴が何羽もそのビルの周りに羽ばたいている。相当に古いらしく、本来白い部分であるはずのところがなんともいえない薄茶色に汚れている。築三十年の喫煙家が住む家の壁といえばわかりやすいか。
機械が内臓されているらしく、その鶴たちは羽ばたく。それもゆっくりと、錆付いているらしく、ギィ、ギィ、と不気味な音を立てて羽ばたく。
動かないものもある。
不気味だ。その鶴を安っぽいピンクと緑のライトが照らしていて異様だ。
鶴だけではない、小さな三階建てのホテルの外壁からしてピンクだ。鶴に囲まれ、伸びきったテープが原曲もわからない曲を繰り返している。
「………」
「………」
鶴に見守られながら桃と富樫はロビーへと進んでいった。どうりで道行く人に『鶴のホテルは?』と聞いたら微妙な反応が返ってくるわけだ。
飛燕めあんにゃろ謀りやがったな。握った拳の行き場がない。
ロビーの中は更に混沌。
信楽焼きの狸が女性ものの赤い下着を身に着けたものがまず二人を出迎えた。隣には女のマネキンが一対。腕を上げてゲートを作っている。全裸のマネキンはカツラすらかぶっていない。こわごわそのマネキンの隙間をすり抜ける、
『ドスケベさんいらっしゃい!』
『ドスケベさんいらっしゃい!』
マネキン一対が完璧なユニゾンで叫んだ。男の太い声である。富樫は飛び上がった。
赤いロビー。
絨毯も赤い。天井も赤い、壁も赤い。並ぶわけのわからないオブジェもすべて赤が基調となっている。名探偵がいればそれこそ事件でも起こりそうな呪われ感がむんむんと匂っていた。壁にはずらりと亀の甲羅がぶら下がっている。大量の金魚蜂が中身もなしに床に打ち捨てられていた。
富樫も桃も無言で進む。行き当たったカウンターには一人の中年女性が立っていた。化粧が濃い、というかよく見れば男性だった。趣味でもなさそうな中年男性がただ女装して立っている。
「いらっしゃいませ、おしゃれ貴族へようこそ」
おしゃれ貴族。
その語感、富樫の疲れは高まった。
「予約した富樫っちゅうもんだけど…聞いてっか?」
「ああ、予約するお客さんって珍しいからわかりますよ」
珍しい?
富樫がきょとんとしていると、桃が静かに顎をしゃくった。
『おしゃれ貴族は、変態さんドスケベさんの味方です』
『当ホテルは、お客様の素性は一切詮索いたしません』
『男同士、女同士、ワケアリ、歓迎、自殺心中ダメ絶対』
「お一人様の予定だそうでしたが、お二人で?」
いやっ部屋は別で、焦りに駆られた富樫が叫ぶ前に桃ははっきり答えていた。いつもどおり、それ以上にこんな爛れた場所には似つかわしくない清廉さでもって答えた。
「ああ、なるべく眺めのいい部屋を頼む」
「かしこまりました、愛の奴隷様二名ごあんな〜い、オシャレ」
けだるい女装男は廊下へ続くドアを開けて招き入れる。おかしな振り付けまでして。
なんちゅう語尾でなんちゅうなんちゅうなんちゅう、富樫の思考回路は焼け落ちた。
なんだラブホテルか、桃があんまり自然につぶやいてその上じゃあ雰囲気だけでもと肩を抱いてくるのに怒る気力は、ない。
「ば、ば、バァロォ桃ォてめぇッこんな、オイ、も、こんな」
「だってさ」
いけしゃあしゃあ。しかしあくまでかわいげを残しつつ桃は肩をすくめた。
「こんな怪しいホテル、一人で泊まるなんて怖いだろ?」
嘘つけ、てめぇに怖いモンなんかあるもんかよ、ええっ?
「まあいいじゃねぇか、せっかくこんな変なホテルなんだ。とりあえず風呂にでも入ろうか、オシャレ」
だからその語尾やめろって――、
富樫は部屋にしつらえてあった風呂より先に泡をぶくぶくと吹いた。
どうやら今回も富樫の旅行は行楽と結びつかなかったようである、オシャレ。
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