湯煙女体慕情

女体に飢えているのだ。
富樫はいまにもはちきれそうな性欲とフンドシの紐を握り締めて風呂屋へ特攻をかける。
親友の虎丸も続いた。
二人とも前かがみで小走りである。
この薄暗がりの秋の夕暮れにほっかむりして、薄い女物の着物を羽織っている。
怪しいとしか言いようも無い。
二人の目的は簡潔に全力で女体である。
むちむちぼいーんな、チチシリフトモモである。
むらり、想像するだけで二人はにやけた。鼻血も一筋たらりと流れてある。

二人が急ぎ忍び込んだのは、町内に一軒しかない銭湯であった。



忍び込んだといっても、裏口からこそこそするのではなく正々堂々正面突破を試みた。あらかじめ手に入れていた薄いボロ着物をこっそりとかぶり、顔を前髪と手ぬぐいでかくしかくし入店する。ここは昔ながらの銭湯で、『あさひ湯』と言う。番台には銭湯と同じだけ年を取ったと思えるほどの骨董品のバァさんが一人ちんと座っているきり。そっくりの人形と取り替えたってすぐには気づかないだろう。そしてこのバァさん酷いド近眼の上、耳も遠い。
その情報を手に入れてきた級友の田沢はすんばらしい作戦を考案した。
名づけて『ポコチン股挟んで私女のコ★作戦』である。
なんとも分かりやすい。見たままの作戦である。先発隊として先日田沢が松尾を連れて化粧をし脛毛を剃り胸にバスタオルを巻いて乗り込んだところ近眼のバァさんは難なく通過でき、浴場はもうもうたる湯煙で、騒ぎでもしないかぎり女湯に男が紛れ込んでいるとは気づかれなかった。桃源郷を見た、ぷるんぷるんの尻のすばらしさよと田沢は唾を飛ばして熱弁をふるう。松尾は今年はもう幸せないかもしれんのうと慎ましいことを言う。
そして今日、富樫と虎丸は勢い良く名乗りを上げてあさひ湯へ突入したというわけであった。

番台に近づくと虎丸はシナを作り、猫なで声を出した。余計なことは言うなよと富樫は虎丸にニラミをきかせる。調子に乗っていいことなんざひとっつもねえ、富樫は珍しく冷静であった。これも目的である女体のため。
「女二人」
「あい」
口を開けたのかすら怪しい、もぐもぐと頬のあたりのたるみが少しばかり上下して声らしきものが答えた。賽銭箱のような箱に富樫が二人分の入浴料を入れる。
女のものとは到底思えないだろうごつい手だというのにバァさんはあい、あい、まいどと二つ返事で礼を述べ、シュシュシュと空気漏れのような音を立てた。
「空いてるよゥ」
笑ったようである。富樫と虎丸は確かに脱衣所だけではなく浴場にも薄い気配に顔を見合わせたが、バスタオルを胸に巻きつけると期待に胸と股間を躍らせて女湯大浴場へと突入した。
念のため、内股で。







ガラガラである。確かに田沢の言うとおり湯気の勢いはあり、入ってきても容易に男とは気づかれないだろうが肝心の女体がいないのではなんの意味も無い。富樫と虎丸は声を潜めてささやき交わした。
「ど、どうすんじゃい」
「どうするって言ってもよう富樫、俺ァもうアレがパンパンで動けねぇって」
「早い野郎だぜ、とりあえず湯に浸かろうぜ。おあつらえ向きににごり湯だしな」
もし漏らしたりしたらタダじゃおかねぇぞと低い声で凄みを利かせた、予想以上に壁に反響してしまい首をすくめる。
二人そろって、ざんぶと湯に首まで浸かった。今か今かと女体を待つ。
なかなか現れない。
というのも、富樫虎丸が知るよしもないが田沢達が行った日はちょうど割引デーであったので普段よりも大分客足があったのだった。今日はその翌日ということもあり、反動で客がめっきりと減っている。というよりもこの時代、銭湯自体が斜陽産業なのだ、仕方の無いことではあった。

「まだかよ、コッチはもう煮えっちまいそうだぜ」
それにしても随分熱い。油風呂の富樫でさえグラグラの湯に真っ赤になっている。虎丸も同様であった。
「おっかしいのう…お、お、オイ富樫!」
ぼやきかけた虎丸がばちゃんと富樫の顔に盛大しぶきをかけながら飛びついた。口に入った湯に顔をゆがめる富樫。
「ぶぇッ、ペッ、てめェの出汁なんざ飲ませるんじゃねぇよ!」
「シッ」
虎丸のでっかい手の平が富樫の口を塞ぐ。富樫の目の玉がぎょろりと虎丸の目線の先を追う。ちょうど誰かが浴場に入ってきたところであった。
ごくん。
二人は息を飲む。
待ちに待った女体である。まっさかシオッシオのババアってこたぁねぇよな、二人の願いはぴったりと重なった。



……やけに、ゴツいな。
先に気づいたのは富樫であった。虎丸はもう女体が現れたというだけで興奮してしまい、にごり湯で見えないものの股座へ手を伸ばしている。オイオイ湯ん中でセンズリかよと富樫は虎丸を小突きかける。湯船の一番スミに居るとはいえ、存在を気づかれるのだけは出来うる限り避けたかった。

「邪鬼さま、ついていましたね」
「うむ」
「割引デーの次の日は客足がないってんで、男塾の貸切とはあのバァさんなかなか太っ腹じゃねぇか」
「卍丸、ところで」
「なんだよ羅刹」
「ここは女湯じゃねぇのか」
「そうだよ」
なにィッ!三つの大声が割れんばかり、ピンクのタイルの女湯に響き渡った。
「どういうことだ、説明しろ卍丸」
「るせぇなぁセンクウ、俺達死天王と邪鬼様だけは別格扱いで当然だろうが」
「だが」
「まぁいいセンクウ、羅刹」
「影慶」


「(邪鬼様が浸かったら、湯が大量に流れ出てしまうだろう。一般三号生とは分けたほうがいいとは思う)」
「(だが…女湯だぜ?)」
「(覗きをしているようで落ち着かん)」

「なんとも広い風呂だ、さっそく浸かるとしよう」

鶴の一声ならぬ、邪鬼の一声。たちまち死天王は結束した。初めての銭湯である。邪鬼の目には全てがものめずらしい。
全員拳を拳どうし打ち付けて、声を轟と張る。



「オッス、お供します、邪鬼様!!」










ここまでくれば、さすがに富樫虎丸にも自分たちがいかに危機的状況におかれているかが把握できた。
モノも萎えた、さっきまであんなに熱いと思っていた湯も冷たくすら感じられる。
二人キッカと眼を合わせ、ここは一つ、五人が上がるまで息を潜めているとしようや、そういうことになった。







「おッ?貸切だってのに誰かいるじゃねぇか、…おいオネーチャン達、今全裸かァ?」
卍丸の声が降りかかってくるまで、一分ともたなかった。
どうあっても、富樫と虎丸に女体は縁を結ぼうとはしてくれていないようである。
モクジ
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