三日坊主以下ってテメエ!
さてここで、つい先日より始まった交換日記を開いてみよう。
長月二十日 記入者 伊達 臣人
再び真夏へ逆戻りしたかのような暑さ甚だしい。セミも最後に見せ場を作る陽気。
午前は関東組長朝食会に参加。東京から極道一丸となって売春や麻薬を締め出す結論を導き出すことが出来、意義有る会談となったと言える。
昼食は銀座常盤屋で天ざるを頼む。喉を通る涼味。
午後は頼まれていた書類を片付けるつもりだ。
(以下、伊達臣人組長の達筆で日常がうつくしい言葉選びでつづられている中略)
先日貴様が食いたがっていた女王梨が偶然届いた。俺は果物はいらないので欲しければくれてやる、取りに来い。
八九月二十三日 記入者 とら丸
今日暑い。
(サインペン殴り書きにしか見えぬ。ご丁寧に秘書の方の訳がついている)
やるきおこらない。スーツなんぞ着とるからアッチィんじゃ。
俺ゃハダカが一番じゃと思う。オネェチャンもハダカ。
(デッサンどうこうでは説明のつかぬ酷い形をしたハダカの女のラクガキ。無駄に手書きのモザイク入り)
長月二十三日 記入者 伊達臣人
(伊達組長のあらぶる達筆にて、墨痕黒黒とつややかに長長二ページに渡って虎丸の馬鹿さ加減をうたっています)
(伊達組長の墨が黒味を増しました。墨を摺り直して再び綴る模様)
暑い暑いと言っているうちに秋になった。
一度位は海を見るのも悪くないと思い、明石に船を手配した。人で溢れる海に用はない。
やはり瀬戸内海の荒波こそ男の海と言えよう。
お前程度なら乗せてやれる規模の船ではあるが。
さぞ明石のアジは活きがいいだろう。
(さりげなく温泉宿のパンフレットが挟まれている)
九月 二十七 日 記入者 虎丸龍次
(青くきれいなインクの万年筆でつづられたらしい。しらしらと柔らかい筆跡で秋の挨拶が述べられている)
残暑過ぎ去りし折、一度お伺いしたく存じます。
先日お誘いいただきましたご旅行の件ですが生憎都合がつきませんで申し訳ありませんでした。
冬、十二月半ば沖縄へ一週間程旅行する予定でございますので、もしご都合が合いましたらご一緒しませんか?
(青い海白い砂浜水着の美女のパンフレットが挟まれている)
長月 二十七日 記入者(伊達臣人と怒りに任せた文字が躍っている)
(墨ひとしずく滴っており、吸い取り紙で吸い取った跡)
二回目にして代筆頼んでるんじゃねぇ
「ええ!ええ!とにかく今日の晩にでも虎丸さまにこちらに来ていただけるようなんとか手配していただけませんか!!ええ!」
私は携帯電話に向かって怒鳴った。右耳に携帯電話、左耳は小指で塞ぐ。電話の相手、虎丸さまの秘書はやってみますと請け負ってくれる。
山手通りを車で飛ばしてもらいながら電話し、スケジュール帳を開く。十二月といえば師走だ、ヤクザは神社仏閣への人材派遣から町の治安警護などやることは沢山ある。クリスマスなら騒ぎに乗じてバカをやる人間だっているのだ。ぎっちり詰まった予定に次ぐ予定、隙間を見つけようがない。
だが私は伊達家、家事取締り筆頭!
何が何でも、何が何でも組長のお体を年末沖縄のビーチへ向かわせてみせる…ッ!
電話切ると、すぐさま伊達家へかけなおす。
「もしもしッ」
『ぎゃーッ遅かったです!もう組長出撃しましたッ』
「なにッ!!?……遅かったかっ!」
『くろがねの鎧兜に身をつつみ、ああ何てりりしい五月人形…あははははははは』
「落ち着きなさい、とにかく組員総動員で組長を確保するのです!おそらく虎丸さまを追って新宿のキャバクラ『ピンクダイアモンド』に向かうはずです!」
電話口の向こうから了解の声を聞くと、私は運転手に告げた。
「至急引き返して、新宿のキャバクラ『ピンクダイアモンド』に向かってください!」
ギャリギャリとゴムの擦れる音を立てながら車は急旋回、私はシートベルトを締めなおす。
「ああ、頼みますから先日買って来たばっかりの楽焼茶碗だけは…!!」
涙浮かべて仏頂面。胸に交換日記を抱えて東京疾走。
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