お前の言葉に価値がある
もてない男というのはどこにでもいるものであるが、自分はどうしてもてないのだろうといつも不思議に思っている。
なぜだろう。
自分はちょいと傷面だが背だって高いし、足は桃に比べたら短いけども十分に長い。
なぜだろう。
なぜもてないのだ。
なぜだと桃にそれとなく聞いてみようかと思う。何気なく浮かんだ考えを口にした。
「なぁ桃、おめぇは何だってそんなにモテるんじゃ」
桃は首をきょとりと傾げた。子供のようなしぐさだと富樫は思う。
こいつはちいちゃい子供みたいな無邪気な顔で、そのくせ自分がびっくりするほど大人びた考え方を口にするのだ。
桃は眠たいのか目をゆらゆらさせている。午後に話しかけたのは失敗だった、いつも眠たい男であるがここ最近めっきり涼しくなって午後の陽射しがゆくゆくとあたたかく昼寝もしたくなろうというものだった。桃は教室の机に足を投げ出したまま目をしぱしぱさせた。
「…モテがなんだって?」
改めて聞き返されるとぐぐーっと恥ずかしくなる。富樫はなんでもねぇやとごまかす。
「寝てたとこ悪かったな」
オヤスミと適当に手を振ると、桃は机にうつぶして腕枕を作ると顔を伏せずに隣の富樫を見上げる。富樫は顔を背けた。
すねている。
モテない男のひがみだが、どこから切っても男前にこう見られるとチュッと舌打ちしたくなる。
舌打ちがうまく出来ない、不器用な男だ。
肌荒れが目立つ頬に頬杖をついて富樫はすねる。桃の視線はまだ耳のあたりに絡まっているのを感じていた。
桃の視線は今日の陽射しのようにあたたかい。真夏のようにギラつきもせず冬の冷たさでもない。
桃は笑っているのかもしれない。やはり聞かれていたかと富樫は口を尖らせた。
つまらんことを言っちまったぜと富樫はふてる。腹も減っていた。
「富樫」
桃はあくびまじりに言った。
「おう」
富樫は気の無い様子で返事をする。開け放たれた教室の窓から風が吹き込んできて富樫の後ろ髪を揺らす。
「フッフフ」
桃の笑い声に富樫は苦い顔をした。
やはり聞かれていた。あの頬に空気を含んで鼻に抜ける笑い声は嫌いではないが、自分にむけられるとどうにもくすぐったくっていけねぇやと富樫は思っている。
「なんじゃい、何がおかしいんじゃ」
まだ富樫は桃の顔を見られない。桃の顔を見て、もしうらやましくなってしまったりしたらそれこそみじめだ。
「富樫、」
桃は呼ぶ。
「だからなんじゃ」
富樫は答える。まだ振り向かない。振り向けない。
「フッフフ…お前は十分いい男さ」
富樫は耳まで赤くして振り返った。
笑っている。秋風に髪の毛を揺らされながら桃は笑っていた。
こんなことよりにもよって桃に、それも笑いまじりに言われたいことではない。
「ケッ、お前に言われたって嬉しかねぇや!バァロォ」
富樫はラーメンでも食いに行こうと立ち上がった。桃はまだ笑い続いて立ち上がるのを見て、オゴリじゃねぇからなとクギを刺す。
「わかってるさ。ちょうど腹も減ったところだ」
行こうぜ、桃は富樫の肩に手を置いて歩き出す。
さっさと先を行く桃をおいかけながら富樫はそれでも、
ああこいつが俺をいい男だって言うんなら俺は少しばかりいい気になってもいいかもしれねぇと不承不承だが認めることにした。
いい男二人、てくてくのろのろ寄り道しながら秋晴れの道をゆく。
男の道というのはこうして寄り道をしていくうちに磨かれていくに違いねぇやと富樫は信じている。
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