コーカサスの西風神

父様父様、姿は見えないのに誰かの声がいたしまする。ここは何処ぞと言うておりまする。
森を歩く親子連れ、その娘は怯えて言った。
娘よそれは西風神がエイリスを呼ぶ声だ。案ずることはない。
父は娘の手を取って足を速めた。
エイリスとは誰ですか父様。エイリス、エイリスと呼んでおりまする。
娘は好奇心の旺盛な年頃で、怖がりながらも頬に血色を浮かべて問うた。
父はやれやれと肩をすくめ、語った。
森のいやしい樵の娘だが、とても聡明で美しいエイリスという娘がいた。森の奥で暮らす彼女を見初めたのは、吹き渡る西よりの風、西風神である。
彼は心からエイリスを愛し、エイリスも彼を深く愛した。しかし、方々吹き渡る間に何人もの女と恋に落ちては捨てていた西風神を女たちは恨み、復讐の女神ウルスラに祈る。ウルスラは女たちの願いをかなえ、エイリスの姿を隠してしまった。殺してしまうのは忍びなかったからであるし、それで西風神がエイリスを捨てたのならその場で西風神に雷を落とそうと女達に約束をした。
突然目の前から消えたエイリスに西風神は驚き、彼女の名前を何度も呼んだ。エイリスは返事をする、それでも西風神に姿は見えない。そのうちに姿だけが無くなったのだと気づく、触れれば確かにそこにある、顔を寄せれば彼女の息がかかる、だが姿だけが見えなかった。彼にだけ見えなかった。
その場で西風神は桃の枝を手折り、自らの目を突いた。あまりのことに驚き悲しむエイリスに西風神は言う、エイリスよこれは全て私の不義が招いたこと、お前の姿が見えないならば世界など見えなくてもさほど困らぬ。それから西風神は吹き渡る時にエイリス、エイリスと呼びながら渡ることにしたという。
突然におかしな風が吹いたらそれはエイリスを探し迷う西風神である。

娘はしばらく考えた末、風に向けて言った。
風よ風よここに想い人はおらぬ、去れよ去れよ疾く疾く去れよ。
風はたちまち去って行った。
【世界の風神:コーカサスの西風神】











暑いと叫んで飛び起きることがなくなったので、もう秋である。朝から西風が吹いて気持ちがいいので、校庭の木にハンモックを吊って昼寝をしていた。土の匂いがする季節である。飯がうまい季節である。虎丸が食欲の秋じゃと言って、お前はいつもだと伊達に尻を蹴られる季節である。桃は最近それを見るたび、ああ距離が近づいてるんだなと趣きすら感じるようになった。西風に瞼を撫でられて眼を覚ます。
目覚めて校庭を見渡すと伊達と虎丸が仲良くじゃれあいどつき合いながら歩いているのがまず目に入った。どうあっても近づかないかもしれないと思っていた二人が近づいているのに、自分と富樫の距離はなかなか近づかないものだと桃は不思議に想い、青味を増した空を見上げた。校庭を歩き歩くのも苦にならない陽射しで、桃はハンモックから下りて散歩を始めた。
今日もJはトレーニングをしている。桃が近づくとまず汗を拭いて、それから距離を置く。日本人ではない彼は、西洋人特有の体臭を少し気にしている。そんなことはないぜと誰もが言う、塾生ときたら風呂はカラスの行水着たきり雀なのだから気にすることはないのである。
だがそれでもJはあまり変わらない。壁を作っているのではない、線を引いているだけ。その奥ゆかしさは日本人が忘れたもので、Jが一番守っていると思うと好ましいものであった。
と、桃は立ち止まる。
あのやかましい傷面が見当たらないせいである。
呼ぼうかな、と桃は口を開く、そしてつぐむ。呼んだところで特に用があるわけではなかった。ただ、顔を見ていないなとは思う。
松尾が桃の目に入った。いつも通りのふくふくとしたその顔に桃は尋ねてみる。全く松尾は人に警戒心を抱かせない男であった。一種の才能である。
「よう、松尾」
「桃!」
松尾は小走りで駆け寄ってきた。この『小走り』が松尾の松尾らしさたるものである。どんな相手で何を言おうとしているのかはあまり関係が無い。ただ呼ばれたから小走りで駆けつける、この素直さが塾生達から親しまれる。
「富樫見なかったか?」
松尾はきょとん、とした。ちょっと可愛い、と桃は思ったが笑いを含んで答えを待つ。
「え?…富樫、富樫なら、そこじゃけど」
そこ、と指さしたのはちょうど桃が歩いてきた後ろ方向である。擦れ違ったのに気づかなかったのか、と桃は振り返る。たなびくハチマキが視界の端を通り過ぎて背中へ回る。

やはり居ない。風が通るだけである。

桃は再び、首だけ松尾へ向けた。松尾は桃の表情に困ったようにその眉間に一本浅い皺。
「いないな」
「桃、もしやオマエわしのことからかっとる?」
おそるおそる、松尾は尋ねた。桃はそんなことするもんかと頭の中で思ってはいたが、それでも尋ねずにはいられなかった。
塾の校庭は確かに広いが、別に森の中というわけでも、塾生で溢れかえっているわけでもない。遠く離れているわけでもない。確かに『そこ』と言い表せるところに富樫はいるのだ。現に今もあくびなんぞしくさって、間抜け面がはっきり見えるほど。
「どういう意味だ?」
普通ならからかっていると取れるだろう、が、桃の顔は至極真剣そのもの。松尾は不安になって、あそこの富樫はもしかしたら幽霊なのかもしれんのうと思い始めた。
「富樫ー!」
松尾は両手でメガホンを作って口にあてがうと大声で富樫を呼んだ。富樫が桃と松尾のほうを向く。あん?と気づいたように富樫がこちらへと向かってきた。桃は松尾が呼びかけた方向に眼を向けるが、視点は富樫の上で定まらない。左右へ見渡す動きが止まらないのに松尾は更に不安を強めた。
ほどなくして富樫が二人の側へたどり着く。
「なんじゃ、桃、松尾」
桃の驚きようと言ったら!松尾が顔を青くする。桃は目を見開き、わっと声を上げた。桃の背中に緊張が走る。後ろからいきなり話しかけられた時に似た反応である。
「富樫、桃がヘンなんじゃ」
「あん?」
富樫は学帽にやりかけた手を止めて松尾の言葉に眉を跳ねた。確かに言われたように、桃の様子はおかしい。いつもであればよう富樫、おはよう富樫、行こうぜ富樫と話しかけてくれる桃が何も言わずにただきょろきょろするばかりである。桃にしては珍しいことであった。桃とのスキンシップを好きだと言ってしまうとさすがにアブノーマルな気配が濃厚であるが、嫌いではない。だから桃に「俺のこと好きだろう」と聞かれるたび十回に六回は「何言い出すんだいきなり」とはねつけ、三回は「嫌いじゃねぇ」と答えた。残りの一回は「……馬鹿野郎」と答える。
「どうしたんだよ桃」
富樫は桃の肩に手をかけた。とたんに手を手刀で叩き落とされる。桃としてはいきなり見えない力が自分に触れてきたのと変わらない、闘う男としては当然の反応ではあったが、富樫は傷ついた。傷ついたというほど深くはないが、引っかかれたほどではある。
富樫の学ランの袖を松尾は引っ張った。富樫は口を半開きにした間抜け面で松尾を見下ろす。たどたどしい言い方で松尾は尋ねた。
「富樫、おまえは富樫だよな?」
「松尾、てめぇ何ボケてやがる。富樫って名のつくこんないい男が兄ちゃんと俺以外に他にいるかよ」
ああこの物言い、松尾はほっとして富樫の腕にしがみついた。なんじゃおう気色悪いぜと富樫は身体を引きかけたが、松尾が全力でしがみついてくるのを突き放せる男なんかこの男塾にはいやしなかった。
桃は呆然と、手に残る感触を眺めている。
「桃には、おまえが見えておらんのじゃ」
ハァ?富樫のアホ面が三割り増しになり、松尾を睨んだ。てめぇ俺をからかおうってのかよ、ええっ?
「本当だぜ」
桃は遠い声で言った。富樫は言葉を失う。桃はこちらを見ている。だが、富樫を見ていない。眼に入っていない。
富樫を無視しようとしてやっているようにはとても見えなかった。目の前にいるものを無視しようとすれば、どうしても目の動きなどは不自然なものになる。だが、桃の目はちゃんと富樫の方も無視せず見ている。だというのに富樫は見えていない。
「そこに、いるのか富樫」
急に、自分が幽霊にでもなったように富樫には思われた。ぐらぐらと揺れそうになるのを、しがみついている松尾に体重をかけてそれでも立つ。
桃に不安を分け与えることは出来なかった。俺がここにいるのに桃に見えないってんなら、桃はもっと不安だろう。明るい声を作った。
「お、おう、ここに居るぜ。オットコマエがここに一人よう」
桃は声のするほうへと右手を伸ばした。迷いだらけ、どこに伸ばしたらいいのかまるっきりわかっていないその手の動き。富樫はファイトイッパツの要領で、力強くその手を両手で掴んだ。ぎゅう、と自分の胸の前でその手を握る。富樫にしがみついたままの松尾も声を張り上げた。
「そ、そうじゃ桃!富樫はここにおるぞ!」
桃の顔は恐れ半分、理解不能半分。それでも手に伝わるその体温は確かだった。今確かに自分の右手は誰かに掴まれている。それを松尾は富樫だという。
それで十分、桃は勢いをつけてその体温の出所目掛けて飛びついた。全身で確かめたかった。
うおっと間抜けな声とともに受け止め返してくれる腕。確かに富樫だ、姿は見えなかったが桃は確信した。
背中らしきところを左手の拳でドンと叩くと、いてぇと富樫の声が跳ねてくる。
馬鹿野郎なんだってお前って奴はそういつだって何だっておかしなことに巻き込まれるんだ富樫。
なあ富樫、いるんだなそこに、富樫、この富樫。
「ああ、俺ァここにいるぜ桃」
だからもういいだろ桃、なぁ、富樫の声は届かなかった。

桃は知らなかったが、富樫が見えないのは桃だけである。
つまり、校庭にいる塾生には富樫の姿が見えている。そして、富樫に松尾と桃がなにやら必死にしがみついているようであった。
なんだ、なんだ、また富樫?
考えるよりも先に動く、獣達が集うのがこの男塾である。
校庭にいた塾生達は我先にと富樫に走り出した。伊達すら虎丸に引っ張られて走り出す。三号生の姿もあった。
一番最初にたどり着いたのは田沢であった。松尾にタックルをかます。松尾はきゃあとますます富樫にしがみついた。富樫はバランスを崩し、倒れかかった。そこへ秀麻呂、小柄ではあったが勢い良く桃の腰のあたりに飛びついた。桃はそのまま体重を富樫にかける。トドメとばかりに虎丸が伊達ごと富樫を押し倒した。校庭にべしゃりと富樫は背中から倒れた、その腹の上に桃。松尾は運よく田沢に手を引かれて難を逃れた。
後は漫画かラグビーか、どっちゃどっちゃと上に塾生たちが積み重なっていく。
男ピラミッドは高く高く、大豪院邪鬼が胸のうちでわくわくしながら死天王を従えて現れたと同時にバベルとなって崩壊した。

その礎となった富樫は鼻血をぶうぶう噴いて、白目を剥いていた。仕方の無いことである、ガタイのいい男たちばかり何人も自分の上にのしかかってきたのである。桃にはその鼻血だけが見えていた。
秋風が東より吹いて、その鼻血を乾かしていく。





桃ごと富樫を寮の食堂に担ぎ込んだ。飯の支度だけはしなければいけないので当番は抜けていく。
「ぬう、これはまさしく…過西風神(かせいふうじん)…」
知っているのか雷電、数え切れない異口同音が雷電に向かう。雷電は深刻な顔に汗を浮かべて腕組みをした。いつものことといえばいつものことである。
「昔、コーカサス地方の神話でござる。浮気性の西風神は女たちの嫉妬から、最愛の恋人の姿を見えないようにされてしまったので自らの眼を潰したという神話で、それから西風神に瞼を撫でられると愛するものの姿が見えなくなるという…」
愛するもの、という単語は塾生達は無視をした。そこに突っ込んではならない、と本能が告げていた。
「で、でもどうして桃だけ?」
誰かが聞いた。雷電は考え込みながら答える。
「今日は西風が吹いていた。剣殿が昼寝をしていたその時に瞼を西風神に撫でられたのであろう」
塾生達は真剣に雷電の話を聞いていた。あまり富樫達を見ないようにしている。
目の前では富樫を撫で回す一号生筆頭、しきりにココは何だと富樫に尋ねている。決して側を離れようとはしなかった。
「ココは?」
「尻だよ尻、っちゅうかさっきもソコ触らなかったか?」
「悪い、全然、全っ然見えねぇからな」
桃は両手の平で顔をむずと無造作に掴んだ。胸同士を合わせ、はたから見れば目に入ったゴミを取ってやっているように見える。密着度が上がった。
周りの目を気にしてか、富樫の歯切れが悪い。
「ここが顔か?」
「おう…そうだがよう、ちょっと近すぎやしねぇか?」
「見えないからわからねぇ、全然な」
「………」
塾生達は眼をそらした。月光がぽつりと呟く。
「見えているのではないか?」
一斉に塾生達はお前が言うなとツッコミをしかかったが、胸のうちにとどめた。
「ともかく、何とかしないといけねぇな」
頼りになる男、伊達が言葉を発した。塾生達はおうじゃおうじゃと頷き交わす。注目は再び雷電に集まった。
「むう、これを治すにはかの西風神の恋人、彼女と同じ名前のエイリスという花を煮出した汁をその目に入れるがいいと聞く」
虎丸が椅子代わりに行儀悪く座っていた食堂のテーブルから飛び降りると、力強く怒鳴った。
「おう!そんじゃちょっくらその花だかなんだかを探しにコーカサスっちゅうトコまで行くしかねぇな!」
勿論虎丸、コーカサスがどこかは知らない。田沢がメガネをずり上げながら尋ねた。
「コーカサスちゅうのは何処じゃ?」
「アメリカじゃねぇの?」
「いや、アメリカにはない」
Jは生真面目に虎丸に答えてやる。これだから海外といえばアメリカか中国かしか知らんド低脳は、と思った伊達とは違う。
松尾と秀麻呂は食堂を飛び出していき、それからしばらくして馬鹿でっかい地球儀を二人がかりで担いで戻ってきた。でん、とテーブルにそれを乗せると塾生達は額を突き合わせて必死にコーカサスという地名を探した。
秀麻呂が呆れたように一部を指差した。
「なんだぁ、これッ。ロシアがソ連のままじゃねぇか!」
月光も声を上げる。
「こっちは中国にまだ満州があるぞ。時代がめちゃくちゃだ」
だから月光よ、生来目が見えねぇんだよなそうだよな、と誰しもが思う。塾生達は必死に地球儀からコーカサスを探す。
中々見つからない。
「図書室から地図を持ってきましょう。もしかしたら地名が変わったのかもしれません」
飛燕が提案した、荷物もちにと伊達、虎丸を駆り出して図書室へ向かった。
それから事情を聞いて駆けつけた二号生三号生も合わせてのコーカサスを探す作業が続く。
その間中、桃は富樫の腹に祈りロック(祈りの時にするように両手の指を組み合わせたもので、腕の中に何かを抱え込む時に使う)をかけて鯖折りをかけ続けていた。富樫は泡を噴きながら魂を遊ばせている。

と、虎丸がうん?と声を上げた。伊達がどうした馬鹿虎と尋ねる。
「なんかよー、俺ゃどっかでその名前見たような…」
どこで!どこだ!どこじゃ!と声が上がる。そう問い詰められると思い出しにくいのが人間である。
虎丸は腕を組んで、油風呂に入れられたようにぐらぐら頭を煮やして考え込んだ。普段使わない頭が錆びを振り飛ばしながら回る。
「臣人じゃ!!」
唐突に大声で名前を呼ばれ、伊達は茶碗を取り落とした。砕けた茶碗、飛び散る出涸らし。甲斐甲斐しく雷電が布巾で床を拭き、破片を紙袋へJが片付ける。
「な、何言ってやがりゅ」
噛んだな、ああ噛んだ。何名かの塾生は目配せしあった。
気づかなかったのか虎丸はうおおおおっと大声を上げて飛び出して行く。すぐに一冊の本を抱えて戻ってきた。
「これじゃ!これ、ホラ、『世界のカブトムシ』!!」
ああ、臣人ってカブトムシの臣人な。伊達は無性に腹が立った。虎丸の尻を蹴飛ばす。虎丸はえびぞったが、倒れはしなかった。
なんといっても一番の相棒のピンチなのである。虎丸の指がページをぱらぱらとめくっていく。
「あった!」
その場に居た全員が鈴なりになって覗き込む。本を虎丸は伊達に差し出した。頼む、と言われて収まらない気持ちのままであったが本を受け取って読み始めた。何と言っても虎丸は文盲とそう変わらない。伊達はしょうがねぇなとぶっきらぼうに言って読み始めた。
「コーカサスオオカブトは、昆虫綱コウチュウ目カブトムシ亜科に生息するカブトムシ。3本の長い角が特徴。力も強く、人気が高い。アジアで最大のカブトムシでもある。生息地はスマトラ島・ジャワ島・マレー半島・インドシナ半島などの標高1000m以上の山岳地帯に生息する。名に「コーカサス」とあるが、コーカサス地方に生息しているわけではない」


名に「コーカサス」とあるが、コーカサス地方に生息しているわけではない。
塾生のガッカリといったらなかった。
虎丸はしょんぼりしている。伊達はしかたなくまぎらわしい名前しやがってと言ってやった。



「あったぞ」
張り上げたわけでもないのに、風がごうと吹きつけてくるような声。間違えようもない、大豪院邪鬼の声であった。
即座にその場に居た全員が邪鬼の元に駆けつけた。邪鬼は内心これだけの視線を集めたことに動揺しながらも、覇王たる堂堂とした声で読み上げた。

「カフカース(カフカス、ロシア語 : Кавказ; Kavkaz)は、黒海とカスピ海に挟まれたカフカース山脈と、それを取り囲む低地からなる面積約44万km2の地域である。英語名 Caucasus にもとづきコーカサスと呼ばれることも多い」


………どこ?

塾生達は視線を交し合った。邪鬼はむうと一声唸ってから、
「アディゲ共和国 ダゲスタン共和国 北オセチア共和国 カバルダ・バルカル共和国 カラチャイ・チェルケス共和国 イングーシ共和国 チェチェン共和国 ラスノダル地方スタヴロポリ地方…これらがコーカサス地方に含まれる国国だ。ここに行け、そうすればそのエイリスなる花もあろう」
続けて読み上げた。

………どこ?
塾生達は再度視線を交し合った。




「と、とにかく!行くぜコーカサス!!」
虎丸はオオーッ!と唸り声を上げて拳を天井へと突き上げた。塾生も続く。ごまかすように吼えた。
熱気が渦巻いている。
邪鬼は少し感動した。このように誰かのために懸命になれる一号生達はなんともいいものであると微笑んだ。微笑んだつもりだったのに、独眼鉄は逃げた。
まったく肝の小さい男だ、と邪鬼は笑う。











次の日、センクウがエイリスが日本で言うアイリスであることを思い出すまでコーカサスへの旅費をどうする会議は続けられた。
桃は夜通し富樫を抱えて放さなかった。しまいには富樫が干からびていたのがなんとも痛々しい。




エイリス、エイリス、貴方の雫を私に下さい。私の瞳をやさしく開けて、貴方の姿を見せてください。
エイリス、エイリス、貴方を下さい。貴方の姿を与えてください。エイリス。
【世界の風神:コーカサスの西風神・西風神の歌】

モクジ
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