「ちょうどいい、食いでのある奴が来た」
本当にそこに欲しいものがちょうどあったから便利、そんな顔の男。あっという間にポールはベッドへ引きずり込まれて(もちろんポールの足は自主的に向かっ た)服をむしられた後、目の前で素っ気無いストリップ。目線と筋肉の織り成す曲線だけで酷く淫猥。

三島一八。腹の上へ乗って、ポールを睨み下ろす男。
一八の額にはどくどくと静脈が透けていて、頬は興奮に火照ってギラついている。しかし溺れきった表情ではない、あくまで主導権は握っている覇者の表情の まま。
「………フン、すぐに入れたくて仕方が無いという顔だな?」
上擦った声、舌なめずりせんばかりの淫らがましい瞼の赤、大きく起きたポールのペニスを手の内へと収めてやわく与える愛撫の手つき、
大きく筋肉が張り出した胸や背とは裏腹に絞り込まれた腰がくねる様に、張り詰めた太腿で挟まれたポールのわき腹が波打った。
「ああ、入れてぇ…お前だって欲しいだろ」
「フッ…そうだな、貴様のコレは素直にいいものだと言ってやってもいい」
珍しく一八が褒めた。きゅ、とカリ首を猫をじゃらすように指先でくすぐり愛でる。
もっとも褒めたのはペニスだけ、という素振りは崩さない。
「ソレだけかよ」
「ああ、他に貴様に何か褒めるところがあったか?唯一の取り得だろうが」
意地悪く輝く赤い眼球、ポールはこのかわいげのない物言いの裏がわかっている。

(俺を挑発してハードにヤろうってんだろうが…そうそうナメられちゃたまらねぇ)
一八の腰を両手で掴んだまま、ポールは軽く腰をグラインドさせる。物欲しげにひくつくアナルの縁を切っ先がかすめるだけ。
「何をモタモタしている、くっ…この、」
ポールがもたついていると思った一八は短い舌打ちをし、ポールのペニスを掴んでアナルへ宛がおうと試みた。
そこへ腰を掴んでいた手を背中へと回し、自分の胸へと引き倒す。とっさのことな上に腕が身体を支えるのとポールのペニスを掴もうとしていたのとで不自由 だった一八は、ポールの腕に抱き取られるがままポールの胸へと倒れこんだ。
太い腕がガッシリと一八の背と腰を抱いて離さない、締め上げるような腕の力にさすがに一八も眉をひそめる。
せっかく高められた熱を感嘆には逃がすまいと一八が息を詰めているのがポールの目にも明らかで、それがいっそう健気に見えた。
「馬鹿力がっ…」
切迫した一八の声、ポールは一八の頭を抱え込むと自分の喉元へ埋めさせて耳の間近に囁く。
「毎回毎回最高にイイんだけど、不満がある」
ぞ、と一八の背中が震えたそのまま振動がポールへと伝わる。自分の声が効果を持つのか、それとも一八の耳が弱いのか、どちらにせよポールはいいと思ってい た。
一八のペニスとポールのペニスとが二人の身体の間で互いに擦れ、もどかしいばかりの快感を与え合う。若干ポールのほうが分があった、指で散ざん自ら慣らし て後は挿入を待つのみという状態にあった一八には余裕があまりない。
元もとわずかに尖りの見える耳殻へ歯を立てると一八はどうにもたまらないようで、よじる腰が獣の淫らさでポールを誘う。
「俺に不満だと…?」
「ああ、不満だぜ」

誰であれ自分を批判する人間は許せない性質の一八、理性が頭をもたげる。
普段ならば縊るところ、けれど今心はどうあれ二人睦みあっているのだから、ポールの言葉を聴いてやってもいい気持ちになっていた。
それを聞き入れるかどうかは別として。
だいたいあの獣のように直情的なポールが準備万端に出来上がった自分を目の前にして、それを言わずや挿入できぬとためらっているこの状況自体一八の不機嫌 に拍車をかけている。生意気にも一八の尻をおそらく無意識に揉みしだいているのがますます腹立たしく感じられていた。

さっさと言え、ちょん切られたいか。
息を乱して凄む一八の耳へ、ポールの舌がやわらかく滑り、熱く湿る息遣い。

「……………」
ごくごく小さな、世界でただ一人三島一八のためにつむがれた言葉が一八の耳から奥底へと染み入っていく。
一八はその言葉に耳を傾けていたが、無意識に首を傾げ、ぶっきらぼうに吐き捨てた。ヌ、とそれを咎めてポールの中指がアナルの中へと押し入って小刻みに抜 き差しを始める。尻だけではなくたくましい背中が電流を流されたようにこわばる姿をポールはバックで挿入した際に何度か見ている。それはたまらなくいやら しい、そう思い出したポールもこめかみを痙攣させる。
「………そんな事にこだわっていたのか、獣のくせに生意気を……っ、言う…」
言葉の最後に喉が引っかかり、跳ねる。ポールは何も言わず、ただ一八を抱いてその顔を見ていた。
たったの五秒を数えただけで、勝利は一八の元を離れていく。薄く濡れた唇を開いて、
「………ポール…」
「ああ、いいぜ、一八」

入れてくれとか、イきそうだからとか、お願いだからとか、お前のが欲しいとか、
そんなベッドに似合いの言葉は何一つポールは望まなかった。日常で見せる卑猥なジョークやボディタッチの底抜けな明るさではなく、海のように凪いでしかし 沖へと引きずり込もうという力強さ、その静かな存在感。

ただ名前を呼べと、ポールは言った。ポールの言葉に一八が応じたのは何も体をもてあましたからではない。
今までそれほどまで名前を呼んでいなかったかと、ふと振り返ったせいだ。
シャクではある、けれど、ポールが嬉しそうにしている。

(こいつが嬉しかろうが俺には関係の無い事だ)

改めて一八は打ち消した。ポールは単純にもひどく喜んで、あれほどじらしていた行為をさっさと再開している。
一八が待ち望んでいたものだったはず。けれど、

(あまり調子に乗らないのなら、名前ぐらい呼んでやってもかまわんか)

ペットでさえ名前を呼ぶのだ。人間でしかも自分が欲しくてたまらんとペニスをギンギンにして懇願しているのだ。

(愛玩してやってもいい)

ポールのイキのいいペニスと(第一だ)、それから恥ずかしげも無く欲求や感情を露にするところを一八は気に入っている(多少は)
「おらよっ」
「…くッ、…はっ……気が、済んだか」
「ヘヘ、今日はとことん付き合ってやるぜ、…一八」
ただ名前を呼びたいのだろうと一八ですらわかる。
真下からの突き上げはいつもよりも気合の入った激しさで、一八は忽ち海原に投げ出されたような満足感に浸されてゆく。つま先がびくびくと縮こまり、次の瞬 間には衝撃に跳ねて白い枕を蹴飛ばした。
荒波のような揺れに酔い、渦のようなうねりに揉まれる。
まさしく百相の海のような。
「……ポール」

珍しく一八はその日、正常位を拒まなかった。