いつもより何倍も上等なホテルだったから、目覚めはずいぶん早かった。
上等なホテルらしくシーツもガサガサのコットンじゃなくて、しっとりまつわりついてくるもんだからアワレに貧乏な俺の肌がくすぐったがったってわけだ。
普段俺が目を覚ます頃には部屋を後にしてるあいつが、腕の中にまだ居た。正しくは俺が離すもんかとしがみついてた。
オオ、なんつって感動してると目の前で寝てても不機嫌そうで偉そうで、でもちょっと疲れたような顔がしかめられる。そろそろ起きちまうか?いい機会だから
じっくり拝ませてもらおうじゃねぇか。
普段のアノ極悪でスペシャルにエロい顔が、朝日の中でピュアな天使に変身するかと期待したが、やっぱりそうはいかねぇみたい。ガキでもねぇのにまたギンギ
ンに勃ちそうになるぐらい、その寝顔は悪魔的に(そういやこいつ本当に悪魔だった)エロい。特にちょっと苦しそうに寝てるのがエロい。
「………起きたか、」
そのエロい悪魔がむっつりと目を覚ます。瞼がむくんでいるのが少しかわいい気がした。泣き腫らしたって顔であるはずもねぇから、もともと寝起きがよくない
んだろ。
でもこのセリフ俺が言うべきところじゃねぇのか?ま、いいけど。
「起きた、ついでにこっちもバッチリ」
どうせ下半身はまだまだもつれあってるから、一八にもわかってんだろ。グッと腰をくっつけてやると、
「………フン、まるで獣だな」
ボソッとした声はもしかして、アクビまじりか?ってくらいにほんわりしてる。ほつれた前髪がパラパラしたデコへチュッとキスをすると、嫌そうに睨まれた。
ケツ舐めたって本気では怒らない、呆れるだけの一八が嫌そーにするのがなんだか嬉しい俺。
寝起きの一八の半眼がたちまちギラリと光って、俺のムスコへ少し冷たい手が伸びた。寝ぼけてるんだろうにその手の動かし方はどんなビッチより確かで、俺を
知ってる。
「昨日搾り尽くしてやったのにまだ足りんのか」
俺の裸の胸へ乗り上げて、一八が笑った。右手は休み無く俺のムスコをギュウギュウからかってて、コレってアレか俺が本気になるのか確かめてんのか。
胸毛を恋人がするみたいにくるりと絡めては遊んでる、こんな甘ったるい事しながらも目が違うんだよ、目が。真っ赤に光って怖いってんだよ。
目覚めのデビルは小悪魔なんてかわいいもんじゃない。朝飯代わりに俺を食う気満々。
いや、ちょっかいかけた俺も悪ィぜ。ギンギンだったし。でも何も朝から一戦やろうなんて思っちゃいなかったんだけどよ、こうギラつかれると…スエゼンって
まったく日本にはいい言葉がある。
俺はシーツの中をゴソゴソやって、俺の上へ乗っかった一八のヒップを掴む。硬いがその分締りが抜群ってのは頭より先に昨日の俺が実戦で知ってるぜ。
指を一本突っ込んでみると、昨日ズコバコやったせいでちょっと熱っぽい気がする。アナルはやわらかくはなってたが決して弛んじゃいない。むしろキュンキュ
ンうねって俺の指を引きずり込もうとしてる。ああ怖ぇ。入れる穴あるとがわかるなりさっそくムスコが疼きだす。そのうち赤いタマが出るまで俺ってこいつに
搾り尽くされそう。
やる気を出した俺に一八があの睨み下ろしのよく似合う目元に皺を作った、じじくせぇ皺じゃあなくって、キュートでな笑い皺だった。
むんずと一八の尻を鷲づかみにして、開く。いいよな、どうせ昨日ヤッたのそのままだし。
突っ込まれるってある意味絶体絶命だってのに、この悪魔は今にも腕組みでもしそう。余裕綽々、俺のはデカいし、太いのわかっててコレだから嫌になるぜ。
フフンて、見慣れたその笑顔がまたそそるっつーか、泣かせたいっつーか。ヤッてて泣いた事なんかみたこと無いけど。
「そんなに足腰立たなくされたいのかよ、」
「貴様に出来るか?」
お、言ったな。
「よし、ギブアップ無し、勝負だ一八」
まさか朝から抜かずの三発イけるとは思わなかったぜ…俺もまだまだ若いっつーか、一八の尻がすげぇってか。
さすがに一八も俺も忘れたいところだけど五十手前、風呂を一緒に使っても無言だった。勝ちだな、俺の。
チェックアウトの瞬間に他人って顔をするのが一八らしいけど、かわいくないのも確かだ。
わざわざ俺がついてって名前を呼んでも、知らん顔。俺としてはもう少しボインいや余韻を楽しみたいわけでだ。
「一八」
「………」
「かずやぁ」
「………」
あのカッコイイ紫の燕尾服じゃなくって、ジャケットにスラックスの後姿はいつもならもっと颯爽としてるはず。
普通ならわからねぇだろうけど、腰をかばってるのが俺にはわかった。
なんか嬉しいし、チョッカイかけたくなる。
ホテルの外は俺に優しい歓楽街じゃなくって、いわゆるお上品なストリートで俺は浮きまくり。なぁ、待ってくれよ。飯ぐらい食おうぜ(奢れって、金持ちは)
一八は俺を振り切ろうとはしてないらしく、ただ俺を無視して歩くだけ。走って捕まえられない距離でもねぇが、それはなんか負けな気がする。
俺って今たぶんストーカーみたいに見えてるんだろうか。だが俺も男、なんとしても振り向かせてやるぜ。
しばらく三島一八から考えられるあだ名を頭の中で並べてたが、ふと思いついて呼んでみた。
「………My Blueberry Pie!」
ぴたり、と一八の脚が止まる。振り返った。俺は待ってましたと駆け寄って、勝ち誇って笑う。
「………気色の悪い呼び方をするな」
サングラスの奥で一八の目が光った、怒ってる?いや、これはどっちかってーと…
「ヘヘヘ、呼ばれたのが自分だってのはわかったのかよ」
「………やかましい」
一八が再び歩き出す。もちろん俺も並ぶ、今度こそ一八は俺を振り切ろうとはしなかった。腕までは当たり前だが組ませる気はないようだった。俺は気にしない
けどな、そういうの。
「………甘くて酸っぱいってな、」
小さい声で言ったってのに、一八の耳は地獄耳で、ズドンと切れのいい肘鉄が俺の鳩尾へヒット。息が止まるぐらい痛いが、肘鉄ってところがなんてカワイイこ
とをやらかすんだとむしろニヤケちまう。
俺の粘り勝ちで一八にたっかいカフェで奢らせた朝飯は、もちろん胸焼けするほど山積みのBlueberry Pie
やられっぱなしじゃ絶対に終わらない女王様は、勝ち誇ったようにコーヒーをすすった。