二人が出会ったのと、二人が裸な事、それらはとても当たり前につながる。

みきりみきりと背中で嫌な音がしたな、とポールが感じた時にはもう遅い。
形容しがたい、悲鳴のような裂音とともに二人は落下した。
二人と言うのはポールと、それからポールを今にも銜え込まんとその身体へ跨っていた一八で、
二人は当たり前に裸であった。
そして落下した、と言うのは、
つまりは二人が乗っかってセックスをしていたホテルの薄いベッドが真っ二つに折れたのだ。
二人合わせての体重と、ホテルのグレード、それからベッドの広さこの三つの折り合いがどうにもつかなかった、だから折れただけのこと。
「おわっ」
「!?」
二人とも共に方向は違えども武道を極めている。お互いサッと身を返してホテルの冷たい床へ難なく落ち着いた。
あまりの事に二人とも無言となった。沈黙が降りる。
そんな中ポールの目は一八へ注がれていた。
(なんて顔してんだ)
一八の視線は真っ二つへ折れたベッドへしげしげと注がれていた。純粋に、
(こんな事もあるもんだな)
そう驚いているようで、薄く開かれた唇がなんだか子供のようだとポールは髭のまばらな顎を撫でてニヤついた。
しかしニヤついてばかりもいられない。一八はさっさと立ち上がると、一人点いた火を半ばもみ消している。

「…気が削がれたな」
言葉に温もりも、相手への気遣いもない。あるのは自分の都合だけ。いかにも三島一八らしい物言いだった。それに対してポールは普段気を悪くする事はあまり ない。らしいなぁと恐竜のごとくの鈍感さで笑い流すか、がっと熱く怒ってあっけなく発散させてしまう。
セックスは中止。ならばポールに用は無いとばかりにバスルームへ向かいかける一八を、ポールは自分でも驚くほどの声で呼び止めた。
「ストップ!」
「……なんだ」
「ベッド程とは言わねぇが、こっちの椅子も具合は悪く無いぜ?」
床へ裸のままどっかりと胡坐をかき、片目をつむってポールは手招きし一八を呼ぶ。一八はフンと腕組みをして似合いのポーズ、冷たい一瞥をくれて、
「そんな萎びたものが、俺へ入るとでも思ってるのか」
ポールははちみつ色の眉をハの字にし、自分の胡坐の中心にて多少しんなりとしたペニスを確認したが、自信満々に片目をつむってみせる。
「お前が面倒みてくれりゃ、すぐにでも」

ふん、
一八はまた鼻を鳴らしてポールを見下ろした。今度のふん、は幾分面白がるような響きがあって、なにより一八がポールへ向かって歩いてくる。
そこまできてようやくポールは自分の誘いが事を成したことを確信した。

「…このボロホテルの、床ブチ抜いてやろうぜ」
「フン、出来もせんことをほざくな」

裸で、しかも二人離れて少し経つ。ポールと向き合うような格好に膝へと降りた一八の身体はひんやりと冷えている。自分の腕へと戻ってきた身体を強く抱い て、ポールは青い目をきらきらさせて笑う。情熱的にがぶりと大きく口を開けて、しかし親猫が子猫へするような甘噛みを肩口へ与えながらポールが放った戯言 は、一八の気分を浮き立たせた。
気が乗った一八のあだあだしさといったら、ポールが明日足腰大丈夫かしらんなどと考えてしまうほど。
気合を入れてお相手せねば首をへし折られそうだし、
気合を入れすぎれば骨と皮になりそう。


ともあれ先ほどとは立場が逆、今度は一八が挑発する番となった。
もちろんポールに残されているのは、その挑発というムチの入った一八という荒馬から振り落とされぬよう、ただがむしゃらにするだけ。

(なにも難しいことじゃない、ただむちゃくちゃに楽しむだけだ。二人で)
大きく息を吸い込んで、ポールは一八のわき腹へ手のひらを這わせる。