あー、もう。
そう言ったのは思ったのは髪の毛をかき上げてオーマイガッしたのは、
何度目か忘れた。
(あー、もう)
ポールは白い歯を見せて笑う。
久しぶりなのだから思う存分めちゃくちゃにしてやろうと意気込んでいたポールは、それ以上にめちゃくちゃな一八をなだめる側へ回っていた。
「なんで、んっ、んで」
何度もなんでなんでと繰り返す。
早く入れろとねだっているのだ。ポールの首へ太い、けれど毛の薄い腕をガッチリ回してかじり付き、耳元で繰り返し繰り返しせがんでいるのだ。
だのにポールがまだだとなだめるので不満で一杯、半ば泣き出しかかっている。
「なぁっ、ポール、早く」
「バカ、まだだって」
まぶたにキスをひとつ。ポールがよく一八に言う事を聞かせる時にやる手だった。それでも腕の力は弛まない。ポールはため息をついた。
入れたいのはポールだって山ヤマだ。けれどまだ一八がしがみついているせいでろくにアナルを慣らせていない、ポールのペニスを挿入して耐えきれるかどうか
ははなはだ微妙なところ。なんとかジーンズと下着をまとめて脱がせて、少し扱いてやったまで。
「大丈夫だってんだろ」
「……ふー…」
わかったわかったとポールが今度は額へキスを落とした。もう一つ。
ようやく腕からゆるりゆるり力が抜けて、一八の膝を掴んでポールは左右ヘ脚を割り開いた。
光源は月明かりのみ、アナルへ目を凝らす。と、
「おい、カズヤ」
「………」
咎めるような視線に、一八は答えない。顔をふいっと背けて唇を尖らせている。
「オイ、こんな…」
「……」
そこへ指を這わせかけて一時停止。戻す、一応の無いよりマシという具合だけれどそれなりに舐めてから再び。
触れるなりひくりと蠢き、第一関節をすんなりと飲み込むそこ。酷く熱をもっていてポールの指を引き込もうとしていた。
「アナが真っ赤じゃねぇか、カズヤ。…こんな、熱持ってるぜ」
驚きに声が上擦っている。月明かりにも一八のアナルは酷い具合だった。襞のひとつひとつがぷっくりと膨らんで赤く腫れ、熱を持っている。ポールは一瞬夜遊
びをうたぐる。ぐるりと中をかき回したのも一度で引き抜いた。
一八が不満そうに鼻を鳴らす。しかしポールは問いただすように金色の睫毛越しに見つめ続けた。言わねば続きはないぜとニヤケを吹き消した顔で脅しをかけ
る。
一八は小さな小さな声で、ポールの視線に根負けしたように呟いた。
「……だから、大丈夫だって言ったろ」
「自分でヤったのか」
「……」
うー、小さくポールの耳へ唸り声が届いた。ポールは本日幾度目かの舌なめずり。ムズムズと髭が芽吹くように顔がゆるんでいく。
自分が今日帰ってくるというから、万全も万全な状態でベッドで待っていた一八。カモネギどころじゃない。鍋に入って着火を待っていた。
(これだからこいつは…そそられるってもんだ)
「それで、カズヤ?次はどーすんだ」
「……」
ポールは一八の唇が尖るのを見つめる。また、うー、と言うだろうかの期待を込めて。
しかし一八は何も言わず唇を尖らせたまま、自分の膝裏へ腕を差しこむとのろのろと抱え込み、アナルへ両中指を差し込むと微かに震えながら開いて見せた。
その間ポールは何も言わない。ただ一つ、ごくりと喉を鳴らしただけ。しかしその微かな音を聞きつけた一八は更に真っ赤になったアナルを広げていく。
「……それで?」
既にポールの声も上擦っている。既に刺激を加える必要もなさそうなペニスを取り出して、二三扱いてから一八としっかり向き合う。
ポールが窓を背にしたせいで影が生じ、月明かりが一八の顔を照らさない。それでもポールには一八の顔が隠しようもなく真っ赤なのが見えている。
目をかたくつむって、唇も噛み締めていた。
(かわいい)
一八が自ら広げ、導いたアナルへ熱く脈打っているペニスの切っ先を押し当て、ぐるりぐるりと存在感を示す。一八がまた唸った。たまらないのだ。
「……教えたろ、カズヤ」
顔の側に唇を近づけてポールが尋ねる。一八がぎゅっとつむっていた目を開いた。
「………」
「どうした?」
ニヤケ顔を止められない。顎を引き、ポールは腰をゆるゆると動かしながら意地悪く尋ねた。一八はまだ唇をほどけないでいる。
「……」
一八が首をもたげた。唇をほどく、聞き逃すまいとポールが顔を近づけた。しかし耳を迎えたのはあらかじめ誘うにはこう言うんだと教えてあった単語ではな
く、丸ごと粒の揃った歯にかじられる。
「ツッ」
ポールが身を退きかけると、いかにも切羽詰って、感極まって、いじらしい、
(…うるうるするなよ、かわいいから)
うるうる。かわいい。なんとも男には似つかわしくない単語だったが、ポールはそれで十分に表現しきれていると思ったからよかった。
そしてただ耳たぶへかじりつくしかなかった、そんな一八のお招きに応じる事にしたのだった。
「う――…ッ!!ッ、ゆ、びっ…!!ゆび、まだ、うう――…っ…!!」
「ああ、まだ指抜いてなかったのか。どうりできつい筈だぜ、なぁカズヤ…come inside you?」
一八は何も言わず、アナルから指を抜くとポールの背中へ腕を回し、思い切り肩へ噛み付いてやった。
ベッドが半壊するまで愛しあおう。