月のように満ち欠ける、お前のなんと底深いことか。


一八が長いキスにとことん弱いのを知っているから、ポールは長いキスが好きだ。
舌を絡めるうちにどんどん力が抜けていって、自分の手にかかってとろとろに蕩けていく一八を見るのが好きだ。
(あーあ、なんて顔してんだよ…まったく)
おぼれそうだとポールは歯を見せて暗い部屋にひとり笑った。
自分より一つ年上とは到底思えない、無我夢中でポールの身体へしがみついてくる男がかわいい。
かわいくてたまらない。
鼻にかかった声も、
脚を絡めて早く早くと擦り付けて来る腰も、
今も頬を撫でていたポールの手、指へとむしゃぶりついている口も、
かわいくてたまらない。
(タマモノだな)
舌なめずりを一つ。
こんな風にしたのは他でもないポール本人だった。同じ道場で肩を並べて修業をするうちちょっかいをかけて、あれこれといけない遊びを教えたのはポールで、 それに一八はただ耽った。もっとこうすれば気持ちがいいと、ポールの導くままにみだらになった。
かわいくてたまらない。
今もこうやってポールの帰りを待って、生身のポールを抱きしめるなり身体へ鼻を埋めて匂いで肺をぞんぶんに満たし、
くらくらと酔っている。
「しないのか」
「するさ」
甘く鼻を鳴らして一八が不満そうに問いかける。その問いかけかたも駄駄をこねる子供のようだ。
ポールは答えながらツナギをもろ肌へ脱いだ。インナーを襟首が伸びるのもかまわず乱暴に脱ぎ捨てる。そのまま一八へ覆いかぶさると、首筋へと顔を埋めて耳 を軽く噛んだ。力加減の雑さがポールで、痛みを感じたのか一八が身をよじる。
「うう」
「痛かったか?」
「う」
頷きかけて、一八は横へ首を振った。そんなのどうでもいいと言いたげにポールの汗ばんだ首筋の匂いに夢中になっている。
「オレの匂いが好きか」
「別に」
短い返答は素っ気無く振舞おうとする一八の努力が見えたが、そんなものポールにとってはかわいいの一言に尽きる。
わざわざ肩を大げさにすくめ、身体を離そうとすると、
「う…」
思わず額を弾きたくなるような悔しそうな顔で唸っている。

(かわいい奴)

「わかったよ、ほら、したいようにしろ」
一八を手放してどさりと仰向けに寝転がり、ポールは手招いた。一瞬ぽあっと口を半開きにしていたが、たちまち獣の俊敏さでポールの裸の胸へと飛びつく。筋 肉に覆われた鎖骨へまずはがぶりと噛み付いて、手のひらは闇雲にポールの胸板をまさぐる。
「がっついてんな」
「おまえが悪いんだろ」
むっ、と口を尖らせた一八の顔は唇が少しまくれ上がった上に目が赤いので、
(エロいな)
ポールを喜ばせる。初々しいのも嫌いじゃなかったが、いっぱいいっぱいになってポールの身体を求めてくる一八は格別にかわいいと思っていた。
意図してやったわけでもなかったが、待たせた分熟れて、食べごろになっている。
「はむっ…、んむ、んん、…ふ」
ツナギのホックを外し、下着の上から待ちきれないといった風に一八はポールのペニスを食んだ。はふはふと犬のような鼻息、薄い布地がたちまち唾液で濡れ て、蒸れた熱気が一八の目の前をくもらせる。強い匂いにくらくらと視線を交差させながら、一八の指はおぼつかない動きで下着をずらし、はちみつ色がかった 陰毛を掻き分けた。
ぬらりと濡れたポールのペニスをうっとりと見つめ、一八はごくんと喉を鳴らす。大きく口を開けてかぶりつこうとしていた一八をポールは手のひらで押し止め た。それが不満でたちまち一八は不機嫌そうに、
「洗ってないだろ、臭うぜ」
などと言い出す。思わずポールは噴出しかけた。
(それが、今の今までウマソーに喉鳴らしてた奴のセリフかよってんだ)
くしゃくしゃと一八の髪の毛をかき回しながらポールは自信たっぷりに言い切った。
「洗わせてないんだよ、嬉しいだろ」
「う」

ポールは中指でチョイと手招く。ぺろりと唇を舐め、舌を鳴らした。
「しゃぶってていいからケツ向けろよ、久しぶりだ。禁欲させてたからな、ケツも締まってるだろ」
(かわいがってやるって言ったからな)

すっかり期待にうずうずしながらも、でもだのそんなのだの呟いている一八。
(かわいい)
けれど、
(乱れてからが最高なんだ)
既にポールのペニスを扱きながら顎を引いて視線を左右させている一八もかわいい。
尻を舐められ、後で聞いたら舌を噛み切りたくなるような事を口走る一八は、もっとポールの好みだった。