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・覇王孟徳、偉業を達成した晩のこと   千里行前夜。



簡単に言ってみれば、曹操は狙っている。


















「ふん…今日も見事な尻をしておる」
夏侯惇の尻を、狙っている。
「あの尻を掴んで、思う様に儂の肉棒で突き上げてやりたいものよ」

…狙っているだけでなく、口に出している。









では曹操は男色なのか、と問われれば答えははっきり『否』である。むしろ女好きで有名
な位に色好みで、戦が終わればその足で妾の家に向かうこともしばしば。
「曹操殿は大した色狂いよ、」
と、人は言う。









(色に狂っている訳ではないのだ)
曹操は一人、夜更け酒を飲む。
先程まで褥を共にした女達は既に帰したので部屋は耳が痛い程静かだ。
「儂ともあろうものが、ずいぶんと手間をかけたものよ」
杯を掲げて、月にささぐ。
胸はじん、と熱い。



曹操は誓いを立てていた。
勿論王としてではなく男としての誓いである。

「今宵で1000人、老いも若きも太きも細きも、皆それぞれに儂の糧となった」
1000人、口にしたら一際感慨深い。
「長かったぞ…夏侯惇よ」
酒を飲み干してふらついた様子もなく立ち上がって窓を開け放ち、張りのある声で高らか
に宣言した。
「今宵こそ、思う存分まぐわおうぞ!!」

1000人抱いたら、夏侯惇を抱く。
誓いを果たした、曹操は夏侯惇の屋敷へと馬を駆る。
速く、
速く、
速く、

卑猥な道具をこれでもかと馬に積み込まれた馬は、夜霧の中を駆け抜けた。
























「こうやって向かい合って酌み交わすのも久々ではないか、のう?」
「…あぁ」
「元譲よ、最近町中ではあや取りという紐遊びが流行っておるそうだ」
「…ほう」
「腕のよい刀鍛冶を見つけたのだ、今度研ぎに出しにゆこうぞ」
「う、うむ」

曹操は普段よりも饒舌に語り、酒杯をあけながら夏侯惇を盗み見る。もはや意識は朦朧と
し、やっとのことで「あぁ」だか「うむ」といった相槌を返しているその様子にくくく、
と声を殺してほくそ笑んだ。





――だいぶ効いておるな。
認めたくはないが、曹操と夏侯惇の間には歴然とした体格差がある。自分の欠点を受け止
め、その上で最大限の効果を上げる打開策を考えられるのが姦雄、曹孟徳である。
勿論強姦するつもりは毛頭無い。快楽に流して最終的には同意させることは容易いが、そ
れでは後々に支障が出てしまう。
それならば、こちらからでなく夏侯惇の側から行動を起こすように仕向ければよい、曹操はそう考えた。




――つまり、盛ったのだ。
それもとびきり効果のきつい催淫剤をたっぷりと。
おそらく今夏侯惇の体は風がそよげば跳ね、髪の毛がかすめれば震う、そんな状態になっているだろう。時折ごまかすように唇を噛んだり、太ももをつねったりと必死で我慢しているのも曹操には容易く見て取れる。
「――それでな、元譲」
さも話に夢中で、と言わんばかりの様子で夏侯惇の太ももに曹操はそっと手の平をのせた。使い込まれた筋肉がしっかりと張って弾力がある太ももをさりげなく(しかし何度も)手の平で撫で回す。

「はッ、あ」


びくん!

面白い程に夏侯惇の肩が跳ね上がった。明らかに様子がおかしいがそれでも夏侯惇は必死に平静を装い続ける。
眉間にきつく皺を寄せ、血色をうっすらと浮かべた瞼がぴくぴくと痙攣している様はどこか、淫らだ。



「それでな、ある男が恋をしたのだが…なんと相手が男だったそうだ」

夏侯惇の肩に自分の頭を持たれかからせつつ、曹操は髪の毛で首筋をそっと擦り上げた。

「うッ、」

堪らずに低くうめいて夏侯惇がのけぞった。首筋にうっすらと汗を浮かべ、息と脈が荒いものになる。曹操は構わずに夏侯惇の膝頭を手のひらで掴み、薬指と小指を僅かずつ内股の辺りに這わせていく。

「も、孟徳…、」

「なんでもその男が言うには、好いた相手のことを思うと身体が熱くてたまらなくなるそうだ」

弱々しく曹操を呼ぶ夏侯惇を無視し、真っ直ぐに曹操は見据えた。










「のう、元譲よ…お前は、そういうことはないのか?」







吐息が触れる程に顔を近付け、低く押し殺した声で問う。

「何を、言って…」

「儂はある、そしてお前が思うことと儂の望みは…同じだ」
夏侯惇の言葉を曹操は非情にきっぱりと否定し、夏侯惇の手を掴んで既に服の上からでもわかるほどに勃ち上がった曹操の性器へと導いた。その手にしっかりと熱と固さを感じ、
弾かれたように顔を上げて曹操を見上げた。いつも見下ろしていた筈の彼は今、膝立ちになって自分の足の間に割り込んでいて、欲情している――そう、自分と同じく。
「お、お前もか、孟徳…そしてこの感情、熱を…愛と…?」
夏侯惇の喉仏がことんと一つ上下する、確かめるように夏侯惇は自分の胸に手の平を当て苦しげに目を伏せた。力無くしかししっかりと首を横に振る。振り払う。
「まさか…そんな筈はない、そんな」

逃れるように夏侯惇が身体をよじった所を曹操は床に組み伏せ、命じる。

「認めるがいい、自分の感情を。おまえが望むなら、叶えてやろう」

すなわち、「抱かれたい、あいしている」そう言えと命じた。

「俺の、望み……」
「さぁ、お前が最も思う人間の名前を呼ぶがいい、夏侯元譲ッ!!」















――決まった。
自分に酔いしれる曹操を前に、観念したように夏侯惇の片目が伏せられ、かさかさに乾い
た唇から吐息のように息声をもらした。
「――か、」






























「……関羽に、抱かれたい…」













「へっ?」
曹操は間抜けな声を上げて、硬直した。夏侯惇はみるみるうちに首筋まで真っ赤にしなが
らなおも夢見るように呟いた。
「気にくわない奴だったのに、あいつを思うと夜も寝られないんだ…まさか、恋だったとはな…」


「げ、」
元譲、
曹操が伸ばした腕はあっけなく宙を掻いて床に落ちた。
「この、あいつの邪魔臭い髭を引っつかんで首をねじ切りたいような気持ちも、」
夏侯惇が左手をゆっくりと握る。その動作を眺めやる眼差しもまた、狂おしいまでに切ない。
「あいつのはらわたを引っ張り出してぴくぴく動くさまを笑いながら見ていたいと言う気持ちも…」

身体の芯からぞくぞくするような悪寒に夏侯惇は身震いし、恍惚のため息を一つ。そして曹操に向き直るといっそ寒々しいまでの笑顔を浮かべて、














「すべて、あいつへの恋慕だと言うんだなッ!?」

そうだな、孟徳!!
と、断じた。














「え、」
「あぁ、身体が熱くてたまらん、これも恋か」
「あ、」
「すまない孟徳、お前が関羽を思う気持ちはよくわかった」
「いや、」
「だが、この想いだけは譲れん!」

ばさり。
紺色の上衣をはおると夏侯惇はすっくと立ち上がり、へたりこんだ曹操を見下ろした。
「孟徳よ、俺は今から関羽に抱かれにゆく。止めるな」
「い、今からかッ!!」

そう、ちょうど今、関羽は劉備の元へ戻るべく関所へ向かっているのだ。
「関羽を追う、俺はあいつにこの想いを伝えねばならんッ!!」























「やめよ元譲!関羽を追ってはならぬッ!!」
曹操の悲鳴が夜気に悲鳴となって
響き渡った。
「それはできぬぞ孟徳!!俺はあいつを追わねばならぬのだ!!そうでなくば、この思いをどうすることができよう!」
「げ、元譲!!」





















後に関羽千里行と呼ばれる。
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