SKのSK0様から原稿応援邪鬼様頂戴いたしました(*´▽`*)
わーいわーい!!もうこちらの邪鬼様のかあいらしいこと、かあいらしいこと!
どのコマでも邪鬼様への愛が満ち満ちています。ありがたやありがたや。この邪鬼様のスネかたのかあいらしさよ…
おかげで原稿フルスロットルです。アップ了承いただけてほんに嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたしまーす!
















『邪鬼様に小さくなってい ただけば、こんなに大きいの要らないのでは?』:1010

「中国め…中国め…」
青紫色のオーラをその身の周りにまつわりつかせた影慶を、卍丸は遠巻きに見守っていた。
同じく遠巻きに見守っていたセンクウは透けるブロンドの睫毛をふさふささせて肩をすくめる。
「なぁ、アレなにやってんだ」
「おそらく先日のホットケーキの件だろう。邪鬼様に差し上げるホットケーキが」
「ああ、あれ中国産だったっけか。別にかまやしねぇだろうに、ただの人って訳でも無えし」

「貴様ッ!!」
遠巻きにしていた卍丸のモヒカンがふわさと揺れるほどの風圧で、影慶が声を張り上げた。
何か昏昏と考えていたのだろうその顔色はいっそう悪く、目隈はくぼみほど色濃くしている。

「中国め…」
ギリ、と爪を噛んで影慶が低く唸った。白目が青いほど白く、ギラついている目つき。
爪を噛んだ直後昏倒する影慶。青ざめる卍丸、眉をひそめただけのセンクウ。
「お前ーー!毒手なのに爪噛んでどうする!!!」
「タンカだー!!誰かタンカ持って来い!!」










「ボウル」
三号生のお兄様方が二人がかりで運んできた、成人女性の風呂桶ぐらいの大きなボウルが、羅刹の前にドンと置かれた。
「粉ふるい」
同じく、小豆洗いが使うような大きな粉ふるいが運ばれてきて、羅刹の逞しい腕にわたる。
困惑で顔を一杯にした羅刹だったが、影慶の鋭い目が至近距離からジッと睨んでいるので無言のまま、薄力粉をそのふるいへと入れていく。
大きな大きな粉ふるいを、腰を軸に全身を使って揺すり、ボウルの中へきめ細やかな粉を降り積もらせた。しんしんと細かな粉が飛び散り、羅刹は鼻をぐずつか せる。しかしここでクシャミなどしようものならあの毒手でズブリとやられてしまうだろう。羅刹は鬼のような顔つきで耐えた。

ある趣味の人間ならば「グッ」と来るような、ギャルソンエプロンを身につけた羅刹。羅刹は額に汗を浮かべて大きなボウルを、今年の一文字を書きあらわすの に使うあの大きな筆のような大型の泡だて器でクルクルとかき回す。

「よし、ベーキングパウダーを入れろ」
必死の羅刹をすぐそばの椅子に腰をかけて、影慶は冷ややかに見守っている。三号生のお兄様方は影慶の指示によって右へ左へ素早く動いていた。
ボートのオールのような小さじでもって、ざぶざぶとベーキングパウダーが入れられて行く。

『邪鬼様へホットケーキを!』

彼等の輝かしい思いは一つ。
一人必死に汗をかく羅刹は、軽やかに逃げた卍丸とセンクウを深くうらむ。






その日、大豪院邪鬼は目の前に運ばれてきたホットケーキに胸を躍らせた。
それはふっくらと膨れ、バタとハチミツのしたたるホットケーキ。なおこのバタはお兄様方が捕らえた虎を追い掛け回して走らせて作った、出来たての新鮮その もの。ハチミツは一号生を何名かオトリにして働き蜂を追い出し、ソノ隙にお兄様方が集めたきんいろの、レンゲ蜜。

「これだけの量、作るのも大変だったであろう」
あろう、と言いながらも既に大きなフォークとナイフを持っている。鼻にふんわりと、小麦のふくれたいい香りがしていて腹がクウとかあいらしく鳴った。
影慶が粛粛と伏せていた頭を上げて、
「いいえ、邪鬼様に安全なものを召し上がっていただきたく…」
「貴様は本当によく気のつく男だな」
影慶がニマリと笑った。知らないものがみれば、幽霊の情念こもった笑みと間違えそうなものだった。
「ありがとうございます」
おおぶりに切り取って、邪鬼がホットケーキを唇へと運ぶ。したたったハチミツが邪鬼の袖へと落ちた。ア、と三号生のお兄様があやうく声を上げかける。
影慶がニラミを利かせて黙らせた、洗うのは自分なのだからと。

「む、うまい」
さざなみのようにワァ…と歓声が上がる。皆皆ひれ伏したままに小さくガッツポーズをつくり、喜びを噛締めている。
上機嫌にポロポロとクズを落としながら邪鬼は三段重ねの極厚ホットケーキを次次に食べていく。残りが一段となったところでオゴソカに邪鬼は口を開いた、
「おかわり」

影慶は無言で手をパン、パン、と打ち鳴らした。厨房でググッと小さくうめき声が上がったようだったが、誰にも聞こえなかった。

ほどなくして極厚のホットケーキが数人がかりで運ばれてくる。邪鬼はウム、と頷いて、


「貴様等も食べぬのか」
「いいえ、俺達は十分にいただきました」


嬉しそうに食べる邪鬼様の御姿を。





次の日邪鬼様スイーツ係に任命された羅刹は酷く嫌がったが、
「貴様、邪鬼様がおやつを召し上がって喜ぶ姿が見たくないのか」
影慶に恐い顔をされてしまうと、頷かざるを得ない。謹んでギャルソンエプロンを今日も巻く。



「………厨房にいる俺には、邪鬼様の喜ぶお顔、見られないのではないか」
小さな疑問と共に。